更新日:2022/07/15

インテントAIメディエータ(Mintent)による快適なサービスの実現NTTネットワークサービスシステム研究所
NTTアクセスサービスシステム研究所

インテントAIメディエータ(Mintent)による快適なサービスの実現

   
  • インテント
  • Mintent
  • 協調制御

本稿では、サービス提供者やユーザそれぞれの要求(インテント)に基づき、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション情報を連携、協調制御する技術として、インテントAIメディエータ(Mintent)を紹介します。本技術を用いることで、サービス提供者やユーザのインテントに基づいたサービス提供に役立てることができます。

山岸 和久(やまぎし かずひさ)†1/小林 正裕(こばやし まさひろ)†1
堀内 信吾(ほりうち しんご)†2/田山 健一(たやま けんいち)†2
NTTネットワークサービスシステム研究所†1
NTTアクセスサービスシステム研究所†2

はじめに

通信ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション技術の進展により、より快適な通信サービスの提供が進んでいます。一方で、ネットワーク、クラウドサーバ、ユーザ端末のリソースは有限であるため、サービス利用ユーザ増加によるネットワークの輻輳、サーバリソースのひっ迫が発生します。これらの状況が発生すると、スループット低下や遅延が増加し、ユーザは端末で適切にデータを受信できなくなり、快適な品質でサービスを享受することが難しくなります。これらの品質劣化を避けるため、サービス提供者はネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション制御技術を導入し、一時的なリソースひっ迫をしのぐ努力をしています。しかし、これら単一ドメインの制御技術の改善は限定的です。そのため、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション情報を連携し、協調制御することが重要になります。
サービス提供者やユーザがサービスに求める要求(Intent:インテント)は一般にサービス種別ごとに異なります。例えば、映像配信のサービス提供者はサービスを継続利用してもらいたいため、ユーザの視聴回数や視聴時間を管理しています。このように、視聴回数増加や視聴時間を長くしたいという要求、つまりインテントを持っていることになります。同様に、コネクテッドカーのサービス提供者は、車内外の状況を監視するため、映像を途切れることなく監視センタに届けたいインテントがあります。しかし、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーションのリソースを過剰に用意しサービスを提供することはできないため、これらインテントをネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーションのリソース情報に変換し、適切なサービス品質になるように、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーションを連携制御していくことが重要になります。
そこで、本稿では、図1に示すように、サービス提供者やユーザのインテントに基づき、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション情報を連携、協調制御する技術として、インテントAIメディエータ(Mintent)を提案します。

図1 インテントAIメディエータの概念図
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標準化におけるインテント技術の検討状況

ETSI ENI ISG(European Telecommunications Standards Institute Experiential Networked Intelligence Industry Specification Group)では、オペレータが実現したいオペレーションの目標・要件をインテントとして規定し、制限された自然言語で記述し、処理する方式の検討が進んでいます。2021年3月にリリースされたENI 008 Intent Aware Network Autonomicityでは、インテントを処理するために必要なアーキテクチャ・機能部を定義し、また、インテントのライフサイクルマネジメント、外部インタフェース要件等の要素の検討を進めています。さらに、インテント管理方式をそれぞれクラウド、無線に適用したPoC(Proof of Concept)などもさかんに行われています。
TM Forum(TeleManagement Forum)では、オペレーションの自動化を実現するClosed Loopアーキテクチャを提唱しており、ビジネスレイヤから、サービスレイヤ、ネットワークリソースレイヤまで、それら各レイヤ間でのLoopの連動を図2のように定義しています。本アーキテクチャにおいて、運用者などが定義するインテントを指標とした自動化の実現を志向しています。また、通信事業者のオペレーションの自動化(Autonomous Network)実現のためにインテントを目的指標として、ビジネスレイヤからサービス・リソースレイヤにおいて、一貫して定義していくことでトータルの運用コストを最小化することを志向したアーキテクチャ検討の議論が行われています。

図2 TM ForumにおけるIntentを用いたAutonomous Network Architecture
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Mintent

ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーションの各ドメインにおける制御技術だけでは、サービス提供者やユーザのインテントを考慮したサービス提供は困難です。そこで、サービス提供者やユーザのインテントを加味し、快適なサービスを提供することを目的に、各ドメインから得られる情報を共有、連携制御する技術としてMintentを提案します。以降では、Mintentの要素技術を概説します。

アプリケーション制御技術

アプリケーション制御技術では、映像配信やWeb会議を対象に、ネットワークのスループットやパケット損失、受信データ量の変動に基づいて、映像符号化レートの異なる映像データを取得したり、映像符号化レートを制御する技術が普及しています。本技術により、ネットワーク品質低下時に、低符号化レート映像を取得することで再生を止めることなくサービスを提供することを達成しています。一方で、このような技術では、ネットワーク品質のみに基づき制御されるため、サービス提供者やユーザのインテントに基づいた制御ができません。
例えば、サービス提供者は一定以上の適正品質を維持できるなら、高スループット時に必要以上な過剰な品質でサービスを提供することで、CDN(Content Delivery Network)やネットワークコストを増加させることは避けたいというインテントがあります。同様に、ユーザも高スループット時に高品質映像を受信することでデータを過剰に消費することを避けたいインテントがあります。
このようなインテントを満たすため、適正品質を維持し、過剰なデータを送信しない技術を提案しています (1) (2) 。これら技術はユーザ体感品質を推定可能な技術を内包し、推定したユーザ体感品質が適正品質を満たすように映像データの取得をします。これにより、過剰品質・過剰なデータ送信を避けることができ、サービス提供者やユーザのインテントを満たすことを可能としています。

クラウドサーバ制御技術

サービスを取り巻く環境が変化する中、ユーザ体感品質要件を満足しながらリソース割当て量を最適に維持するためには、サーバリソースをさまざまな状況、要件を踏まえて設計することが重要となります。サービスの多様化およびリソース制御の複雑化によって、従来のサービス技術者の経験頼りもしくはシステムパフォーマンスベースでのリソース設計・制御には、サービス技術者の経験・高スキルが必要となること、ユーザ品質要件・利用状況に則したサービス提供が困難であること、さらに品質を満足するために余剰リソースを割り当てる必要が生じている等の課題があります。
これらの課題に対して、プロアクティブにリソース量を自動算出するクラウドサーバリソース最適制御技術を提案しています。本技術は、ユーザ体感品質要件やサービス提供者のパフォーマンス要件をインテントとして取り扱い、インテントを満たす最適なクラウドリソースを、システム環境・利用状況および利用予定情報からパフォーマンスを予測可能とするAIモデルを用いてプロアクティブなクラウドサーバリソースの最適制御を可能としています (3)

ネットワーク制御技術

ネットワーク制御技術では、ユーザやネットワーク事業者のインテントに基づき、ユーザの要求品質を満たしつつ、ネットワーク設備の利用効率を最大化するように、通信経路を最適化します。
SDN(Software-Defined Networking)やNFV(Network Functions Virtualization)などの仮想化技術の進展に伴い、ネットワークはソフトウェア操作により、動的かつ柔軟に制御できるようになってきています。ユーザのインテントとしては、利用しているサービスや端末の多様化に伴い、ネットワークへ期待する通信品質も多様化しています。また、通信事業者としては、設備を効率的に利用し、設備増設を抑えたいというインテントがあります。
ユーザおよびネットワーク事業者のインテントを満たすため、ネットワーク仮想化技術を活用し、ユーザが期待するユーザ体感品質に基づき算出した要求通信品質を最低限満たしつつ、ユーザを可能な限り多く収容できるような経路制御を提案しています (4) (5) 。提案手法では、ある時点での最適な経路割当てが、将来における最適な割当てになるとは限らないため、将来需要を予測して割当てを最適化しておくことで、設備の利用効率を向上させています。

マルチドメイン協調制御技術

マルチドメイン協調制御では、インテントに基づき抽出された、各ドメイン(アプリケーション・ネットワーク・クラウドサーバ・他事業者リソースなど)での要件を満たしつつ、ドメイン横断でのリソース全体最適となるように、ドメイン制御を協調させます。
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)/6G(第6世代移動通信システム)などのネットワークでは、ネットワーク内に存在するドメインごとにコントローラ・オーケストレータが配備され、これまで紹介した要素技術のように、独自の制御ポリシーに基づき自律制御されます。このような場合、ドメイン内の個別最適となっても、必ずしもドメイン横断での最適化にならず、エンド・ツー・エンドでのインテントを満たせなかったり、リソースの利用効率が低下したりする可能性があります。
そこで、ドメイン横断での最適制御に向け、ドメインごとのコントローラによる自律制御を汎用的に協調させる仕組みとして、「ドメインごとの通信品質の共有」 (6) や「制御実行時間を考慮した制御順序の最適化」 (7) などを検討しています。特定ドメインにおいて、リソース輻輳などにより通信品質が低下した場合、他のドメインにおいて通常時と同等のリソースを確保しておくと、過剰割当てになってしまいます。そのため、「ドメインごとの通信品質の共有」では、各ドメインにおける通信品質を共有し合うことで、他ドメインにおけるリソースの過剰割当てを防ぎます。また、ドメインごとの制御種別が多様化すると、その実行時間もさまざまです。例えば、1分以内で終わるようなネットワークドメインでの経路変更や、5〜10分程度を要するクラウドサーバのリソース増強などがあります。そのため、リソースひっ迫に伴い複数ドメインでの回避制御を実行すると、もっとも完了時間の長い制御が律速となり、エンド・ツー・エンドでの通信品質低下が長期化します。そこで、「制御実行時間を考慮した制御順序の最適化」では、制御ごとの実行時間の違いを考慮しながら制御の内容と順序を最適化することで、通信品質劣化を短期化します。

Mintentの実現例

Mintentでは、無線ネットワークとアプリケーションの連携、有線ネットワークとアプリケーションの連携、クラウドサーバとアプリケーションの連携、有線ネットワークとクラウドサーバの連携等、マルチドメインにおける協調制御を可能とします。以降では、無線ネットワークとアプリケーションの連携、有線ネットワークとクラウドサーバの連携について、その実現例と効用を概説します。

車載カメラ映像の監視

自動運転に向けた検討が急速に進められています。一方で、完全な自動運転がすぐに実現できるわけではなく、当面は、運転者の支援が初期ターゲットとなっています。具体的には、車載カメラで撮影した映像を監視センタへ送信し、監視者が映像を監視することで運転の支援をします。この際、サービス提供者は、止まらない監視映像の配信を実現したいというインテントがあります。一般に、無線ネットワーク品質は変動するため、スループットに対し、映像符号化レートが高くなるとパケット損失が発生し、映像がみだれ、適切な映像監視が実現できません。そのため、既存技術では無線ネットワーク品質に対し、安全に設計された固定の符号化レートで配信するか、過去の無線ネットワーク品質の動的な変化をとらえ、パケット損失が確実に発生しない低符号化レートで映像を配信することが行われます。そのため、監視者に十分な映像品質で監視映像を提供することができないため、車内外の危険を検知し損ねることが懸念されます。そこで、Mintentでは、図3に示すように、未来の無線ネットワーク品質として予測されたスループット値を、車載カメラ映像を符号化するエンコーダに共有し、符号化レートを動的に制御することを検討しています。これにより、無線ネットワーク品質に応じた映像伝送が可能となり、無線ネットワーク品質に応じた高画質の映像を伝送することをめざしています。

図3 車載カメラ映像の監視例
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スマート工場におけるロボット制御

スマート工場の実現に向け、ロボット制御の自動化の検討が進められています。工場の管理者としては、ロボットを止めずに動作させたいというインテントがあり、それを実現するためには、制御に大きな影響を及ぼす通信品質劣化の長期化は避ける必要があります。そのため、Mintentでは、複数のドメインの制御を協調させて、より制御実行時間を考慮した制御内容および順序を最適化することで、品質劣化期間を短期化します。
図4に示すとおり、ネットワークドメインとクラウドサーバドメインからなる環境上に、工場に近いサーバにおいてロボット制御機能、遠いサーバにカメラ映像解析機能が配備されているものとします。一時的な需要集中で、ロボット制御機能が配備されているサーバのリソースがひっ迫し、処理遅延が増加した場合、根本的な対処としては、クラウドサーバドメインの制御として当該サーバのリソースを増強する必要があります。しかし、サーバリソースの増強は実行時間が5〜10分程度かかるため、この対処のみでは5〜10分程度処理遅延が増加した状態が続き、ロボット制御に影響を及ぼし、工場管理者のインテントを満たせなくなってしまいます。そこでMintentでは、リソースが増強の制御が完了するまでの暫定対処として、制御時間が1分以内のネットワークドメインでの経路変更による、リソースに余裕のあるサーバへの負荷分散を実行させることで、品質劣化期間が短期化できます。

図4 スマート工場におけるロボット制御
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おわりに

本稿では、インテントAIメディエータ(Mintent)の必要性を説明し、技術を概説しました。本特集記事では、NTT研究所における個々の技術の最新の研究開発動向を紹介します。

■参考文献

  1. (1)T. Kimura, T. Kimura, A. Matsumoto, and K. Yamagishi:“Balancing Quality of Experience and Traffic Volume in Adaptive Bitrate Streaming,” IEEE Access, Vol. 9, pp. 15530-15547, 2021.
  2. (2)M. Yokota and K. Yamagishi:“Quality-based video bitrate control for WebRTC-based tele-conference services,” Electronic imaging 2022, IQSP-333, Jan. 2022.
  3. (3)C. Wu, S. Horiuchi, K. Murase, H. Kikushima,and K.Tayama:“Intent-driven cloud resource design framework to meet cloud performance requirements and its application to a cloud-sensor system,”Springer Journal of Cloud Computing,Vol. 10, No. 30, 2021.
  4. (4)小林・松村・木村・土屋・則武:“サービス収容度を用いた効率的な仮想ネットワークへのリソース割り当て手法の検討,” 信学技報, NS2015-151, 2016.
  5. (5)小林・原田:“サービス要求品質に基づくネットワーク制御技術,” 信学会総合大会, BS-4-11, 2020.
  6. (6)小林・河野・原田:“映像配信におけるマルチレイヤ統合制御,” 信学会総合大会, B-7-27, 2021.
  7. (7)岩本・鈴木・小林・原田:“仮想ネットワークにおけるQoS劣化時間最小化のための制御スケジューリング最適化手法,” 信学技報, Vol. 121, No. 74, NS2021-31, pp. 33-38, 2021.
(上段左から)山岸 和久/小林 正裕(下段左から)堀内 信吾/田山 健一
(上段左から)山岸 和久/小林 正裕
(下段左から)堀内 信吾/田山 健一

快適なサービスの実現に向け,サービス提供者やユーザそれぞれの要求(インテント)に基づき、ネットワーク、クラウドサーバ、アプリケーション情報を連携、協調制御する技術として、インテントAIメディエータ(Mintent)の構築を進めていきます。

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