更新日:2020/8/21
野崎 謙悟(のざき けんご)†1、2/ 新家 昭彦(しんや あきひこ)†1、2 / 納富 雅也(のうとみ まさや)†1、2
NTTナノフォトニクスセンタ†1/ NTT物性科学基礎研究所†2
現代の光技術は、長距離の光ファイバ通信やデータセンタ内でのサーバ間通信をはじめとする大容量の情報伝送技術を牽引しています。その延長線上ではさらに短距離スケールの光伝送技術が進展すると考えられますが、その究極形はコンピュータチップの中での光ネットワーク回路の構成、そして、光による直接的な情報処理の実現です。「光コンピュータ」の実現はこれまでも光分野の研究者がめざす大きな目標の1つでしたが、CMOS電子回路技術が台頭する世にあって、光を演算処理に使う有意性を見出せずにきた歴史があります。しかし、CMOSの微細化と集積化の限界(ムーアの終焉)が徐々に近づく中で、光の高速性を利用した演算処理に対して期待が高まっています(1)。それを後押ししているのは、ナノフォトニクスと呼ばれるような、微細加工技術によって可能となる小型で省エネの光デバイス・回路技術の進歩です。また、最近ではシリコンフォトニクス技術の発展が強いシナジーをもたらし、光集積回路を小型で大規模に実装できる環境が整ってきたことで光コンピューティング研究の機運が高まっています。
一概に光演算処理といっても、光回路上だけで汎用性のあるさまざまな処理を行うことは困難といえます。電子回路技術が持つ大容量で並列なデジタル信号処理やメモリを組み合わせ、光が得意な処理は光回路へ任せることで特定の演算処理を加速させる、アクセラレータとしての機能化が重要になると考えられます(2)。特に、近年では、デジタル信号処理に限らず、機械学習や高周波信号処理をはじめとするアナログ信号処理で光を利用する価値が見直されており、CMOSエレクトロニクスとナノフォトニクスを連携させた光電融合アクセラレータのかたちが少しずつ見え始めています。
以降では、このような光電融合アクセラレータの実現に向けて必要な3つのキーデバイスと考えられる「低遅延光パスゲート回路」「光電変換素子」「光非線形素子」について紹介します(図1)。
CMOS電子回路におけるムーアの法則(微細化と集積化による性能向上の経験則)の継続を阻むのは、トランジスタや金属配線における電気抵抗や電気容量による信号遅延や発熱の増加です。電子回路ではAND-OR-INVERT論理に代表されるように、論理ゲートを多段に接続することでデジタル論理演算が行われます。このとき、後段ゲートは前段ゲートが出力する信号の到来を待つため、演算の遅延時間はゲート段数に比例して拡大します。また、演算速度を上げるために信号のビットレートを高めると、金属内自由電子の運動の増加に伴い発熱が大きくなるため、低消費電力が要求されるコンピューティング向けCMOS電子回路の動作レートは一般に数GHzに抑えられます。これらの理由から、さらなるCMOSの微細化・集積化によって、演算処理量(スループット)は上げることはできても、演算遅延(レイテンシ)は頭打ちになっているのが現状です。…