更新日:2023/08/07
近年、今この瞬間の経験にありのままに気づいている状態を実現するためのマインドフルネス瞑想が、Well-beingを高めることに貢献することが分かってきています。本稿では、この「ありのままの気づき」とは何かということを理解するために、マインドフルネス瞑想を構成する集中瞑想と洞察瞑想のうち、「ありのままの気づき」にかかわっていると考えられている洞察瞑想の心理・生理・神経メカニズムの観点から考えてみます。
藤野 正寛(ふじの まさひろ)
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
マインドフルネスとは、今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づいている状態を意味します。経験とは、自分の身体やこころの中で次々と生じている感覚や感情や思考のことです。受容的な注意とは、意図的に注意の範囲を特定の対象に絞るのとは反対に、そのような意図を手放すことで注意の範囲が自然に広がることです。ありのままとは、そのようにして広がった注意の範囲で生じてくる経験に対して、反応したり判断したり抑制したりすることのない態度のことです。気づきとは、それまで無自覚だったさまざまな経験を意識化することです。
近年、この状態を実現するためのマインドフルネス瞑想が、さまざまな心身の症状を改善したりWell-beingを高めたりするための情動調整方法として注目されています。従来の情動調整方法では、ネガティブな経験が生じた際に、意図的に、そこから注意を逸らしたり、それを変えようとしたり、抑え込もうとしたりすることが行われていました。しかし、マインドフルネス瞑想では、それを制御しようとする意図を手放して、それにありのままに気づくということが行われます。
実際、多くの研究で、ネガティブな経験にありのままに気づいていることで、うつや不安などの症状が改善することが示されています(1)。一方、ネガティブな経験にありのままに気づいているつもりで、無自覚的に反応や抑制をしてしまい、かえって不安や緊張が高まるなどの有害事象が生じることも報告されています(2)。これらを踏まえると、有害事象を減らしながら効果を高めるためには、経験にありのままに気づいていることが要点となることが分かります。そして、その理解のために、ありのままの気づきのメカニズムの解明が求められています。
私たちのグループは、ありのままの気づきのメカニズムを解明するために、マインドフルネス瞑想を構成する集中瞑想と洞察瞑想のうち(図1)、洞察瞑想に注目しました。集中瞑想は、特定の対象に意図的に注意を集中する技法です(3)。例えば、自然に生じている呼吸などの特定の対象を設定してそこに注意を集中します。しかし、強めの感覚や感情などの妨害刺激が生じると、注意はそれらに囚われてしまいます。そのことに気づいたら、注意を特定の対象に動かすことを試みます。それによって、注意を妨害刺激から離すことができます。これを繰り返すことで、一点に注意を集中する能力を高めることができます。しかし、特定の対象に注意を集中するだけでは、それ以外の範囲で次々と生じている経験に気づくことはできません。
これに対して、洞察瞑想は、次々と生じている経験から特定の対象を選び出すことなく、それらの流れにありのままに気づいている状態を維持する技法です(3)。この方法では、特定の対象を設定しないため、注意の範囲が広がり、次々と生じている呼吸や感覚や感情のすべてが気づきの対象となります。しかし、強めの感覚や感情などの妨害刺激が生じると、注意はそれらに囚われてしまいます。そのことに気づいたら、その刺激から注意を動かすのではなく、その刺激にありのままに気づいていることを試みます。それによって、妨害刺激が気づきの対象に戻り、その刺激に囚われていた注意の範囲が自然と広がっていきます。これを繰り返すことで、さまざまな感覚や感情や思考を、特定の対象とそれ以外の妨害刺激とに区分することなくありのままに気づいている状態を維持することができるようになります。
私たちのグループでは、この洞察瞑想の心理・生理・神経メカニズムを解明することで、ありのままの気づきのメカニズムを明らかにすることに取り組んできました。以降では、その中から、3つの研究について説明します。

私たちは、集中して課題を行う際に、視覚などから入ってくる課題に無関係な妨害刺激を無意識的に抑制しています。このような抑制には疲労が伴います。一方、マインドフルネス瞑想を実施するとこのような抑制が低下すると考えられてきました。しかし、これまでの研究では、マインドフルネス瞑想だけでなく集中瞑想や洞察瞑想が妨害刺激に対する抑制を低下させることを行動指標レベルでは確認できていませんでした。そこで、私たちは、妨害刺激に対する抑制の程度を評価する認知課題を考案して、集中瞑想と洞察瞑想が抑制に与える影響を検証しました(4)。
実験は、瞑想未経験者72人を、集中瞑想・洞察瞑想・リラックスをする3つの群に分けて実施しました。最初に音声インストラクション(5)を用いて30分の介入をし、その後質問紙でリラックス状態を測定してから、2つの課題を実施しました(図2)。課題1では、8人の表情顔が順番に何度も呈示され、その表情顔の中央に呈示されている文字の向きをできるだけ早く正確に回答してもらいました。この場合、表情顔は妨害刺激となります。課題2では、この課題1で呈示された8人の顔と、呈示されていない8人の顔に対する好意度を回答してもらいました。従来の研究を踏まえると、表情顔を抑制しなければ、何度も呈示された顔に対する好意度が高まると考えられます。しかし、表情顔を抑制すれば、そういった好意度の高まりはみられないと考えられます。
その結果、リラックス群では、課題1で何度も接触した顔に対する好意度が高まりませんでした(図3)。これは、課題1実施時に、妨害刺激に対する抑制が生じていたことを示しています。一方、集中瞑想群と洞察瞑想群では、課題1で何度も接触した顔に対する好意度が高まっていました(図3)。これは、課題1実施時に、妨害刺激に対する抑制が低下していたことを示しています。また興味深いことに、集中瞑想群では、課題直前のリラックス状態が高い人は妨害刺激に対する抑制が低下していたのに対して、リラックス状態が低い人は妨害刺激に対する抑制が生じていたことが分かりました(図4)。一方、洞察瞑想群では、そのような関係はみられませんでした(図4)。このことは、集中瞑想群では、リラックス状態の影響を受ける注意制御方略を取っていたのに対して、洞察瞑想群ではリラックス状態の影響を受けない注意制御方略をとっていたことが分かりました。



一般的なイメージでは、マインドフルネス瞑想をするとリラックスできると考えられています。しかし、瞑想研究の領域では、ありのままの気づきというのは、さまざまな感覚や感情や思考に気づいている状態であることから、単純なリラックスではないのではないかと考えられてきました。そこで、マインドフルネス瞑想がリラックスやストレスに関連する生理指標に与える影響が検討されてきたのですが、その結果にはばらつきがありました。その原因は、マインドフルネス瞑想を集中瞑想と洞察瞑想に分けずに検討していたためだと考えられます。そこで、私たちは、マインドフルネス瞑想を集中瞑想と洞察瞑想に分けて、それらが生理指標に与える影響を検証しました(6)。
実験では、瞑想未経験者41人を対象に、それぞれ30分の集中瞑想と洞察瞑想を実施してもらい(5)、それぞれの瞑想が瞑想前と瞑想中の心拍変動に与える影響と、瞑想前後の唾液中コルチゾール濃度に与える影響を検討しました。
その結果、集中瞑想時には、副交感神経の活動が増加していました(図5)。このことは、リラックス状態が高くなっていることを示しています。この結果からは、特定の対象に注意を集中することで、それ以外の感覚や感情や思考に振り回されにくくなり、リラックスできていた可能性がうかがえます。一方、洞察瞑想時には、興味深いことに、交感神経の活動が増加するとともに、コルチゾール濃度が減少していました(図5)。このことは、覚醒度が高くなっているにもかかわらずストレスレベルは低くなっていたことを示しています。この結果からは、洞察瞑想は単なるリラックス状態ではなく、さまざまな感覚や感情や思考に気づけているにもかかわらずに、それらに対して反応したり抑制したりすることが低下している状態が実現している可能性がうかがえます。

それでは、さまざまな感覚や感情や思考にありのままに気づいている際に、脳の中ではどのような活動が生じているのでしょうか。これまでの研究では、そもそも集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動の違いを明確には示せていませんでした。そこで私たちは、純粋な瞑想時の脳活動を抽出できる実験デザインを立案し、集中瞑想時と洞察瞑想時の脳活動を特定しました(7)。なお本研究は、私が京都大学大学院教育学研究科所属時に実施した研究です。
実験では、瞑想熟練者17人を対象としました。従来の集中瞑想と洞察瞑想の脳活動を比較する研究では、例えば、集中瞑想を6分、安静時を6分、洞察瞑想を6分実施するといったブロックデザインを用いて、その際の脳活動をfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴機能画像法)で測定するといったことが行われていました。しかし、私自身瞑想実践者なのですが、6分の瞑想ではなかなか最適な瞑想状態にはなりにくいことを実感していました。そこで、防音室で1時間瞑想を実施した直後に、MRI装置で6分間瞑想を実施し、その際の脳活動をfMRIで測定しました。また、1時間瞑想を実施すると、その後もしばらく瞑想状態が続くことを実感していたため、集中瞑想と洞察瞑想の実施日を2日に分けて行いました。
解析に関しては、脳領域間の活動の相関関係を検討する機能的結合性解析を用いました。マインドフルネス瞑想は、注意制御・情動調整・身体感覚への気づき・自己観の変容などさまざまな認知機能にかかわっているため、広範囲な脳領域にかかわっていることが知られています。その中でも、大脳皮質の下に位置している線条体は、大脳皮質のそれぞれの脳領域と複数の異なる回路を形成しており、運動・注意・情動・動機・学習・記憶などさまざまな機能にかかわっています。そこで、線条体を中心としたそれぞれの脳領域との機能的結合性の変化を調べることで、集中瞑想と洞察瞑想に特有の脳活動を特定し、そこから瞑想の機能を推定しました。
その結果、腹側線条体と視覚野の結合性が、集中瞑想時に増加していたのに対して、洞察瞑想時に低下していました。この結合性は特定の対象に対する意図的な注意制御にかかわっていると考えられています。これを踏まえると、集中瞑想では特定の対象に対する意図的な注意制御が高まり、洞察瞑想ではそういった注意制御が低下するという従来の考えを支持する結果であったといえます。また、腹側線条体と脳梁膨大後部皮質の結合性が、洞察瞑想時に低下していました(図6(a))。さらに、生涯の瞑想実践時間が長いほど、その低下の度合いが大きいことが示されました(図6(b))。この結合性は記憶に囚われる程度にかかわっていると考えられています。これを踏まえると、洞察瞑想時の感覚や感情や思考に気づいている際に、それらの経験と過去の記憶を結びつけるような脳活動が低下していた可能性があることがうかがえます。

前述の3つの研究を踏まえて、マインドフルネスにおけるありのままの気づきについて整理します。マインドフルネスとは、今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づいている状態を意味します。この状態の中でも経験にありのままに気づくことには、集中瞑想よりも洞察瞑想がかかわっていると考えられています。この洞察瞑想を行うことによって、妨害刺激に対する抑制が低下することが分かりました。このことは、さまざまな経験を、特定の対象とそれ以外の妨害刺激としてとらえるのではなく、気づきの対象としてとらえているという考えと一致しています。また、そのようにさまざまな経験に気づいている際の生理指標からは、単なるリラックス状態ではなく、むしろ覚醒度の高い状態であるにもかかわらずにストレスが低い状態であることが分かりました。また、そのようなストレスが低い状態には、今この瞬間の経験を過去の記憶と結びつけていないことがかかわっている可能性を見出すことができました。
私たちは、現在、これらの知見も踏まえながら、ありのままの気づきを定量化するためのバイオマーカーの開発に取り組んでいます。このような技術が確立されれば、マインドフルネス瞑想の介入をする際に、有害事象を減らしつつ、効果を高めることに貢献することができると考えています。このように、私たちは、ありのままの気づきのメカニズムを解明することや、そこから発展する技術開発を通じて、世の中の人々のWell-beingに貢献することに取り組んでいます。
マインドフルネス瞑想について知的に理解するだけではWell-beingは高まりません。この原稿を読まれて興味を持たれた方は、ぜひ実際にマインドフルネス瞑想を実践して体験的に理解してみてください。