更新日:2022/05/23
2030年代の実現をめざす6G(第6世代移動通信システム)に向けて、高速・大容量、高信頼・低遅延等の基本性能の進化、非陸上を含めたカバレッジ拡張等の技術領域の検討が始動しています。本稿では、それらの実現に資する新たな先端無線技術としてNTT未来ねっと研究所で研究開発を推進しているOAM(Orbital Angular Momentum)無線多重伝送技術、海中音響通信技術、無線ネットワーク品質予測技術について紹介します。
増野 淳(ましの じゅん)/藤野 洋輔(ふじの ようすけ)
工藤 理一(くどう りいち)
NTT未来ねっと研究所
携帯電話を中心に私たちの生活に欠かせない存在となった移動通信システムは、およそ10年に一度の周期で世代交代がなされてきました。日本では2020年に5G(第5世代移動通信システム)のサービスが開始され、5Gの高度化、さらには2030年代の実現をめざした6G(第6世代移動通信システム)に向けた技術検討・研究が世界各国で始動しています。移動通信システムがめざす世界観としては、3G・4GがWebサイト表示、動画コンテンツ、アプリの充実といったモバイルマルチメディアの機能の実現が主であったのに対し、5G・6Gはそれらの進化に加えて、社会課題を解決し、多様な産業を支える社会インフラとしての役割まで期待されている点が大きな特徴といえるでしょう。
5Gの高度化ならびに6Gにより期待されるさまざまなユースケース、目標性能、技術要素などは6Gホワイトペーパー(1)に掲げられており、NTTグループが主導するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の革新的なネットワークや情報処理技術と移動通信システムが有機的に融合したコンセプトが記述されています。6Gの技術発展領域は、超高速・大容量通信、超低遅延・超高信頼通信、超多接続等、基本性能の進化にとどまらず、空・海・宇宙など移動通信システムとして未踏領域への超カバレッジ拡張の実現等の新たなチャレンジも含まれています(図1)。本稿では、6G実現に向けた新たな先端無線技術としてNTT未来ねっと研究所(未来研)で研究を推進している3つの技術、「OAM-MIMO無線多重伝送技術」「海中音響通信技術」「無線ネットワーク品質予測技術」について紹介します。

5Gでは移動通信向けとして初めてとなるミリ波帯と呼ばれる高周波数帯の導入により、広帯域化による高速伝送の恩恵がもたらされ、今後の高度化により最終的には20Gbit/sの無線アクセス実現が目標とされています。6Gではさらなる広帯域化をめざしてサブテラヘルツ波の領域まで踏み込んだ高周波数帯の周波数資源の開拓が検討されており、無線アクセスの目標伝送速度は100Gbit/sに達すると予測されています。一方、これらの高周波数帯では、電波の直進性の高さ・遮蔽によるカバレッジホール等の問題から、従来よりも高密度に基地局アンテナを配置する必要があり、基地局設備間を光伝送で接続するxHaul*1には、柔軟かつ導入の容易なネットワーク構成が求められることになります。xHaulを大容量無線で実現することができれば、光配線が困難な環境での基地局設備の高密度設置、導入が容易という特徴を活かした臨時の基地局設備の増強などが実現できることになります。ここで、前述のとおり6G無線アクセスでは100Gbit/s級への進化が見込まれることから、基地局設備間の機能分担、さらには複数設備の従属接続等を考慮すると、無線xHaulには1Tbit/s級(テラビット級)の極めて高い無線伝送能力が求められます(図2)。
未来研では、電波の軌道角運動量(OAM: Orbital Angular Momentum)の性質に着目した空間多重伝送技術として、OAM-MIMO無線多重伝送技術の研究開発を推進してきました(2)。OAMの性質を持つ電波は、電波の進行方向の垂直平面上で位相が回転しながら進行するように表され、同一位相の軌跡が進行方向に対して螺旋形状に表れます。位相の回転数が整数倍の関係にあるOAMモードの電波は互いに直交しており、すなわち、送信時と同じ位相の回転数を持った受信機を使うことで、複数のOAMモードの同時送受信(空間多重)が可能になります(図3)。
NTTが独自に考案したOAM-MIMO無線多重伝送では、OAMモードの送受信のためのアンテナ構成として、現実的な実装を考慮して円環状にアンテナ素子を配置したUCA(Uniform Circular Array)を採用しています。半径の異なる各UCAをサブアレーアンテナとみなして複数セットのOAM多重信号をMIMO多重伝送することで、電力の空間拡がりの問題のある高次のOAMモードの利用を避けながら、大きな空間多重数の実現をねらう思想となっています。また、OAM多重はアナログ信号処理、MIMO多重はデジタル信号処理と、信号処理を機能分担することで、広帯域化で問題となるデジタル信号処理の負荷を軽減し、省電力化に貢献できる構成であることも1つの特徴です。xHaulで想定されるPoint-to-Pointの見通し伝送環境は、一般的には空間多重数を稼ぎにくいとされますが、28GHz帯においてOAM-MIMO送受信装置を用いて空間多重数の限界に挑み、屋内実験において図4に示すように偏波を併用した21空間多重に成功、201.5Gbit/sの大容量無線伝送を実現できることを実証しています(2)。また、40GHz帯ではOAM-MIMOの長距離伝送の実証に挑戦し、屋外実験環境において200mの伝送距離で117Gbit/sを達成しました(3)。将来的には10GHz程度までの帯域幅の拡張と、さらなるOAM-MIMOの進化による20〜40程度の空間多重を組み合わせることで、テラビット級の大容量無線伝送を達成できる見込みで、6G時代に求められる大容量無線xHaulの実現に向けた技術確立をめざしていきます。



近年、石油・ガス田などの海底資源開発が活発に行われており、その探査、開発、生産に遠隔操作可能な無人探査船が用いられています。また、港湾工事においても作業の安全性、効率性の観点から海中重機等の無人遠隔施工の研究が行われています。海中では光学映像や音響映像を伝送可能なMbit/s級の無線通信技術が実用化されていないため、これらの海中で利用される機器は海上の支援船と有線ケーブルで接続し、遠隔操作を行っています。しかし、ケーブルを巻き上げるためには大型の支援船、専用の人員を必要とするため運用コストがかかり、ケーブルが潮流によって流されるため作業の効率性、安全性にも課題があります。したがって、より効率的かつ安全な水中機器の遠隔操作を実現するため、高精細な映像伝送を可能にする通信速度1Mbit/s以上の高速な海中無線通信技術の確立が望まれています。これまでも低周波電磁界、光、音波などさまざまな媒体を用いた海中無線通信が検討されていますが、NTTではこの中でも環境にも依存せずに安定して長距離な通信が可能な音波を使った海中音響通信に着目し、その高速化技術に取り組んでいます。
海中音響通信に限らず、無線通信ではさまざまな経路を通ってきた波が受信側で干渉することで波形歪みが生じるため、通信を成立させるためには波形の歪み方(送受信アンテナ間の位相・振幅応答)を推定し、その逆特性で補償する波形等化が不可欠です。しかし、海中音響通信では伝搬速度が桁違いに遅いことから、陸上無線通信に比べて伝搬路が非常に高速に変動します。そのため、一般的な陸上無線通信で用いられている波形等化を適用することができず、海中の高速な伝搬路変動で生じる波形歪みを補償できなかったため、実海域での利用に耐える海中音響通信システムの通信速度は数10kbit/s程度にとどまっていました(4)。
NTTでは、このような海中音響通信の高速化を妨げる高速な伝搬路変動を克服するため、時空間等化という新たな波形等化アプローチを提案しています(5)。本技術は、受信側のビーム制御により、波形歪みを引き起こす根本原因である遅延波を空間的に除去することで波形等化を行います。これにより波形の歪み方を推定することなく波形等化が可能であるため、これまで困難とされてきたMbit/s級の高速な音響通信が可能となります。
NTTでは、本技術の有効性を確認するため実海域での伝送実験を実施し、距離18mで5.12 Mbit/s、距離60mで1.2Mbit/sの伝送に成功しています(6)。現在、異なる共振周波数を持つ送波器を用いて広帯域信号を高効率に送信する帯域分割送信技術を組み合わせ、距離300mで1Mbit/s以上の伝送速度の達成に向けた検討を行っています(図5)。

6G時代には、日本のめざすべき未来社会の姿として提唱されているSociety5.0(7)の実現に向けた取り組みが加速し、センサ・カメラからの情報など、膨大なフィジカル空間情報がサイバー空間に蓄積され、利用が進むと考えられます。未来研では、フィジカル空間情報を用いて、無線通信システムにさらなる進化をもたらすための基礎検討を進めています(8)(9)。これまで無線通信システムは、無線通信システムにおいて得られる電波伝搬に関する情報を高度に利用し、高速・大容量化してきましたが、昨今の無線通信システムへの要求条件は多様化・高度化しており、ベストエフォート型の通信だけでなく高信頼通信への期待も高まっています。フィジカル空間情報を利用することで、無線通信システムにおいて得られる情報で予測することが困難だった、通信機器や周辺の物体の長周期の動きをとらえることができます。より遠くの未来が予測できることで、さまざまなプロアクティブな制御が可能となり、新たな無線通信の役割を構築できると考えています。
研究開発を進めている技術の例として、カメラから取得される無線通信機器を有するモビリティロボットの映像を用い、モビリティロボットの未来の動きを予測することで数秒後の無線通信品質を予測する技術を図6に示します。図6で示すカメラから得られる映像を取得し(Step1)、あらかじめ外観を学習したオブジェクト認識モデルにより、通信に係る端末の位置や動きからなるオブジェクト情報を抽出(Step2)、最後にオブジェクト情報から、将来の無線通信品質を予測する構成となります(Step3)。また、将来的にIOWNに接続される多数のカメラ・センサにより無線通信品質の長期予測を行う場合に、カメラ・センサの追加や故障の検知も同時に行える予測モデルの構築方法の検討を進めているほか、屋内において膨大な実証実験データを自動で収集するAI(人工知能)検討用実験環境の構築も進めています。各端末の無線通信品質が、今後どのように変化していくのか、短期から長期までの未来を予測・推定することができれば、無線通信品質の低下や回線切断を未然に検知し、より良い品質のネットワークの切り替えや併用、映像などアプリケーションの伝送レートの変更、無線通信端末の経路変更や運行ルール変更、などのさまざまなプロアクティブな制御が可能となり、高信頼な無線通信利用の可能性が広がるものと考えています。

次世代の社会インフラとして期待される6G実現に向け、先端無線技術の検討、実証を進めていきます。