更新日:2021/03/12

    同調圧力に鈍感であれ。自由な時間は成功要因の1つである西田 眞也
    NTTコミュニケーション科学基礎研究所
    上席特別研究員

    NTT技術ジャーナル2021年3月号:「挑戦する研究者たち」より

    世界を牽引する質感知覚研究

    現在、手掛けている研究について教えてください。

    私は「質感認識」を研究しています。人間は視覚をはじめ五感を通じてさまざまな質感を認識し、物性や材質、状態、感性的な価値まで瞬時に判断します。こうした質感を認識する能力は人間の活動において重要な役割を果たしています。なぜなら人間は対象を認識し、評価して行動を選択して、身体活動を通じて環境世界とかかわっており、そのすべてのフェーズに質感認識が深く関係しているからです(図1)。
    私が研究対象としている質感は、ものの物性(光沢感・透明感など)、材質(陶器・金属など)、状態(乾燥・凍結など)といった「物理的質感」、そして美醜や好悪などの「感性的質感」の2つに大別できます。
    質感認識とは人間が質感を認知する能力、脳による物体の本性の解読のことだと私は考えています。実世界の多様な質感を人間の脳が認識しているメカニズムの多くは謎として残されています。そのメカニズムの解明は、人間の感覚情報処理の科学的理解だけではなく、実物体の質感認識や質感生成等の分野を通して、情報工学技術の発展にとっても不可欠な課題です。
    私は、いろいろな仲間とともに、世界に先駆け1990年代の半ばから質感知覚研究を開始して、2010年までの間に、光沢質感の画像特徴を発見するなどしました。そして、文部科学省の「新学術領域研究」という共同研究グラントを利用して、世界に先駆けた学際的な質感研究を進めてきました。まず、2010〜2014年度新学術領域「質感脳情報学(質感認知の脳神経メカニズムと高度質感情報処理技術の融合研究)」(1)において、「質感認知にかかわる視聴触覚情報の心理物理的分析」という1つの研究チーム(計画班)を率いました。そこでは、光沢感の認識メカニズムと光沢に関する色・輝度相互作用の仮説の提案、動きの情報に基づいて液体の質感を認識するメカニズムの解明を行いました。さらにこのような人間の特性を利用して、静止画が動いているように見える光投影技術「変幻灯」の開発等を行いました。
    それに引き続く2015〜2019年度新学術領域「多元質感知(多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出)」(2)においては、領域代表として情報科学、神経科学、心理物理学の観点から追究を進め、視覚、触覚、聴覚、言語分野において基礎研究から応用研究までをカバーする「質感学」を確立しました。また、「信号変調に基づく視聴触覚の質感認識機構」という計画班の代表として、輝度や色の統計量に基づく物体表面の濡れの知覚(3)(図1)や画像コントラスト低下に基づく極細構造の知覚を解明するとともに、人工神経回路による液体質感知覚メカニズムの分析を行いました(4)(図2)。さらに、変幻灯の原理を発展させ、ステレオ眼鏡なしで見たときに画像ボケを生じない新しい両眼立体視法「Hidden Stereo」を開発しました。
    これら2つの新学術領域研究で発展させてきた「質感学」は学際性と視野の広さにおいて国際的にも傑出していると高く評価されました。

    図1 表面を濡れているように見せる画像質感交換
    図1 表面を濡れているように見せる画像質感交換(3)
    図2 液体質感(粘性)の認識を分析するために用いた刺激
    図2 液体質感(粘性)の認識を分析するために用いた刺激(4)

    新学術領域を確立されたのですね。これまで謎とされていた部分の解明に期待が高まりますね。

    私は、自分の「見えている」という状況、人間の情報処理に関することに非常に興味があります。政治や社会においても人間が行動する理由に大いに関心を持っています。心理学等の既存の学問だけではなく、自分が納得できる方法で人間を理解することはできないかと常にアプローチを模索しています。
    新学術領域の研究活動は新たなフェーズに突入し、2020年、学術変革領域研究(A)「深奥質感(実世界の奥深い質感情報の分析と生成)」(5)において領域代表として研究をスタートさせました。質感の本質的理解には、感覚器がとらえた入力情報を質感属性変数や質感カテゴリーの言語ラベルに結びつけるような表層的な質感情報処理だけでなく、その背景にある深奥質感と呼ぶべき処理階層を理解する必要があるのです。…

    ■参考文献

    1. (1)http://shitsukan.jp/BISS/
    2. (2)http://shitsukan.jp/ISST/
    3. (3)M. Sawayama, E. H. Adelson, and S. Nishida:“Visual wetness perception based on image color statistics,” Journal of Vision, Vol. 17, No. 5, pp. 7-24, 2017.
    4. (4)J. J. R. van Assen, S. Nishida, and R. W. Fleming:“Visual perception of liquids: Insights from deep neural networks,”PLoS Computational Biology, Vol, 16, No. 8, e1008018-29,2020.
    5. (5)http://shitsukan.jp/deep/

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