更新日:2020/9/18

    テキストやイメージのヒントによって発想や想起をサポートするAI技術
    人間情報研究所

    ※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。

    開催中止となった『ニコニコ超会議2020』から注目展示を紹介

    新型コロナウイルスの影響で残念ながら中止となってしまった『ニコニコ超会議2020』。『ニコニコネット超会議2020』としてオンラインイベントは開催されましたが、実際には披露できなかった企画や展示が多数あります。ここでは、紹介できなかった研究内容と展示内容について紹介していきます。

    1. 使用している画像や図版は準備段階のもので、実際には使用されていないものを含みます

    滝内 邦弘(たきうち くにひろ)/ 小橋川 哲(こばしかわ さとし)

    NTTメディアインテリジェンス研究所 主任研究員

    「ニコニコ超会議2020」において、NTTメディアインテリジェンス研究所(以下MD研)では、テキストやイメージによって発想や想起を支援するAIをテーマとした展示を予定していました。ビジネスやクリエイティブなど、さまざまな場面で人がスムーズに発想するためにはどんな支援が効果的なのか、チャットボットを使って検証していきます。

    発想・想起支援とは何か?

    「オリンピックで実施される33の競技名を挙げてください」と聞かれても、全ての競技をよどみなく挙げられる人は少ないでしょう。発想(想起)支援は、そのようなときに競技を思い出させることができるヒントを表示し、回答を促すというものです。
    ところでビジネスの現場では、グラフィックレコーディングというファシリテーションの方法が活用されています。議論や対話の状況を、グラフィックレコーダーと呼ばれる“人”が文字ではなくイラストや図(=グラフィック)によって可視化し、参加者の理解を助けるというものです。ひとつのグラフィックで表現することで、参加者に共通の認識が生まれ、言葉では伝わりにくいことも伝わりやすくなり、発想が拡がって議論が盛り上がるきっかけになるというメリットがあると言われています。

    また、このような発想支援の研究は、’90年代に盛んに行われていました。当時はテキストを元に発想させるものが主流でしたが、近年ではグラフィックを使って発想を支援する手法の可能性についての研究が見られるようになってきています。今回の展示では、本来は人間が行うグラフィックを用いた発想支援の役割(グラフィックレコーディング)をAIが担うことで、AIが人を導く将来の一端を紹介できればと考えていました。

    ヒントの出し方が異なる「おたすけキャラ」が発想を支援

    予定されていたニコニコ超会議2020は、発想支援AIを育てていくための第一歩となるステージでした。AIが発想を支援するにはどのような方法が効果的なのか、それを調べるためのデータを取得し、次のステップへと進めていくことになります。

    展示では、ある設問に対して答えを入力してもらい、ユーザーが答えに詰まったり、不正解が続いたりした場合にチャットボットが支援するというゲームを検討していました。最初の画面で設問を選ぶと、発想を支援してくれる「おたすけキャラ」がランダムで選択されます。おたすけキャラには、「こども」「教師」「博士」の3種類があり、それぞれヒントの出し方が異なります。

    「うまい棒の種類」「星座」「働く車」から設問を選択すると、おたすけキャラが自動的に選ばれる。キャラによって支援の方法が異なる。

    「うまい棒の種類」「星座」「働く車」から設問を選択すると、おたすけキャラが自動的に選ばれる。キャラによって支援の方法が異なる。

    不正解が続くと自動的にヒントを出す

    「働く車」と「教師」の組み合わせの例です。これは、「働く車の種類」を挙げていくという問題です。パトカーや消防車などの答えを入力して正解すると、そのイラストが画面に表示されていきます。
    答えに詰まったり、不正解の回答を続けたりすると、未回答の答えの中からチャットボットである教師がヒントを出します。例えば、「家庭や会社などから出るゴミを回収し、ゴミ処理場まで運ぶクルマです」といった具合です。ちなみに答えは「塵芥車」ですが、もともと知識があれば、「あれを忘れてた!」という具合に想起を支援され思い付くというわけです。
    こどものおたすけキャラも同様に、関連した言葉を何となくつぶやいてくれます。「星座」のクイズの場合、例えば、「へびつかいって笛を吹いてへびを操るんだよね」とつぶやいて、関連する星座のヒントを出して回答を促します。あらかじめ正解が決まっている今回の設問に対しては、オーソドックスかつ強力な支援方法だと言えます。

    おたすけキャラに教師を選んだ場合、答えに詰まったり、不正解が続いたりすると、チャットボットがヒントとなる説明文を表示してくれます。

    おたすけキャラに教師を選んだ場合、答えに詰まったり、不正解が続いたりすると、チャットボットがヒントとなる説明文を表示してくれます。

    こどものおたすけキャラは、出ていない答えに関連するセリフをつぶやくことでヒントを出してくれます。

    こどものおたすけキャラは、出ていない答えに関連するセリフをつぶやくことでヒントを出してくれます。

    4象限グラフにグラフィックを配置していく

    次に「うまい棒の種類」と「博士」の組み合わせの例です。駄菓子として有名な「うまい棒」は、多種多彩な味が販売されていますが、その種類を回答してもらいます。正解すると先ほどと同様にグラフィックが表示されますが、ここでは画面に軸が表示され、答えたグラフィックが適切な位置に配置されます。栄養価が「高カロリー/低カロリー」、パッケージの色が「暖色/寒色」といった具合です。
    これは議論を俯瞰して整理するグラフィックレコーダーのテクニックを参考にしてに考え出した表現方法です。想起支援技術の検討という意味では、このグラフィックをヒントに、別の味を想起させるという仕組みに応用できるのではないかという仮説となっています。
    さらに、それでも答えを間違えたり回答に詰まったりすると、軸の種類を変更してサポートします。例えば、先ほど「暖色/寒色」という色の軸を「甘い/しょっぱい」という味の軸に変更するといった具合です。相手の顔色を伺いながら軸を変化させ、想起につながる適切な軸のグラフを探索していきます。軸が変わることで、イメージの発想が変わり、新しい種類の味を思い浮かべる助けとなるのではないかと考えています。

    何問か答えが出た時点で、縦軸に「高カロリー/低カロリー」、横軸に色温度(暖色系か寒色系か)というプロットにイメージを配置してヒントとし、答えを促します。

    何問か答えが出た時点で、縦軸に「高カロリー/低カロリー」、横軸に色温度(暖色系か寒色系か)というプロットにイメージを配置してヒントとし、答えを促します。

    不正解が続くと、横軸が味に変わり、それに合わせてグラフィックをプロットし直します。軸を変えることで、「甘い味と言えば……」という発想につなげていきます。

    不正解が続くと、横軸が味に変わり、それに合わせてグラフィックをプロットし直します。軸を変えることで、「甘い味と言えば……」という発想につなげていきます。

    AIがビジネスや学習をサポートして生産性の向上につなげていく

    現時点では、単純な条件判定に基づく発想支援内容にとどまりますが、研究開発を進めることで、写真や図をインターネット上から検索したり、AIが独自にグラフィックを描くようになるという可能性も考えられます。そのような技術を実現するためには、会議の目的を理解し、交わされた議論や対話を適切に判断して可視化するという能力がAIに求められます。

    これらの技術が将来的に、ビジネスシーンで使えるようになった場合には、現在グラフィックレコーダーが行っている作業をAIが肩代わりすることになります。人間が行う場合には、会議の主催者とグラフィックレコーダーが会議の目的を共有したり、ファシリテーションの方法を打ち合わせる必要がありますが、AIが代行するようになれば、会議の目的などを入力するだけでそれに沿ったグラフィックレコーディングを行ってくれます。それによって、あまり発言しなかった人から発言を引き出したり、活発でない会議を発展的な場に変えたりすることが期待できます。

    また、教育分野では、学習者個々に合わせた学習支援が可能になります。苦手分野を克服したり、カリキュラムの理解度、学習到達度を、その人に合った方法でサポートすることで教師の負担を減らしつつ、全体の底上げ(到達度)が見込めます。例えば、一般的な教え方では「国名と国旗を覚える」という課題が難しい生徒を検知したら、別の方法をAIがサポートして、覚える(目標達成)までさまざまな方法を試すというフローが期待できます。

    このように、発想支援AIを活用することによって、今までとりこぼされてきた少数派の人々への理解度を高めたり、参加者全員が一定以上の理解度で情報共有することにより、特定分野で突出した能力を持っているが他の分野の理解が不足していたために能力を生かし切れなかった人材が活躍できるようにするなど、組織やグループ全体の理解度、生産性の向上が得るといった効果が期待されます。

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