更新日:2021/02/05
橋本 俊和(はしもと としかず)/ 阪本 隼志(さかもと じゅんじ)
情報技術や通信技術の発展に伴い、音楽や映像のオンライン配信やチャットを楽しむなど、かつてはなかった生活が情報によりつくり出されるようになってきました。それらの情報は、ネットワークにつながった情報端末により私たちにもたらされます。PCやスマートフォン、近年ではスマートスピーカなどさまざまな機器が提案され、生活のさまざまな場面で活用されています。しかし、これを逆にみれば、私たちが受けられる情報が情報端末やそれらのある場所に制限されている、と考えることもできます。スマートフォンも例外ではありません。スマートフォンという小さな「窓」を覗き込むという制限を受けたかたちで、私たちは情報にアクセスしています。情報端末をより自然なかたちで使えるように進化させることができれば、情報がつくり出す私たちの生活が、そういった制限を受けずに自由で豊かなものになると期待されます。
本稿で紹介する光学技術は、そのようなより自然に画像情報にアクセスするためのメガネ型表示デバイス(スマートグラス)への適用をめざしたものです。スマートグラスは、現在ヘッドマウントディスプレイと呼ばれるゴーグル型のデバイスで実現されているVR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)等、あるいは、それらを総称したxRを、装着感や外観を改善しメガネのような掛け心地で実現する表示デバイスです。表示性能としてはさまざまなレベルが考えられますが、ARのような没入感を実現するためには、高精細で画角(見える範囲)が広い表示技術が必要です。同時に、メガネのようなすっきりとした形態を実現するには部品を小型化する必要があり、光学的な特性と小型化を両立させる技術が必要となります。NTT先端集積デバイス研究所ではそのようなスマートグラス向けに、RGB(Red Green Blue)の三原色の光を束ねるための光学系を抜本的に小型化できる光回路(RGBカプラ)技術を開発しました(1)、(2)。本稿では、それらの光回路技術とそれを用いたスマートグラス向けの光源モジュール技術について紹介します。
NTTでは、光ファイバ通信の部品技術として電気の集積回路と同様にシリコン基板上に光回路を集積するPLC(Planar Lightwave Circuit:平面光波回路)*の研究開発を進めてきました。この光回路は光ファイバと同じ石英系のガラスによりつくられ、周囲よりも屈折率の高いコアとよばれる数ミクロンの光の通り道(光導波路構造)で回路を構成したもので、光の分岐・干渉・位相制御を行うことができます。この技術により光ファイバ通信向けの光分岐回路や波長合分波器が実現されています(3)(図1)。光ファイバ通信で使われるレーザの波長は1。55μmなどの赤外のレーザ光で、この波長のレーザ技術の発展とともに、波長合分波器などレーザ光を使いこなす光回路技術も発展してきました。可視光の波長は0。4~0。7μmで、RGBのうち最後まで残った緑色の半導体レーザが2009年ごろに量産可能となり、3色すべてを使うことが可能となりました。可視光LEDが10年以上かけて一般化してきたように可視光レーザもこれから一般化してくると思われます。その際に重要となるのが、さまざまな応用に向けてレーザ光の特性を使いこなしていく技術で、特に干渉等を安定して実現できる光学系の技術が重要になってきます。NTTでは、そのような光学系を提供する技術として、上記のPLC技術の可視光領域への適用を進めています。この技術は可視光領域のセンシングや光量子情報処理などへの適用が考えられており、この記事で紹介するRGBカプラもその1つです。…