更新日:2020/8/21

    シリコンフォトニクス技術による光電融合型光送受信モジュールの開発NTTデバイスイノベーションセンタ

    NTT技術ジャーナル2020年8月号:特集「IOWN構想特集 ─オールフォトニクス・ネットワーク実現に向けた光電融合技術─」より

    那須 悠介(なす ゆうすけ)/ 山中 祥吾(なかやま しょうご)

    はじめに

    通信機器の多様化とともに、通信ネットワークを経由したサービスの増大が進み、ネットワーク内でIT機器の処理すべきデータ量や消費電力は飛躍的に増大しています。今後も伸び続けるトラフィックへの対応と、さらなる大容量、低遅延、低消費電力、かつ柔軟性に優れた通信ネットワークを提供するため、NTTは新たなネットワークIOWN(Innova­tive Optical and Wireless Network)構想の実現を提案しました。

    IOWN構想を構成する3つの柱の内の1つ、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、ネットワークから端末まであらゆる所にフォトニクス技術の導入を図るというものです。APNでは、ネットワークにおける短距離伝送から長距離伝送に至るあらゆる情報伝送において、フォトニクス(光技術)の利用を図り、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量,低遅延の伝送を実現します。従来の光技術は、伝送距離が比較的長いエリアに適用されてきました。より短距離の通信にも光技術を導入するためには、光を操るデバイスの圧倒的な小型化や経済化、性能向上が必要とされます。そこで、重要となってくるのが、光と電気を一体に集積し、より効率的な動作を可能とさせる光電融合技術です。

    光電融合技術とは、光回路と電気回路を融合させ、小型・経済化に加え、高速・低消費電力化など、さまざまな性能向上を図るものです。ネットワーク内の光インタフェースに配置される光送受信部から、将来的には、1つのLSIチップ内における信号伝送を担う光送受信部まで、光電融合により光電融合回路の集積規模が拡大するほど光技術の適用範囲が広がります。

    NTTデバイスイノベーションセンタでは、ネットワーク内の光インタフェースの小型化および低消費電力化、伝送速度の拡大をめざし、シリコンフォトニクスという技術を用いた光送受信モジュールの開発を行っています。シリコンチップ上に小型の光送信回路や、光と電気の変換機能を実現する光受信回路を集積し、これを電気の増幅器等のアナログ電子回路とコパッケージすることで、光電融合型の光送受信モジュールとなります。これをデジタルコヒーレント用の光モジュールに適用することで、圧倒的な光トランシーバの小型化を実現でき、このような光送受信モジュールを私たちはCOSA(コサ:Coher­ent Optical SubAssembly)と称し、開発を進めています。このような光電融合技術は、光ネットワーク内の光インタフェース部分を大幅に小型化し、ネットワークの経済化や伝送システムの小型化に寄与できます。

    シリコンフォトニクス

    NTT先端技術総合研究所では、世界に先駆けて、シリコンフォトニクスを研究開発してきました。シリコンフォトニクスとは、大規模集積回路(LSI)技術によって培われてきた微細加工技術を用い、通信波長帯(1.3〜1.5 µm)において透明なシリコンを光集積回路のプラットフォームとして活用する技術です。

    シリコンフォトニクスは、シリコン上に単純な光受動素子だけでなく、変調器や Ge(ゲルマニウム) PD(Photo Detector)などの集積も可能であるという特徴を持ちます。NTTでも、 2000年代初頭より、基盤的研究としてシリコンフォトニクスに取り組み,さまざまな要素技術の検討を進めてきました(1)。光トランシーバ内の光デバイスは、従来、それぞれ異なる材料系を用いて実現され、光ファイバや空間光学系などで相互に接続されていました。NTTは、キーとなる光デバイス群をシリコンフォトニクスにより実現し、それらを1つのチップ上に集積することに成功しています。このようなシリコンフォトニクスチップを、電子回路とともに同一パッケージ内へ実装することで光デバイス部分の超小型化が達成できます。

    デジタルコヒーレント用光送受信 モジュール(COSA)

    デジタルコヒーレント伝送は、その強力な電気補償技術によって光伝送における信号劣化を補償することができ、これまで数百〜数千kmの長距離伝送用途として発展してきました。現在では、特にトラフィックの増大が顕著となっているデータセンタ間等の比較的短距離用途としても、このようなデジタルコヒーレント伝送技術の適用検討が進んでいます。光伝送用のデバイスの標準規格を策定する業界団体「OIF(The Optical Internet­working Forum)」は、デジタルコヒーレント用光トランシーバの消費電力やサイズについての規格を定めています。同団体は2012 年以降1〜2年ごとにデジタルコヒーレント用光トランシーバの新規格を策定し、そのたびにサイズの小型化を要求しています。2012年ころには, 5×7インチ(1インチは2.54cm相当なので12.7×17.8 cm)の大きさだったものが、最近,QSFP-DD(Quad Small form Factor Pluggable-Double Density)と呼ばれる2×8cmまでに小型化されたトランシーバサイズが要求され、伝送速度の規格も100 Gbit/sから400 Gbit/sへと増大しています。小型化と伝送速度の拡大が要求される背景には、データセンタなどにおける装置の高密度配置に対するニーズがあります。その一方、適用領域の拡大のためには、装置のさらなる経済化も必要です。このようなデジタルコヒーレント用光トランシーバの光送受信部に対し、光電融合技術であるシリコンフォトニクスの適用を行ったのが,NTTが提案したCOSAです(2)

    COSAの概念図を図1(a)に示します。1つのパッケージ内に、シリコンフォトニクスチップ、受信用PDの出力電流を電圧信号に変換するTIA(TransImpedance Amplifier)、送信変調器を駆動するためのドライバが集積されています。シリコンフォトニクスチップ内には、送信側にはIQ変調器と偏波回転合流器(PBCR: Polarization Beam Com­biner Rotator)、受信側にはコヒーレント受信器を構成する偏波分離回転器(PBSR: Polarization Beam Splitter Rotator)光90度ミキサー、高速PD(Photo Detec­tor)アレイが集積され、さらに送信受信の光信号パワー監視するモニター用PDが集積されています。従来は、これら光デバイスはそれぞれ異なる材料系を用いて別々のデバイスとして実現されており、光ファイバ等で相互に接続されていたため、サイズの小型化には限界がありました。私たちは図1(b)に示すように、これらキーとなる光デバイス群をシリコンフォトニクス技術により1つのチップ上に集積しました。このチップを、ドライバおよびTIA等の電子デバイスとともにパッケージへ実装し、400 Gbit/s伝送に対応した小型の光送受信モジュールを実現しました。

    小型化に寄与する他の要素として、温度コントロール部を省略できたこと、パッケージに気密性が必要ではないことも、挙げられます。これらは、シリコンの持つ高い屈折率や材料安定性など、材料特性を最大限に活用しつつ、独自の光回路設計を適用することで特性の温度無依存化や耐湿性を実現した結果によるものです。また、光ファイバの端面を直接シリコンフォトニクスチップに接続できたのも小型化やデバイスの低背化に貢献しました。図2はCOSAの外観写真です。COSAは現在、パッケージサイズとして19×12×2.1 mmと、極めて小型で薄い外形で実現できています。デジタルコヒーレント用光トランシーバの小型化が進んでいる現在、COSAの適用により、さらなる小型化が加速されることが期待できます。

    COSAの組み立て時、および使用(光トランシーバ内の実装)時のプロセスを図3に示します。パッケージ上に半田印刷とリフローにより部品を搭載後、チップを搭載します。その後、 高速電気信号、制御信号、および給電の入出力インタフェースとなるBGA(Ball Grid Array)を形成し、リッドを固定して完成します。これらのプロセスでは、実装の完全自動化が実現されており、COSAの高生産性と経済化に寄与しています。また、光トランシーバのPCB(Printed Cir­cuit Board)基板に実装する際も、COSAは BGAインタフェース技術の採用により、他の電子部品と同時かつ自動でリフロー実装が可能となりました。従来の光デバイスの多くは、PCB基板に電子部品をリフロー実装した後に個別に実装する必要があったため、実装工程の煩雑性が課題となっていましたが、COSAの適用により、光トランシーバ実装工程の大幅な簡略化が実現されます。

    図1 (a)COSAの概念図,(b)シリコンフォトニクスチップ外観写真
    図1 (a)COSAの概念図,(b)シリコンフォトニクスチップ外観写真
    図2 COSAの外観
    図2 COSAの外観
    図3 COSA組立工程の概念図
    図3 COSA組立工程の概念図

    今後の展開

    APNの描く将来は、ネットワークのあらゆる情報伝送においてフォトニクスへの転換を図られた、革新的な光ネットワークの実現です。…

    ■参考文献

    1. (1)特集:“新世代通信を拓くシリコンフォトニクス技術、” NTT技術ジャーナル、Vol. 21、No. 12,pp. 12‐35, 2009.
    2. (2)柏尾・那須:“Beyond 100 G 光トランスポートネットワーク用光送受信器、”NTT技術ジャーナル、 Vol. 28,No. 7,pp.15-17, 2016.

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