更新日:2021/02/05

    究極の目標は新しい動作原理に基づく量子コンピュータの実現。自分を客観的に見つめ、存在価値を確認する村木 康二
    NTT物性科学基礎研究所
    上席特別研究員

    NTT技術ジャーナル2021年1月号:「挑戦する研究者たち」より

    電子の潜在能力を引き出す量子相関エレクトロニクス

    現在、手掛けている研究について教えてください。

    異なる種類の半導体を人工的に積層した構造(ヘテロ構造)や微細加工した構造(ナノ構造)を用いて従来の半導体にはない物性や、それを用いた新しい機能を実現することをめざした研究をしています。
    特に電子の量子力学的な性質、中でも「スピン」という、電子が持つ小さな磁石としての性質や、「多体効果」といって多数の電子がそれぞれ勝手に動き回るのではなく集団として振る舞うことによって生じる効果に着目しています。
    私たちは、従来のデバイスでは使われていない電子の性質を利用することをめざして、超低消費電力のデバイスや超高感度のセンサにつながるような物理現象を追究しているのですが、究極の目標はメディアで紹介されているような従来の量子コンピュータの、ノイズによって量子の状態が変化するという弱点を克服する(エラー耐性)、新しい動作原理に基づく量子コンピュータの実現です(図1)。こうした新しい物理現象の追究として、大きく分けて2つのアプローチで研究しています。1つは、先述の「多体効果」を用いたもので、もう1つは「トポロジカル絶縁体」という新しい種類の物質を用いたもので、「スピン」と関係しています。
    まず多体効果についてですが、その前に「準粒子」というものについて説明する必要があります。例としてはトランジスタの構成要素であるp型半導体で、マイナスの電荷を持つ電子が一杯に詰まっているところに電子がいない状態(電子が抜けた孔のような状態なので「正孔」という)が1つあると、その正孔がプラスの電荷を持った粒子のように振る舞うというものですが、正孔の本質的な性質は電子と変わりません。私たちがめざしているのは、多体効果によって電子とは本質的に異なる性質を持った準粒子をつくることです。
    もう1つのアプローチは「トポロジカル絶縁体」という物質を用いたものです。これは物理学の歴史の中でも非常に新しい概念で、最初に理論的に提案されたのが2005年です。トポロジカル絶縁体の基になる理論をつくった物理学者3人に2016年ノーベル物理学賞が授与されました。絶縁体というのは電気を流さない物質のことです。2005年の理論によって、絶縁体にはトポロジカル絶縁体と通常の絶縁体の2種類があり、両者の境界には必ず電気を流す層が存在するということが分かったのです。私たちのグループでは半導体のヘテロ構造でこのトポロジカル絶縁体ができることを2013年に実験で示しました(図2)。トポロジカル絶縁体になるものとしてはさまざまな物質が報告されていますが、私たちが用いた半導体ヘテロ構造では、ゲート電極に電圧を加えることで、通常の絶縁体になったりトポロジカル絶縁体になったり、電気的に制御できるのが特長です。実はこの系がトポロジカル絶縁体になることを実験で示したのは私たちが世界で2番目でした。最初のチームは界面に電流が流れていることを示すことで論文を発表しましたが、私たちはそれが絶縁体になっている、つまり界面以外には電流が流れていないことを示すために論文の完成に時間がかかりました。この論文は今でもよく引用されていますが、2番になったことで悔しい思いをし、成果をどう見せていくか考えさせられました。…

    図1 準粒子を用いた量子ビットのイメージ
    図1 準粒子を用いた量子ビットのイメージ

    関連するコンテンツ