更新日:2020/10/23

    多様なユースケースに適用可能な音声合成エンジン「Saxe」NTTメディアインテリジェンス研究所

    ※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。

    NTT技術ジャーナル2020年10月号:特集「メディア研究から人の活動を支援・代替するAI技術の研究開発へ」より

    井島 勇祐(いじま ゆうすけ)/ 小林 のぞみ(こばやし のぞみ)/ 薮下 浩子(やぶした ひろこ)/ 中村 孝(なかむら たかし)

    はじめに

    音声合成技術とは、入力されたテキストに対応する音声を生成する技術で、テキスト音声合成技術(TTS:Text-to-Speech Syn­the­sis)とも呼ばれます。NTTでの音声合成に関する研究開発の歴史は長く、これまでに開発してきた音声合成技術は、web171(災害用伝言板)、177(天気予報電話サービス)、IVR(自動電話応答システム)といった電話サービスをはじめとした、「情報を正しく伝えること」を目的としたサービスで幅広く使われています。
    一方近年では、深層学習をはじめとしたさまざまな技術進展、AI(人工知能)による人の活動の支援・代替の進展といった社会的背景の変化に伴い、音声合成技術が必要とされるユースケース、要求される機能・性能も変化しつつあります。これまでの「情報を正しく伝えること」を目的としたユースケースでは、「定型的な文章を」「特定の話者の声で」音声を生成することが求められていたのに対し、人の活動を支援・代替するユースケースでは、「多種多様な文章を」「所望の話者の声で」「多様な動作環境で」音声を生成することが求められています。NTTメディアインテリジェンス研究所ではこれらの課題に対し、DNN(Deep Neural Networks)に基づく音声合成エンジン(開発コード「Saxe(サックス)」)を開発し、多様なユースケースへの実応用を推進してきました。本稿ではその技術概要と適用事例について紹介し、最後に今後の展開について述べます。

    技術概要

    (1)文脈に応じた同形異音語の高精度な読み分け

    音声合成は、大きく分けて、入力されたテキストから読みやアクセントを推定する「テキスト解析部」と、推定された読みやアクセントから合成音声を生成する「音声合成部」から構成されます(図1)。このうちテキスト解析部では、誤った読みやアクセントを推定してしまうと合成音声の聴取者に正しい情報を伝達することができないため、入力されたテキストに対して高精度に読みやアクセントを推定することが求められます。しかし日本語では同じ表記でも文脈によって異なった読みやアクセントとなる「同形異音語(例えば、「辛い(カライ/ツライ)」、「寒気(サムケ/カンキ)」など)」が存在しており、高精度な読みやアクセントの推定に向けた大きな課題となります。
    そこで私たちは、明らかな読み誤りに対して正しい読みを推定する「読み曖昧性解消技術」を実現しました。この技術は、言語的な知見を活かした辞書と規則によって曖昧性のある語の読みを推定します。例えば、「カレー」という語が周辺に出現していれば「カライ」に加点する、という規則をあらかじめ用意しておくことで、「この店のカレーは辛いだけではない」という文における「辛い」という語は「カライ」が正しい読みであると推定します(図2)。ここで、「カライ」として考えられる語の表記を網羅的に書きつくすことは困難であるため、語のカテゴリ(例えば「食べ物」)なども規則として利用できる枠組みとすることで、規則数の削減と網羅性の向上を実現しています。この技術により、省メモリかつ高精度で正しい読みを推定することが可能となりました。…

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