更新日:2020/01/01

    NTT R&Dフォーラム2019 基調講演
    What's IOWN? - Change the World
    川添 雄彦(かわぞえ かつひこ)
    NTT取締役 研究企画部門長

    多様な価値観と環世界

    本日の講演題目はWhat’s IOWN? - Change the worldであります。昨年は「世界をスマートに、技術をナチュラルに」と題してお話をさせていただきましたが、今年はその具体的な実行内容を紹介したいと思います。それはIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)。私からはまずはじめにIOWNの意義について少し違った視点からご説明します。

    生物に学ぶイノベーション

    突然ですが、今私は、都会の喧騒を離れ、自然豊かな緑美しい野原へとやってきました。一面に咲き誇る美しい花々、目をつむるとさまざまな花の香りまでも感じられます。もう少し近寄ってみましょう。この黄色い花をご覧ください。きれいな花ですね(図1(a))。では、こちらの画像はどうでしょう(図1(b))。これは、ノルウェーの科学者ビョルン・ロスレット氏が別の生物の目を想定して撮影した同じ花の画像です。先ほどの人間が見ている黄色い花が、その生物にはこの写真のように見えています。
    それはミツバチです。ミツバチは人が見ることができない、紫外線を見ることができます。人の眼には黄色く見える花でも紫外線で見ると花びらの中央、花粉や蜜のある場所が良く分かるようになっています。ミツバチにとっては花が美しく見えることが価値ではありません。どこに行けば蜜や花粉を集めることができるのか、それがミツバチにとっての価値なのです。
    今度は海の中に潜ってみましょう。あの物陰に何かいますね。よく見るとシャコのようです。シャコは、生物界最強の視覚システムを持つともいわれていますが、なんと12色を検知する受容体を持っています。人が、赤青緑の3種類の受容体と脳による処理でさまざまな中間色を見分けているのに対し、シャコは12色の受容体と最低限の情報処理によって、非常に速い反応速度で知覚を行っています(図2)。水中で動く獲物を素早く捕らえるための反応速度、それがシャコにとっての価値なのです。蜂の例では、人間には見えないものが見えるところがポイントでしたが、このシャコの例では情報をダイレクトに処理するメカニズムが注目ポイントです。
    生物に学ぶイノベーションは古く、生物模倣技術として注目されてきました。例えばジェット機や列車のデザインなどはそれにあたりますが、それをもう一歩先に進めたいと思います。すなわち、さまざまな生物はそれぞれ、種特有の知覚世界を持って生きており、その主体として行動しています。そういった考え方をドイツの生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュル博士は、環世界、ドイツ語を用いてUmwelt(ウンヴェルト)と命名しました。つまり、見る者によって、物の見え方はさまざまで、それぞれの価値観に応じて、伝えるべき情報も処理の仕方も変わってくることを意味しています。

    図1 ミツバチの見る花の世界
    図1 ミツバチの見る花の世界
    図2 人とシャコの見る世界と動作の比較
    図2 人とシャコの見る世界と動作の比較

    多様な価値観をとらえる技術

    多様な価値観、実は最近のスマートフォンの進展にもみることができます。例えば、焦点距離や露出の異なる複数のカメラセンサが搭載され、ユーザのニーズに合ったベストショットを撮ることができるような技術も採用されています。
    今回展示をしている中にも、ナノスケールの微細構造を持たせることで、光のさまざまな波長、偏光、そして位相を、自在に操る光メタサーフェスという基礎研究があります。まさに、先ほどの蜂の眼のセンサをつくることができるのではないかと期待している研究です。
    このように、世界を多様な価値観が広がるものととらえて、従来は価値を見出されずに取得されていなかったさまざまな情報を活用することができれば、これまで想像もできなかった価値を生み出すことができるのではないでしょうか。コネクティッドカーの例でいえば、「この道路は安全に走行できるか」を瞬時に、そして正確に確認できることが価値になります。すなわち、4Kや8Kで道路を高精細に綺麗に撮るよりも、道路が凍結していないか障害物がないかなど、さまざまな安全性を判断できる情報を網羅して撮ることが重要となります。

    IOWN

    IOWNがめざすもの

    これまで情報通信技術は、主にデジタル信号処理による高速化大容量化高効率化に向けて進歩してきました。例えばインターネットは、共通プロトコルに従い、ベストエフォートで安価なネットワークを提供することで多くのサービスやビジネスに役立ってきました。しかし、さまざまな価値観に同時にこたえられるように技術を進展していくためには、新たな技術領域に突入していくことが必要と考えます。ミツバチの環世界、シャコの環世界は、いずれもこの世界に実際に存在するものですが、今のIPの世界、デジタルの世界では欠落してしまっているものです。さまざまな価値観に応じた情報を余すことなく伝え、そして処理することで、人々に「ナチュラル」に価値を享受していただく。これがIOWNによる新たなイノベーションです(図3)。
    そのためにIOWNがめざすのは、今まで以上に膨大な情報処理を支え、従来技術の限界、主には消費電力の壁を超える変革をもたらす、革新的な情報処理基盤です。皆さんは最近、インターネットがすべての前提になっていると感じませんか。例えばIoT(Internet of Things)も、必ずしもインターネットにつながる必要はないのに、皆IoTになっています。インターネットでなければならないという、ある意味、数の論理になっているところを、価値の論理に変えていく。勇気を振り絞って、その世界に踏み出していきたい。それがIOWNなのです。そのためのDigital to Naturalの変革、そして、もう1つ重要なものが技術の制約の壁を越えるためのElectronics to Photonicsの変革です。この2つの変革により、究極の安心・安全と信頼の提供、環境に優しい持続的な成長、多様性に寛容な個と全体の最適化をめざします。

    図3 IOWN
    図3 IOWN

    IOWN Global Forum

    NTT、インテルコーポレーション(インテル)、ソニー株式会社(ソニー)の3社は、IOWNの研究開発を世界中のパートナーと連携し推進するため、新たな業界フォーラムであるIOWN Global Forumの設立を2019年10月31日に発表しました。本講演の中では、インテル、ソニーの両社からこのプロジェクトを牽引するリーダとして、それぞれAsha Keddy氏、服部雅之氏にご登壇いただき、IOWNに期待する想いを語っていただきました。

    IOWNの構成要素

    IOWNは次の3つの要素から構成されます。

    • オールフォトニクス・ネットワーク、これは情報処理基盤のポテンシャルの大幅な向上のために。
    • デジタルツインコンピューティング、これはサービス、アプリケーションの新しい世界のために。
    • コグニティブ・ファウンデーション、これはすべてのICTリソースを最適に調和させるために。

    この3つの要素について詳しく紹介したいと思います。そしてIOWNのW、無線については最後にまとめて説明します。

    オールフォトニクス・ネットワーク

    1番目はオールフォトニクス・ネットワークです。これは、電気をすべて光に置き換えるという意味ではなく、あらゆる場所で光を利用するということです。

    光電融合技術

    光の技術は、まずは長距離の情報伝送から使われ始めました。日本が世界に冠たるブロードバンド、FTTHの普及国となったのもNTTの光技術が貢献しています。一方で、CPUなどの情報処理はCMOS (Complementary Metal Oxide Semiconductor)という電子の技術でつくられています。
    IOWNでは、ネットワークだけでなく端末やサーバなど半導体の内部に至るまで、すべてに光の技術、つまりフォトニクスベースの技術の導入拡大を図ります。その根本となるのが光と電気の処理を1つのチップ上で動作可能とする光電融合技術です。実は、ネットワークのインタフェース部分では、すでにこの光電融合の技術が使われ始めています。COSA (コサ:Coherent Optical Subassembly)と言いますが、シリコンフォトニクスという技術を用いて、シリコンチップ上に小型の光送受信デバイス、光と電気の変換機能を実現しています。図4の左の写真は光電融合技術を用いていない初期の40 Gbit/s光伝送装置ですが右側のCOSA技術と比べると、その差は歴然です(1)
    これをさらに情報処理部分に適用します(図5)。はじめは、チップのすぐ近くまで光の機能を近づける、コパッケージ実装、そしてチップ間の通信も光化していきます。将来IOWNでは、右端の図のように、CMOSのチップの上層に光の入出力機能を直接実装し、光の処理と電気の処理を融合した光電融合型プロセッサの実現により大幅な低消費電力化をめざします。
    NTTでは、超低消費電力で高速動作可能な光電融合型の光トランジスタを世界に先駆けて実現しました(図6)。今年4月、英国科学誌「Nature Photonics」にその論文が掲載されました。この発明により、消費エネルギーは従来の光電融合技術と比べて約2桁削減されます。この世界最小エネルギーで動作する光トランジスタの発明がIOWN構想の源です。

    図4 COSA
    図4 COSA
    図5 光電融合技術
    図5 光電融合技術
    図6 高速高効率な光トランジスタの実現
    図6 高速高効率な光トランジスタの実現

    オールフォトニクス・ネットワークの価値

    オールフォトニクス・ネットワークでは、波長ごとに機能・サービスを割り当てることも考えられます。例えば自動運転や遠隔手術など、クリティカルなサービスを考えてみましょう。ベストエフォートのインターネット回線では安全性の不安を払拭することは難しいと思います。IOWNはサービスに応じて、場合によってはIPパケットへの変換すらせず、大容量の波長で、帯域保証された超低遅延な機能別の専用ネットワークを提供することが可能となります。まさに、先ほどのシャコが、12種類の受容体によってわずかな情報処理で高速な反応速度を実現しているかのようにです。
    光ネットワークがあるとほかにどのようなことができると思いますか。現在、NTTでは、東京大学 香取秀俊教授と連携し、教授の発明した光格子時計をNTTの光ネットワークでつなぐ共同研究を進めています。光格子時計というのは、従来のセシウムを用いた原子時計の1000倍以上も高い、10-18秒という精度で時間を測ることができる時計です。300億年たっても1秒も狂わないという高い精度です。こんな時計は、いったい何に使えるのでしょうか。例えば皆さん、富士山山頂と東京湾2カ所の時間の進み方は同じだと思いますか? 実は、アインシュタインの一般相対性理論では高度が高くなると時間の進み方が早くなります。2カ所の光格子時計を光ネットワークでつなぎ比較することで標高差をセンチメートル精度でリアルタイムにセンシングすることも可能になります。これにより例えば火山活動や地殻変動を観測し、安心・安全のための情報提供やインフラ管理に役立てることが可能になると考えています。

    デジタルツインコンピューティング

    次にデジタルツインコンピューティングについて説明します。そのポイントは大きく2つ。冒頭に説明した環世界、さまざまな価値観に基づく、世界のすべてをとらえた大規模で多様なサイバー世界の創生と、そこに幸福に生きるための自己観です。

    世界のすべてをとらえるサイバー世界

    現在、さまざまな産業領域においてデジタルツイン技術が注目されています。しかし、ほとんどがサイバー世界に単一環世界をとらえた単純コピーです。しかし、この世の中には先ほどの蜂やシャコの環世界の例でもご覧いただいたように、人にはとらえられないさまざまな情報が満ち溢れています。人類は技術革新によって、私たちの環世界からあらゆる環世界にアプローチすることができるようになります。現実世界のすべてをとらえサイバー世界に写し取り、そこから人類がいまだ手にしたことがない新たな価値を創造することをめざします(図7)。

    図7 世界のすべてをとらえるデジタルツインコンビューティング
    図7 世界のすべてをとらえるデジタルツインコンピューティング

    幸福に生きるための自己観

    しかし、ここには技術では解決できない課題があると、私たちは考えています。それは倫理の問題です。人々の生活がリアルだけでなく、サイバー世界にまで大きく広がっていったときに、従来の価値観では計れない新たな価値観や倫理観、道徳といった課題が出てくるのではないかと考えています。今でもすでに、インターネットの掲示板で匿名であるがゆえに倫理感のない発言が許されてしまう現状や、TVゲームなどの世界では簡単に相手のキャラクターの命を奪うようなこともできているわけですが、人々の生活がサイバー世界でも広く行われ、生活の一部となったときに、倫理の問題は今のままで良いのでしょうか。
    ここで、澤田が紹介した京都大学 出口康夫教授との共同研究を説明します。哲学者である出口教授は「われわれ」としての自己観という哲学の概念を提唱しておられます。自分個人は、自分1人ではなく関係する全体として、1つの目的や意図に沿って存在するものなのだ、という考え方です。例えば、より良い社会を追い求める心、これを共通の物として、現実世界とサイバー世界を結ぶことができれば、より幸福な社会の実現につながるのではないかと思っています。すなわち、IOWNが実現する世界においては、現実世界とサイバー世界とを、独立した世界でありつつも、めざすところは同じであるとして、それを自己と定義します。これが包摂的なパラレルワールド観の考え方です(図8)。

    図8 包摂的なパラレルワールド観
    図8 包摂的なパラレルワールド観

    自分自身の分身、デジタルツイン

    少し抽象的な話になってしまいましたが、次はもう少し具体的に、私自身のシミュレーションを例にご説明します。例えばとても単純な例ですが、今、私を映しているカメラから私だけを切り出して分身をつくることができます。しかしこれはあくまで今の私のコピーでしかありません。将来IOWNが実現すれば、私の分身であり私と同じ価値観を共有するツインをつくることができるでしょう。見た目や声は私のそっくりに合成することができますし、ただのコピーではなく、自分で考え話すこともできます。
    私の分身でもあるツインは、私の代わりにさまざまなことをしてくれるでしょう。例えば、講演中の私に電話がかかってきたとすれば、私の話すヒソヒソ声を聞きとって代わりに答えたり、講演の残り時間を推測して電話を受けられる時刻を伝えるなど新たな情報を提供したりもしてくれるでしょう。
    また、私のツインは、サイバー世界を通じて社会と密につながっていますので、私が認知できていない情報、例えば今の講演の聴講者の皆さんの興奮度を探り、プレゼンの仕方や視野を広げるアドバイスをしたり、さまざまな人々の医療データや、医療だけにとどまらない世界のさまざまな技術や産業の動向を踏まえて、私の未来の健康状態を予測したりすることもできるでしょう。また、リアルの私にはできないようなチャレンジを仮想的に体験し、その感動をフィードバックすることで、私自身に何らかの幸福感をもたらすこともできるかもしれません。
    いくつかの要素技術はすでに開発が進んでいます。ヒソヒソ声を音声認識する技術や、私の声で音声合成して話す技術などは、ほぼ実用的なレベルです。またNTTグループ社員の過去の健康診断データを用いて、数年後の生活習慣病の発症リスクを予測することもできています。NTTデータが提供するヘルスデータバンクのサービスを通じて利用いただいており、生命保険会社様とのコラボも進めています。
    このように、現実世界とサイバー世界がより良い関係を持つことができれば、より良い未来がやってくるのではないかと考えています。そのような世界がくれば、人々の生活はこんなふうに変わっていくでしょう。例えば自分自身はプライベートを過ごしながらも、サイバー世界のツインが他者のツインと議論をし、自身の考え方や知識を反映して業務を進めていく。リアルの自分は重要な判断が必要な個所だけかかわっていく。リアルとツインの間で、それぞれが大事にしている思いを共有していることが重要なポイントです。

    コグニティブ・ファウンデーション

    次にコグニティブ・ファウンデーションについて説明します。ICTリソースすべてを柔軟に制御し、調和させるコグニティブ・ファウンデーション。ポイントは「自己進化」と「最適化」です。

    自己進化型サービスライフサイクルマネジメント

    例えば、つい先日も台風15号や19号により大きな災害となり、通信サービスにも大きな影響がありました。被災された皆様には心よりお見舞いを申し上げます。NTTが通信基盤を提供していく中で、すでに機器が発するログから障害をAI(人工知能)が予測して自律的に対処する技術の研究開発に取り組んできましたが、これをもう一歩進めます。例えば、台風の勢力や進路といった気象情報、イベント開催情報など、ネットワーク機器を監視するだけでは分からない情報など、先ほど説明したさまざまな環世界の情報もIOWNのコグニティブ・ファウンデーションに取り入れていきます。新たに収集した情報を基に、システムが自ら考え最適化していくことで、災害発生前に対策立案し実行します。未来予測を用い、システム自体が進化していく、自己進化型のサービスライフサイクルマネジメントをめざします(図9)。

    図9 自己進化型サービスライフサイクルマネジメント
    図9 自己進化型サービスライフサイクルマネジメント

    Cradio(クレイディオ)

    IOWNのW、無線についても、新たな研究開発を進めていきます。今、世の中にはさまざまな無線の方式があります。従来の4G/LTEはもちろん、衛星通信、Wi-Fi、WiMAX、IoT向けのLPWA (Low Power, Wide Area)、そして5G、Local 5Gなど、大変複雑になってきました。NTT は、お客さまのさまざまな利用シーンにおいて、その種類や使い方、ネットワークサービスを意識させない、無線アクセスを最適化する技術の研究開発に取り組んでいます。それがCradioです。Cradioでは、場所だけでなく混雑や品質の予測に基づいて、プロアクティブに無線接続を最適化します。
    例えば、通信相手がWi-Fiのスループットが低い東京駅にいる私に、急いで情報を送りたい、といった場合にネットワークの側から最適な無線アクセスを選択し、接続を制御することもできるようになるでしょう。場所、アプリケーション、環境などに応じて、方式や事業者を意識せず、無線アクセスを利用できるような無線制御技術をコグニティブ・ファウンデーションに取り入れていきます。

    無線ネットワークの発展

    さらに、IOWNにおける無線ネットワークの技術は、オールフォトニクス・ネットワークとともにもっと先、さまざまなエリアへと拡がっていきます。海、空、そして宇宙。まさに、Connected everywhere。あらゆる場所において、IOWNでつながる世界が待っています。
    そのための研究開発も進めています。例えば、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)という、本来は量子力学における物理量に、複数のアンテナを用いる空間多重技術であるMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)技術を組み合わせ、世界最高レベルの大容量無線伝送に取り組んでいます。現在、200 Gbit/sの無線伝送まで成功しています。今後、5Gの100倍のテラビット級の無線伝送をめざし研究開発を進めています。
    また、海中で動作する重機や海中ドローンなどに利用される海中無線通信にも取り組んでいます。水が濁ると通信距離が大きく損なわれてしまう従来の可視光通信に代わり、超音波を用いた音響通信にMIMO技術を適用することで、従来の音響通信より2桁高速な多重伝送技術の開発に成功しました。これを用いればHDの高精細映像の伝送も可能になると考えています。
    そして宇宙です。NTTはJAXAと、宇宙空間と地上をシームレスにつなぐ超高速大容量で、セキュアな光・無線通信インフラの実現をめざしたビジョン共有型の共同研究を進めることを合意しました。JAXAの宇宙品質のシステム構築技術と、NTTの光・無線ネットワーク技術、そして、IOWN構想との掛け合わせにより、新たな宇宙社会インフラの実現をめざします。まずは世界初の低軌道衛星-地上局間での衛星MIMO通信技術の実現をめざし、共同研究を開始します。これが実現すれば超高速大容量な通信を宇宙空間にまで広げる宇宙通信インフラの実現に貢献することでしょう。

    IOWNが創る世界

    ここまではIOWNの3つの要素について説明しましたが、ここからはIOWNを産業に役立てていく例を紹介します。

    スマート農業

    NTTグループは、北海道大学、岩見沢市とともに最先端の農業ロボット技術と情報通信技術の活用による世界トップレベルのスマート農業の実現に向けた産官学連携協定を締結しました。このたびNTTグループとご一緒いただくことになりました、北海道大学の野口伸教授にお越しいただきました。
    川添:野口先生、現在の農業の課題はどのようなところにあるとお考えでしょうか。
    野口教授:今の日本の農業の課題はやはり労働力不足。農家戸数が過去5年間で15%も減少し、平均年齢67歳、65歳以上が65%と、高齢化も進んでいることが大きな課題です。
    川添:この6月からのスマート農業に向けた取り組みにおいてNTTの技術、そしてIOWNはお役に立てそうでしょうか。
    野口教授:協定を結んで以来、内閣官房、関係省庁をはじめ、ドイツの議員団の視察や海外メディアの取材など非常に大きな反響があります。NTTグループと一緒に世界トップレベルのスマート農業を推進できるということは非常に光栄です。連携の中ではNTTドコモの基地局を利用した高精度な測位サービスや5Gを用いた遠隔監視の実験を進めています(図10)。日本政府は2020年に遠隔監視と自動走行によるロボット農業をめざしていますが、その実現に向けて一番進んでいるのが我々のチームだと思います。またフルHDの監視画像の解像度は地上分解能で2mm、4Kになれば1mmです。これだけ詳細な画像が得られれば、単なる監視にとどまらず、生育情報や病害の発生なども見極められる可能性がある、非常に可能性のある技術でしょう。
    川添:それから最後に1つ。先ほどご覧いただいた蜂やシャコのような知覚を実現する技術。これが実は一番農業の分野に役立つのではないでしょうか。
    野口教授:そのとおりだと思います。今、生物多様性維持のために農薬の使用量を減らすことも重要となっていますが、そのためには生物学的防除、つまり天敵が害虫を捕食する仕組みを昆虫ロボットで実現することができれば、大きな可能性が期待できるのではないかと思います。
    川添:ありがとうございます。これからも一緒にスマート農業の実現に向けて取り組んでいきましょう。本日はお忙しいところ大変ありがとうございました。

    図10 北海道大学・岩見沢市と連携したスマート農業の実証実験
    図10 北海道大学・岩見沢市と連携したスマート農業の実証実験

    高齢者ケア

    最後にもう1つ、認知症患者の方のための取り組みについてご覧いただこうと思います。今、認知症を予防するための研究はさまざまな取り組みがありますが、認知症になってしまった患者さんの役に立つ取り組みや研究はなかなかありません。認知症の方々も、どうしたら幸せに暮らしていくことができるのかということを検討しています。コンセプト映像(2)をご覧ください(図11)。
    この方は認知症が発症して、息子さんの名前も忘れてしまっているようです。息子さんがキューブ型のデバイスを持ってきました。女性が記憶を思い出せるよう、デジタルツインが子どものころの息子さんの映像を見せています。映像を見た女性は何かを必死に思い出そうとしています。ペンダント型のデバイスが女性の感情、意識をセンシングして、きっかけになる音楽を見つけてきました。何か記憶が蘇ってきたようです。
    やってきたお孫さん、今日はお孫さんの誕生日だったようです。デジタルツインが新たな記憶としてお孫さんの情報を記録していきます。記憶をつなげる、人がつながる。心身の健康がもたらす幸福を誰もが享受できる未来をめざし、私たちは研究開発を進めていきます。

    図11 高齢者ケアのコンセプト映像
    図11 高齢者ケアのコンセプト映像

    IOWN for the future

    IOWNがめざす2030年、そしてその先。異常気象、医療や高齢化、食の安全などの現在危ぶまれている社会課題。さらに時代とともに、人類がこれまで経験したことのないような新たなリスクも生まれてくるでしょう。その解決のために、人類が絶え間ない技術革新を続けていく中では、既成概念やリスクを恐れることなく高い壁を越えていく必要があります。
    地球環境を守り、持続的な発展を続けていくために、1カ所にとどまることなく積極的に新たな技術革新をもって人類の福祉と繁栄をめざす。IOWN構想は、そのような人類の未来を多くの人とともに考え、創り出そうという覚悟でもあるのです。
    IOWN for the future. 本日紹介したIOWNは、まだ、NTTが思い描いた小さな始まりにすぎません。今後、たくさんの皆様とともに考え推進していきたいと思います。
    本日はご清聴、大変ありがとうございました。

    ■参考文献

    1. (1)http://www.qsfp-dd.com/wp-content/uploads/2019/07/QSFP-DD-Hardware-rev5p0.pdf
    2. (2)https://www.youtube.com/watch?v=rHzgX_kgtHo

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