更新日:2020/8/21
武田 浩司(たけだ こうじ)/ 藤井 拓郎(ふじい たくろう)/ 岸 俊樹(きし としき)/ 鹿間 光太(しかま こうた)/ 脇田 斉(わきた ひとし)/ 西 英隆(にし ひでたか)/ 佐藤 具就(さとう ともなり)/ 土澤 泰(つちざわ たい)/ 瀬川 徹(せがわ とおる)/ 佐藤 昇男(さとう のりお)/ 松尾 慎治(まつお しんじ)
IoT(Internet of Things)の進展やAI(人工知能)の利用拡大により、従来の予想を超える膨大なデータが取り扱われるようになり今後もこの傾向は持続すると考えられています。このデータ処理の増大により情報通信機器の消費電力も加速度的に増大すると推定されています(1)。このままトラフィックが伸び続け、情報通信機器の性能が変わらないとすると2030年には日本の年間消費電力量の倍近い電力を情報通信機器が消費する予測もあります。特に、データ処理は大規模なデータセンタに集約される傾向にあり、データセンタに必要な電力も加速度的に増大しています。例えば、日本のデータセンタの消費電力は、2015年時点で日本の年間消費電力の1%という試算があり、データの処理や伝送にかかる消費電力の低減が重要といえます。
このような背景のもと提案されたIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想では超低消費電力を1つの特徴とし、その実現のために、長距離通信で培った技術を短距離にも適用する光電融合技術の研究開発を進めています。現在までに光通信技術は国際間の長距離通信や国内のメトロ・アクセス網に適用され、近年ではデータセンタ間の通信に、さらにはデータセンタ内のラック間やボード間の通信に適用されています。一方、ボード内や大規模集積回路(LSI: Large Scale Integrated Circuit)間の通信には電気配線が用いられています。しかし、電気配線は、データの速度や伝送距離の増加に伴い伝送損失が大きくなるというデメリットがあります。一方、光配線は、それらが増大しても損失は一定であり消費電力の増加は小さいという特徴があります。NTTでは、ボード内の短距離通信に光技術を適用し、データの処理や伝送にかかる電子機器の高速化と低消費電力化をめざす光インターコネクションの研究開発を進めています。
情報処理用の光インターコネクションに必要なブロック構成を図1(a)に示します。情報処理用のLSIの直近に光送受信器を配置して電気信号を光信号に変換して行います。より短距離に光通信技術を適用していくためには、半導体レーザ(LD: Laser Diode)をはじめとする光デバイスの高密度集積化と低消費電力化が必須です。図1(b)に,さまざまな距離で用いられている直接変調LDの、活性領域の大きさと消費エネルギーの関係を示します。一般にLDは、活性領域が大きいほど大きな光強度のレーザ光を出射できる一方、変調時の消費エネルギーも大きくなります。テレコムでは長距離伝送のために大きな光強度が求められ、大きな活性層領域を持つ半導体レーザが必要になります。ボード間伝送といったデータコムでは、エネルギーコストを低減する必要性が増します。現在の短距離通信でもっとも広く用いられる光源である面発光レーザ(VCSEL: Vertical Cavity Surface Emitting Laser)は、その形状から多モード発振しやすく波長多重(WDM)技術の適用には向きません。通信容量を増大させるために、単一モード発振するLDと、高密度集積可能な波長多重回路の集積が求められます。また、VCSELは活性層領域を決定する共振器長を比較的短くできますが、活性層領域の微小化には限界があります。このような背景からNTTでは、ボード内光インターコネクション用の光源としてSi基板上に作製した薄膜(メンブレン)直接変調LDを開発しています。Si基板上にLDを作製することで、波長多重回路や受光素子といった光デバイスを高密度かつ低コストに作製可能なSiフォトニクスの技術が適用できます。さらに、屈折率の低いSiO2層の上にLDを形成することで、光と注入キャリアとの高い相互作用により、レーザの小型化と低消費電力化を実現できます。また、私たちはさらに微小な活性層領域からなるLDを実現するために、フォトニック結晶を用いたLDを開発しています。
本稿では、Si基板上LDの作製方法と特性について述べ、これを駆動するための相補型金属酸化膜半導体(CMOS: Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)技術を用いたドライバ回路設計技術を述べます。さらなる小型化と低消費電力化に向けて取り組んでいるフォトニック結晶を用いたLDについて述べます。
Si基板上LDの作製方法を図2(a)に示します(2)。最初にSi基板上に光回路を形成し、インジウムリン(InP: Indium Phosphide)および活性層からなる化合物半導体薄膜層をウエハ接合します。その後にLDの活性層となる部分のみを残して島状に加工し、InPで再成長することで、薄膜InP中に島状の活性層が埋め込まれた(BH: Buried Heterostructure)構造を形成します。この活性層に対して電流を注入するために、活性層の両脇にそれぞれn型、p型のドーピングをSiイオン注入、およびZn熱拡散を用いて形成します。…