更新日:2019/12/01

    人と環境が調和したスマートな世界を実現するICTの研究開発の取り組み
    人の理解を深め、行動をデザインし変化させるUX技術
    NTTサービスエボリューション研究所

    ※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。

    松浦 由美子(まつうら ゆみこ)/戸田 浩之(とだ ひろゆき)/中谷 桃子(なかたに ももこ)/倉島 健(くらしま たけし)/齋藤 晴美(さいとう はるみ)

    ウェルビーイングな生活を実現する行動デザイン

    昨今のIoT(Internet of Things)の普及により、すべてのモノが通信でつながり、そこから得られる人の処理能力をはるかに超える多次元・大量なデータを基にして、今何が起こっているのか、これからどうなるのか、それに向けてそれぞれのモノはどう動くべきなのか等を計算可能な世界が近づいてきています。今後の技術の進化により、あいまいで複雑な人の行動についてもAI(人工知能)を駆使して読み解くことができれば、モノだけでなく人もどう動くべきなのか等も分かるようになるでしょう。常に人が良い行動を自然に起こすようにできれば、その行動をAIが学び、それを基に次の行動を起こさせる、というサイクルが回り、持続的に良い行動を続ける、ウェルビーイングな生活(1)を実現することができると考えています(図1)。
    そこで私たちは、サービスデザインのプロセス研究や時空間行動の分析・モデル化の知見を背景として、人が追い求める理想となる、経済的指標だけでないあいまいで多様な「価値観の指標化」と、その理想に向けて人がどのように行動しているのか観察して「モデル化」し、そのモデルにより予測、達成度を測ることを可能とすることで、良い方向に進むための次の行動を意識せず自然に選択できるように人の認知に働きかける「インタラクション」技術の実現をめざしています。
    IoT機器を通じてさまざまな人のデータが取得できると、その観察データや、人が抱いている理想や日常行動に関するヒアリングを通して、どのような価値観の種類があるか、またそのレベルはどのように表せるか等をユーザ価値観モデルとして扱うことができるようになります。また、実際に行動したデータを通して、なぜ人はその行動をとるのか、どういった原理で人はその行動をとるに至るのか、を説明する行動モデルへの理解を深めることもできるようになります。モデル化されると、今の状況をモデルに当てはめ、この後どうなるのかを予想し、どのように動くと結果がどう変わるのか、までが分かるようになり、理想に向けて動いた結果を予測できるようになります。そして、人が情報をどう見て、対話等をどう感じているのかを解明し、気付きを与える手段を提供することで、個人や全体が理想に近づく予測結果へ人々を導く行動をデザインし、人をアシストする環境が出来上がります(図2)。
    これらが日々統合的に作用することで、個人や集団での最適な行動が必要な場、例えば移動時にとにかく最短で、混雑を避けたい、いろいろなところに寄ってみたいなど個人それぞれの事情にあった行動を促し、全体として混雑の少ない社会に導くことや、あるいは、窓口や店頭でのスタッフと、近所の人たちとの対話を通して、個人の満足だけでなく関係する人たちも満足するような方向へ人々を導くことができるようになります。そのとき、あたかも自分の意志で動いているのと同様に意識せずに良い行動を起こすことができるように、ほんの少し体が動くときにサポートしてみる、ふと気付くのに必要な情報を提供する、低下している身体能力を補うなど、スムーズで無理なく自分が拡張される、そのようなナチュラルな行動支援の実現をめざしています。
    今後、実世界だけでなくバーチャルな世界での生活も実現すると、それぞれの世界で人格を持つことも可能になるかもしれません。1人が複数の人格を持ち、行動範囲が拡大し、価値観がさらに多様化したとしても、私たちの技術でより良い行動に進めるように自然に誘導できることで、人の経験や一生がより豊かになっていく、そのような世界を期待して研究開発を進めていきます。

    図1 ウェルビーイングな生活を実現する行動デザイン
    図1 ウェルビーイングな生活を実現する行動デザイン
    図2 理想に近づくための行動デザインアシスト
    図2 理想に近づくための行動デザインアシスト

    行動デザインを実現する技術

    ウェルビーイングな生活に向けた行動理解

    人をウェルビーイングな状態に導くには、対象となる人の行動や状態、その周辺環境の理解が重要です。前述のとおり、近年のIoTの普及によるデータの収集も急速に進んでおり、私たちは、人をウェルビーイングな状態に導くためにデータを活用する世界をめざし、図3のような枠組みに基づき研究開発を進めています。この中で、私たちが一番のポイントと考えているのは、観測データの分析を行い、その観測データに記録されたことを単に理解するだけでなく、そこから得られた人の行動に関する知見を基にモデル化を行い、データのない状況でも人の行動を理解可能とする点です。これにより、観測データがない状況…

    ■参考文献

    1. (1)渡邊・大石・熊野・Hernandez・佐藤・村田・麦谷:“ウェルビーイングを測る、知る、育む、”NTT技術ジャーナル、Vol.30, No.9, pp.29-32, 2018.

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