更新日:2021/02/05
ハリウッドのSF*映画などで表現される未来世界のシーンでは、主人公が空中像を巧みに操作することがあります。「空中像の触り心地ってどんな感じだろうか」、そのような素朴な疑問が本研究を始めた動機でした。空中像提示は、もはやSFの中の話ではなく、光学的な装置やヘッドマウントディスプレイによって実現されています。NTTが開発した技術である「Kirari!」 も空中像提示を実現している手法の1つです。
その一方で、空中像、いわゆる、バーチャルな対象に対する触覚の提示技術については、今まさに研究が進められている段階です。さまざまな手法が提案されていますが、その多くが物理的な触覚提示装置を利用するものです。
本研究では、装置を利用せず、ユーザのアクションを外部から読み取ってバーチャルな対象の見掛けを操作することで、ユーザが感じる対象の質感を変化させることはできないかと考えました。もちろん、バーチャルな対象に直接触れることはかないません。そこで本研究は、ユーザのアクションと因果的につながった対象の変化をユーザが観察した際に、脳で生じる対象の質感を推定する特性、つまり錯覚を利用することにより、バーチャルな対象に触覚的な質感を与えられないかと考えました。
本研究の詳細を説明する前に、疑似触覚について説明します。例えば、コンピュータ画面上に表示されたカーソルをマウスで動かす場面を想像してください。マウスの動きは変わらないのに突然カーソルの動きが遅くなったとします。そのような場面では、そのマウスを用いているユーザは「マウスカーソルが重くなった」「抵抗感を感じた」などの印象を持つことが過去の研究で報告されています。この印象のことを疑似触覚と呼びます。疑似触覚は視覚、触覚、筋運動感覚、自己受容感覚といった複数の感覚モダリティがかかわって生じる錯覚ですが、特に視覚情報が他の感覚モダリティに及ぼす影響に関して議論されます。疑似触覚を用いることで、重さや抵抗感だけではなく、対象の形状や硬さの印象を操作することができます。
先行研究では、ユーザが触覚提示装置に触れた条件で生じる疑似触覚を調べてきました。一方で本研究では、ユーザが装置に対して物理的に接触しない条件下において、ユーザに疑似触覚を与えることができるかを調べました。何も装置を持たない条件下で生じる疑似触覚のことをここでは空中疑似触覚(1)と名付けました。空中疑似触覚を実現するためには、2つのクリアすべき課題があります。1つはどのようにしてユーザの手の動きをトラッキングするかという課題です。これについては、Leap motionなどの簡易な装置を利用することで解決できました(図1(a))。次に、トラッキングした手の動きに伴ってどのような変化をバーチャルな対象に与えたらどのような質感が得られるか、という問題です。この問題は人間の知覚特性に絡んでいるのでその解決は一筋縄ではいかないのですが、その反面非常に、面白い問題だといえます。…