更新日:2022/10/14

宇宙統合コンピューティング・ネットワークの取り組み概要NTT研究企画部門
Space Compass

宇宙統合コンピューティング・ネットワークの取り組み概要

   
  • 宇宙
  • コンピューティング
  • ネットワーク

持続可能な社会の実現に向けて、エネルギー・環境・防災等のさまざまな分野で宇宙空間をICTインフラ基盤として活用することがより一層重要となっています。そこで、NTTとスカパーJSAT株式会社は新たな宇宙ICTインフラ基盤である宇宙統合コンピューティング事業を担う合弁会社として株式会社Space Compassを設立しました。本稿では、宇宙統合コンピューティング・ネットワークの全体像や事業概要、今後の展開について紹介します。

鈴木 耕世(すずき こうせい)※/堀 茂弘(ほり しげひろ)※
兼清 知之(かねきよ ともゆき)
NTT研究企画部門
※ 現、Space Compass

目次

新たな宇宙インフラへの挑戦

持続可能な経済・社会活動を確立していくうえでは、エネルギー、環境・気候変動、防災、海洋インフラ、安全保障などの多様な分野において、成層圏・地球近傍宇宙空間をICTインフラ基盤として効果的に最大活用することが、より一層重要となります。そのために、宇宙空間のICTインフラ基盤は、従来とは異なる新たな技術・アーキテクチャが求められます。
NTTとスカパーJSAT株式会社は、地上と宇宙のインフラ企業として長年にわたる技術開発・事業を通じて得た知見を活かし、今後の人類の宇宙空間の一層の活用と拡張を支えるため、合弁会社である株式会社Space Compassを2022年7月20日に設立しました(1)(2)
この合弁会社は、2021年の業務提携(3)で発表した、「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」実現の一歩となります。宇宙空間に構築する光無線通信ネットワークおよび成層圏で構築するモバイルネットワークを手始めに、新たなインフラの構築に挑戦することで、世界の宇宙産業の発展と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

宇宙統合コンピューティング・ネットワーク

宇宙統合コンピューティング・ネットワークは、NTTのネットワーク・コンピューティングインフラと、スカパーJSATの宇宙アセット・事業を統合して構築する新たなインフラです(図1)。地上から高高度に浮かぶHAPS(High Altitude Platform Station)、宇宙空間の低軌道・静止軌道まで複数の軌道を統合します。また、それらと地上を光無線通信ネットワークで結びコンステレーションを構成し、分散コンピューティングによってさまざまなデータ処理を高度化します。また、地上のモバイル端末へのアクセス手段を提供し、超カバレッジを実現します。



図1 宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想
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取り組み予定事業の概要

宇宙統合コンピューティング・ネットワークの実現に向けて取り組む予定の事業は以下のとおりです。
(1) 宇宙データセンタ事業:宇宙における大容量通信・コンピューティング基盤
光電融合技術による低消費電力化と高宇宙線耐性の実現により、宇宙におけるコンピューティング処理基盤を提供します(図2)。また、大容量光通信技術を活用した分散処理コンピューティングによりさまざまな高度なデータ処理を可能とします。例えば、宇宙で収集される膨大な各種データ等を高速光通信ネットワークを通じて即座に宇宙空間にて、情報集約・分析処理し、情報を必要とするユーザに必要な情報のみを即座に届けることで、宇宙データ利活用のリアルタイム性、ユーザ利便性の飛躍的な向上に貢献します。
Space Compassにおいて当初取り組む予定の事業としては、観測衛星等により宇宙で収集される膨大な各種データを静止軌道衛星(GEO:Geostationary Orbit Satellite)経由で地上へ高速伝送する光データリレーサービス(図3)を、2024年度に開始します。静止衛星から地上局に直接データ伝送をする既存サービスでは地上局と通信できるタイミングや電波による通信容量に制約があるのに対し、静止軌道衛星経由での光データ伝送を用いることで、大容量・準リアルタイムのデータ伝送が可能となります。通信速度は既存サービスに比べて10倍程度に向上し、任意のタイミングで即時伝送可能です。さらに光無線通信を用いることで、従来の無線通信サービスで必要となる免許調整が不要になるという利点もあります。顧客となる観測衛星事業者にとっては、観測衛星能力の向上、業務効率の向上を見込めるというメリットがあります。
(2) 宇宙RAN(Radio Access Network)事業:Beyond 5G/6Gにおけるコミュニケーション基盤
Beyond 5G/6Gで期待される衛星(低軌道・静止軌道)・HAPS(4)(5)を用いたモバイル基地局によるアクセスサービスを提供します(図4)。例えば、災害時における究極の高信頼メッセージングサービスや超広域カバレッジ等、より一層のモバイル通信の利便性・価値向上に貢献します。
Space Compassにおいて当初取り組む予定の事業としては、HAPSを用いた低遅延の通信サービスを2025年度に国内で開始をめざします。HAPSによりカバレッジを容易に拡張できることから、災害時の高信頼通信や、船舶や航空機等への大容量通信の提供、離島やへき地への通信サービス提供等が可能となります。携帯通信事業者にとっては、地上基地局整備によるカバレッジ拡張と並行して、HAPSを組み合わせることでモバイルネットワーク全体としてのコスト・エネルギー効率を改善できます。エンドユーザにとっては、HAPSにより普段使いのスマートフォンの利用が可能になります。
(3) 宇宙センシング事業:地上と宇宙のセンシングデータ統合基盤
従来の観測衛星による観測データに加え、世界で初となる低軌道衛星MIMO*技術によりグローバルに設置されている地上IoT(Internet of Things)端末データを収集する、宇宙と地球を統合したセンシング基盤を提供します(図5)。これらの技術については、2022年打ち上げ予定の国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証3号機にて軌道上実証を予定しています。さらには、テラヘルツ波等により従来見えなかった情報を可視化する新たなセンシング技術を開発し、宇宙データの価値向上、宇宙データ利活用の可能性拡大に貢献します。

  1. MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output):無線通信において、送信機と受信機の双方で複数のアンテナを使い、通信品質を向上させるための技術。

図2 宇宙データセンタ事業の概要
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図3 宇宙光データリレーサービスの概要
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図4 宇宙RAN事業の概要
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図5 宇宙センシング事業の概要
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事業化に向けた研究開発の取り組み

宇宙統合コンピューティング・ネットワークの事業化に向けてはさまざまな技術課題が存在します。本特集では、それらの課題解決のために研究開発を進めてきた主要な技術について、技術概要やユースケース、提供価値等を紹介します。
① 宇宙コンピューティングに向けたイベント駆動型推論の検討:宇宙データ利活用のリアルタイム性、ユーザ利便性を向上させるため、分散コンピューティングにより宇宙上で膨大なデータをエッジ処理するコンピューティング技術の概要等
② 宇宙RANにおけるHAPS実用化に向けた取り組み:超カバレッジ、高信頼、低遅延の通信サービス提供のためのHAPSのユースケースやHAPSと地上の連携ネットワーク構成、制御技術の概要等
③ 衛星センシングプラットフォーム:超カバレッジで低コストなセンシング提供のため、安価なIoT端末の微弱電波に指向性を向け抽出する衛星センシング技術や衛星の受信波形データをそのまま地上に転送する大容量伝送技術の概要、軌道上実証等

今後の展開

Space Compassでは、宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想の第一歩として、前述の宇宙データセンタ、宇宙RANの事業・サービスをはじめ、今後順次拡大します。宇宙データセンタ事業では、高度なコンピューティング機能を搭載した衛星を順次拡大し、宇宙での大容量通信・コンピューティング処理基盤を提供します。なお、2025年の大阪・関西万博ではNTTの大容量光通信技術の宇宙での実証を披露し、将来的には本サービスを全世界に展開する予定です。
宇宙RAN事業ではHAPSを活用した撮像センシング等についても提供を検討していきます。さらに、静止軌道衛星および低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbit satellite)も追加・統合し、カバレッジを拡充していくとともに、無線通信広帯域化技術の開発によりHAPS一機当りの通信キャパシティ拡大を図っていきます。

(左から)鈴木 耕世/堀 茂弘/兼清 知之
(左から)鈴木 耕世/堀 茂弘/兼清 知之

新たな宇宙ICTインフラ基盤である宇宙統合コンピューティング・ネットワークの構築に挑戦することで、世界の宇宙産業の発展と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

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