更新日:2020/12/18
木原 誠司(きはら せいじ)†1/ 田中 裕之(たなか ひろゆき)†2/ 荒川 豊(あらかわ ゆたか)†2
NTTソフトウェアイノベーションセンタ 所長†1/ NTTソフトウェアイノベーションセンタ†2
実世界の問題を、実世界のさまざまなデータを用いて解決していくプロセスはますます重要となりつつあります。製造業においては工場稼働データに基づく予実管理や設備の故障予測、小売業においては気象データに基づく需給予測や顧客行動データに基づくマーケティングや動線設計など、そのようなプロセスの事例は枚挙に暇がありません。データから価値を生み出すという意味で、このようなプロセスを私たちは「データ価値化」と呼んでいます。企業間競争の激化や環境問題・社会問題の深刻化に加え、新型コロナウイルス感染症の流行により加速されたリモート型社会への移行等により、社会全体にデジタルトランスフォーメーションが求められ、データ価値化への期待は高まる一方です。このような背景から、私たちは、意思決定や最適化、未来予測など、あらゆる場面でデータに基づき価値を生み出す「データ中心社会」が到来すると考えています。データ中心社会においては、多種大量のデータの流通や分析の礎となる情報処理基盤の役割がより重要になると考えられます。
一方、これまでの技術的歴史を振り返ると、情報処理基盤は弛まぬ進化を遂げてきました。システム基盤の観点では、まずプロセッサの性能向上が、微細化によるシングルコアCPUの高速化、そしてマルチコア化により実現されてきました。またサーバ単体によるプロセッシングから、分散・並列化による高速化・スケール化へと進化したように、システム全体の高速化・高度化も進められてきました。ソフトウェア開発手法の観点では、基幹システム等の大規模・高品質なソフトウェアが求められる場合に適したウォーターフォール型開発が旧来より用いられてきましたが、近年ではユーザビリティや開発の迅速性が求められるWebアプリケーション等の開発に適したアジャイル型開発も広く取り入れられるようになってきました。情報化社会の進展に伴い、このような技術の進化は今後も求められ、継続していくと考えられます。
このような背景から、NTTソフトウェアイノベーションセンタ(SIC)では、将来の情報処理基盤の実現に向けて、データ中心社会を支える研究開発と社会・技術の進化に対応できるシステム基盤・ソフトウェア開発手法の研究開発について、ハードウェアやセキュリティなど関連する技術を専門とする各NTT研究所とも連携して取り組んでいます。
データ中心社会におけるデータ価値化の大まかな流れを図に示します。まず実世界の各所において、センシングデータやログデータ等として実世界のモノやコトに関するデータが生成・収集され、蓄積されます。次に、このデータを分析・変換し、これに基づき問題を解決すべく実世界へ働きかける活動を行います。多くの場合、この活動により変化した実世界について、またデータ収集していく、という循環を繰り返すことで、漸次的に改善したり、実世界の変化に継続的に追従したりします。データをエビデンスとして、実世界へフィードバックをかけていくこのようなプロセスにより、堅実に実世界を良い方向へ動かし、さまざまなドメインの顧客に価値を提供していくことが可能となります。
このようなデータ中心社会のバリューチェーンを支えるべく、以下のような情報処理基盤技術の研究開発に取り組んでいます。
(1) データ分析・価値化技術
データ価値化の適用範囲は幅広いと考えられますが、それだけに画一的なやり方でうまくいくものではありません。どのようなデータを、どのように用いて、どのような価値を創出するのか。真に役に立つデータ価値化の方法を見つけるには、各ドメインにおいて具体的な問題と向き合い、入手できる多様なデータと多様な分析方法から、適切な組み合わせを見つけるための試行錯誤を行う必要があると私たちは考えています。さまざまなシーンでデータ価値化を実現していくためには、そうした試行錯誤の効率化や高度化が必要不可欠となるでしょう。私たちは、試行錯誤の効率化や高度化、そしてそれらの自動化までをめざし、研究開発に取り組んでいます。
また、データ価値化の方法を見つけたとしても、必要となるデータの処理量が膨大で、期待される時間内に価値を創出できなかったり、創出する価値よりも大きなコストが発生したりするようでは、現実的な問題の解法とはなり得ません。例えばデータ解析手法として期待が高まるAI(人工知能)技術は、高度化により適用範囲が広がる一方で、処理量の増大が問題となっています。本特集記事『IOWN時代のAIサービスを支える高効率イベント駆動型推論』では、IOWN時代の「ヒトの能力を超える」AIサービスの実現に向け、大量の映像データに対するAI推論処理を効率化する技術について紹介します。…