更新日:2020/01/01

    NTT R&Dフォーラム2019 特別セッション
    2030(Beyond2020)を見据えた革新的ネットワーク
    伊藤 新(いとう あらた)
    NTT 情報ネットワーク総合研究所
    所長

    Smart World実現に向けた課題と解決の方向性

    NTTグループは、パートナーとコラボレーションしながら社会課題を解決し、Smart Worldの実現をめざしています。これまでにさまざまなパートナーとのトライアル・実証実験を通して、課題の洗い出しやソリューションの具体化を進めています。
    その中で、持続可能な成長に向けた課題がみえてきました。現在のネットワークインフラは、本格的なコネクティッドカーや映像配信、遠隔医療などの低遅延サービスを全国規模で展開するには必ずしも十分ではなく、今後ネットワークの大幅なポテンシャル向上が望まれるという点です。
    課題解決の1つの方向性が、端末間のIP/non-IPトラフィックを光のまま転送する新しい革新的なネットワークの実現です。フォトニクス技術をベースとした、大容量・低遅延かつ柔軟で低消費電力なネットワークであるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)が課題解決の大きなカギとなります。
    以下、IOWNの構成要素であるオールフォトニクス・ネットワーク(APN:All Photonics Network)とコグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation)に関する主な取り組みを紹介します。

    APNにおける主な要素技術

    APNの特徴は、光の広帯域性・柔軟性を十分に活用し、端末・ユーザ・サービスごとに、多地点間にフルメッシュ接続された光パスを波長単位で提供し、最適な機能別ネットワークを実現することです。私たちはAPNを構成する基本機能を4つに整理しています。
    第1は、エンドエンドで高速・高品質のデータ転送を行うための光フルメッシュネットワーク、および無線アクセスネットワークを実現する「ネットワークトランスポート構成機能」です(機能1)。
    第2は、それらのネットワークを構築・運用する際に必要となる膨大な数の波長や周波数を効率的に収容するための「ネットワーク設計・制御機能」です(機能2)。
    第3は、ネットワークリソースやコンピューティングリソースなどのICTリソースを最適に組み合わせ、さまざまなサービス要件をにこたえる「機能別ネットワーク機能」です(機能3)。
    第4は、データ量当りの低消費電力化・低遅延化を実現する光電融合デバイス技術が適用された「端末機能」です(機能4)。
    以上の基本機能のうち、ここでは機能1〜3の代表的な要素技術について紹介します(機能4については本特集記事『オールフォトニクス・ネットワークを支える基礎技術』を参照)。

    光フルメッシュネットワーク構成技術(機能1)

    エンドエンドで光フルメッシュネットワークを実現するためのキー技術として、ペタビット級大容量波長パス技術とPhotonic Exchange(EX)/Gateway(GW)構成技術があります(図1)。
    ペタビット級大容量波長パス技術としては、1波当り最大1Tbit/sを達成する超高速光信号送受信技術(超高速デジタル信号処理技術+超高速光フロントエンド回路技術)の確立に加え、マルチコア・マルチモード技術や伝送波長領域の拡大技術(C+L帯での伝送)といった1ファイバ当りの伝送容量拡大を図る技術の研究開発を推進します。
    また、スケーラビリティ確保のためにドメイン分割したローカルフルメッシュ面の小容量パスをコアフルメッシュ面の大容量パスに光のまま載せ替えるPhotonic EX機能やアクセス面からの信号を光のまま折り返したり、ローカルフルメッシュ面へスルーさせるPhotonic GW機能の研究開発にも取り組みます。これらにより、パケット処理することなく波長パスをダイナミックに振り分けることで低遅延化と低消費電力化を実現します。

    空間データサイエンスに基づく収容設計技術(機能2)

    前述したように、APNは端末・ユーザ・サービスごとに波長を割り当て、エンドエンドで波長パス接続を行います。つまり、IoT(Internet of Things)やMaaS(Mobility as a Service)などの普及による通信端末の爆発的な増加とその通信相手の組み合わせを考えると、膨大な数の光パスと波長が必要になります。そこで、大量の光パスに対し有限の波長を効率的に割り当てる収容設計技術が重要となります(図2)。
    収容設計技術のポイントは3点あります。
    1点目は、前述のPhotonic EX/GWによる波長変換技術を活用したドメイン分割です。ローカル面を複数のドメインに分割し、ドメインの境界で波長変換を行うことで、ドメインごとに同一波長を再利用できることから波長リソースの使用効率向上が図れます。さらに、ドメイン分割することで光パスへの波長割り当て数が削減されます。発着需要の多い拠点などを中心に分割するなど、その分割方法および分割単位の最適化がカギとなります。
    2点目は、トポロジ最適化です。ドメイン内の最適経路・トポロジを導出し、波長収容効率を向上させるとともに、光ファイバの追い張りや渡り新設などの効果的なプロビジョニングを可能とします。
    3点目は、マルチレート波長群最適化です。ドメイン内での経路が同じ光パスをグループ化し、波長群として波長割り当ておよび管理することで、波長収容効率の向上と波長割り当て問題の規模削減を図ることができます。波長割り当て問題の規模を適正化することで、コヒーレントイジングマシンであるLASOLV®およびLCS/SDK(LASOLV® Computing System/Software Development Kit)を用いて最適な波長割り当てを導出できるようになります。
    これらの設計技術を組み合わせることにより、1ファイバ当りの必要波長数を1000程度に削減可能となり、マルチコアファイバで対応可能な領域に入ってきます。

    光分散コンピューティング基盤技術(機能3)

    さまざまなサービス要件に合わせ、光フルメッシュネットワークに接続された多種・多様なデバイスからの大量データを高度に処理し、安心・安全なデータ流通を実現する光分散処理技術の検討を行っています(図3)。
    ポイントは、光フルメッシュネットワークの大容量・低遅延性を活かし、広域に分散したコンピューティングリソースを光で動的かつ高密度に協調動作させる点です。それにより、遠距離に存在するコンピューティングリソースをあたかも同一地点にあるかのように動作させ、時々刻々と変化するリソース要求に柔軟に対応できるようになります。この技術により、コンピューティングリソースの高効率利用と高度なデータ処理の両立を図ることが可能となります。

    • LCS/SDK:LASOLV®イジングマシンで組合せ最適化問題を解くためのミドルウェア。
    図1 光フルメッシュネットワーク構成技術
    図1 光フルメッシュネットワーク構成技術
    図2 空間データサイエンスに基づく収容設計技術
    図2 空間データサイエンスに基づく収容設計技術
    図3 光分散コンピューティング基盤技術
    図3 光分散コンピューティング基盤技術

    CFにおける主な要素技術

    CFは、クラウド、ネットワークサービス、ユーザ設備などレイヤの異なるICTリソースの配備・設定・連携および管理・運用を一元的に実施する仕組みです。
    ミドルB事業者の業務効率化や自らの業務のデジタルトランスフォーメーションに加え、エンドユーザへの迅速なサービス提供等の利便性向上が可能となります。
    CFの実現に向けて不可欠な技術として、ユーザにネットワークを意識させず各種リソースの自動設計・自律運用を実現するユーザフレンドリーなオペレーション技術や有線・無線含めたシステム全体を高度化・最適化する技術などがあります。
    無線リソースに関する最適化技術としては、ナチュラルな無線アクセス基盤技術の研究開発を行っています。利用状況に合わせた最適な無線エリアの実現や複数無線間での連携を行うことで、ユーザに無線種別を意識させることなく快適な無線接続を提供可能になります。NTTでは、このような無線制御技術の総称を「Cradio(クレイディオ)」と名付けて研究開発を推進しています。Cradioの要素技術の1つに複数無線アクセスを最適利用するための品質予測技術があります(図4)。
    ドローンや自動運転車両、スマートフォン端末の移動などに伴う無線通信品質の動的な変化をAI(人工知能)で事前予測し、アプリケーションの要件に応じて最適な無線環境を自動選択・設定することで、多種・多様なサービスの快適な提供をめざします。

    図4 複数無線アクセス最適利用のための品質予測技術
    図4 複数無線アクセス最適利用のための品質予測技術

    新たな価値創造に向けて

    全国に敷設された光ファイバの価値向上をめざし、光ファイバを通信領域だけではなく非通信領域まで幅広く活用する研究開発にも取り組んでいます。
    一例として、光ファイバで伝送する微小エネルギーを有効活用して災害時の通信を確保する光エネルギー高効率利用技術や、光ファイバセンシングにより環境情報を取得・可視化し地域における環境情報基盤としてサービス展開する光ファイバ環境モニタリング技術(図5)などがあります。
    私たちは通信のみならず非通信領域をも含めた新たな価値創造に向け、IOWN Global Forumなどを通してさまざまなパートナーと連携しながら研究開発を進めていきます。

    図5 光ファイバ環境モニタリング技術
    図5 光ファイバ環境モニタリング技術

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