更新日:2023/11/30

    テラビット級無線通信をめざしますOAM-MIMO無線多重伝送技術
    NTT未来ねっと研究所

    概要

    テラビット級無線伝送をめざし、OAM(Orbital Angular Momentum︓軌道角運動量)多重伝送という新原理を用いた大容量無線伝送技術の研究に取り組んでいます。加えて、MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を用いることでさらに多重数を増加させるOAM-MIMO多重伝送技術を考案しました。また、サブテラヘルツ帯を用いて伝送帯域幅を拡⼤し、飛躍的な大容量化を実証しました。

    背景・従来課題

    引き続き増大する将来の無線通信需要に備え、NTTではテラビット級無線伝送の実現を目標に研究開発に取り組んでいます。無線通信の容量を増大するには、空間多重数の増加、伝送帯域幅の拡大、変調多値数の増加の3つの方向性があります。これらの内、NTTはサブテラヘルツ帯を用いて伝送帯域幅を拡大するとともに、OAMを持つ電波を用いた新しい原理(OAM多重伝送技術)により空間多重数を増加するアプローチを追求しています。

    本技術のアドバンテージ

    • OAM多重伝送技術とMIMO技術と融合し、多重数を飛躍的に増加
    • 広帯域でOAM波を同時に生成・分離するサブテラヘルツ帯バトラー回路により1mの伝送距離で1.44Tbit/s大容量伝送の実証

    利用シーン

    • 無線バックホール・フロントホール回線への適用
    • 光回線の代替・補完
    • 超高解像映像伝送

    解説図表

    技術解説

    ポイント1:OAM多重伝送技術とMIMO技術を融合し、多重数を飛躍的に増加
    異なるOAMモードの電波にそれぞれ信号を多重して送信しても、受信側で信号を区別し、分離できます(図1)。NTTは、このOAM多重伝送技術にMIMO技術を融合したOAM-MIMO多重伝送技術を考案しました。この技術を用いることで、多重数を飛躍的に増加できます。

    ポイント2:広帯域でOAM波を同時に生成・分離するサブテラヘルツ帯バトラー回路により1mの伝送距離で1.44Tbit/s大容量伝送の実証
    NTTは、バトラーマトリクスと呼ばれるアナログ回路(以下「バトラー回路」)を用いて複数のOAM波を多重処理するアプローチをとっています。 バトラー回路は、電波の位相を高い精度で制御する必要があります。本研究では、広帯域にわたって位相の進み方を均一に揃えることが可能な位相回路を考案しました。さらに、性能劣化要因である回路の平面交差をなくすため、多層立体構造(図2)で設計し、位相回路と合わせて広帯域なアンテナ一体型バトラー回路の試作に成功しました(図3)。試作した回路は、8個のOAM波を同時に生成・分離できます。また、異なる2つの偏波でそれぞれOAM多重伝送を行うことで、2倍の16個の信号を同時に伝送できます。この回路を用いて電波暗室内で伝送試験を実施し、1mで1.44Tbit/sの大容量無線伝送に世界で初めて成功しました(図4)。これは、4K動画約35000本を同時伝送できる速度に相当します。

    用語解説

    空間多重
    複数のデータ系列を、空間的に独立な複数の電波を用いて、同時刻・同周波数帯において並列に伝送する伝送方法です。
    サブテラヘルツ帯
    おおむね100GHz~1THzにある周波数帯のことで、波長が数百マイクロメートルから数ミリメートルと非常に短く、強い直進性があることが特徴です。
    OAM(Orbital Angular Momentum)
    軌道角運動量。電磁気学および量子力学において電波の性質を表す物理量のひとつであり、位置座標とそれに共役な運動量の積で表されます。異なる軌道角運動量を持つ電波は相関がないため、重ね合わせても区別して分離することができます。
    OAMモード
    軌道角運動量を持つ電波の状態を分類したものであり、数字は伝搬方向に垂直な平面における電波の位相分布の回転数(整数)に対応します。例えばOAMモード1は、伝搬方向に垂直な平面において位相分布が1回転(360°)している電波を表します。
    MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)
    送信機と受信機の双方で、複数のアンテナを用いて通信品質を向上する無線信号処理技術。帯域幅の拡大や電力の増加なくスループットや通信距離等を大きく改善できることから、既にLTEやWi-Fiにも活用されている無線通信業界で注目されている技術です。
    バトラーマトリクス
    位相差を与えた電波を複数のアンテナ素子に給電できるアナログ回路で、ビーム制御やOAMモードの生成・分離に用いることができます。
    8K/16K
    従来のハイビジョン(HD)の8倍(8K)/16倍(16K)の解像度を持つ映像です。

    担当部署

    NTT未来ねっと研究所 波動伝搬研究部

    関連するコンテンツ