更新日:2019/11/01

    実世界の事象をデータ化しながら活用するフィジタルデータセントリックコンピューティング
    フィジタルデータセントリックコンピューティング
    川島 正久(かわしま まさひさ)
    NTTソフトウェアイノベーションセンタ
    所長

    情報社会の進化の方向性

    内閣府は2016年にSociety 5.0というビジョンを公開しました。本特集では、このようなSociety 5.0の未来に向けてNTTソフトウェアイノベーションセンタが取り組む技術の一部を紹介します。本稿では、ITシステムは今後、どのように進化すべきかについて述べます。

    方向性1:個別最適化から全体最適化へ

    これまでのITシステムの多くは、それぞれのITシステムが独立して動作し、ユーザ要求の処理や自動化、最適化を行うものでした。例えば、カーナビは車ごとに独立して動作し、その車が目的地に向かうための最短経路を選択します。この仕組みのまま、自動運転車やMaaS(Mobility as a Service)を開発したら、道路が渋滞しやすい日本の都会では、さらにそれが激化するだけではないでしょうか。
    自動運転車やMaaSのような移動技術の革新が意味を持つためには、渋滞を回避する全体最適化の仕組みが同時に必要です。例えば、車の場所、目的地や、人の場所を集約し、社会全体の移動需要を把握したうえで、経路を分散したり、乗り合いを多用する策が考えられます。このように、複数の人・モノの状態を集約しながら、全体最適化をすることが今後は重要となると考えます。

    方向性2:Create Business Moments and Avoid Disaster Moments

    すでに多くの企業はITシステムからデータを集約しながら、市場や企業活動の実態を分析し、行動に反映させています。しかし、典型的なこれまでの仕組みでは、データの集約〜分析〜行動最適化までに1日あるいは数時間を要していました。ITシステムからデータを抽出し、横断分析を可能とするためのフォーマット変換やプライバシ情報削除処理等の加工をしたうえで、データをデータ分析拠点にコピーする処理が必要で、この処理が定期バッチ処理で行われるからです。この仕組みのまま、予測や最適化のAI(人工知能)アルゴリズムを高度化しても、1日あるいは数時間前のデータに高度なAIをあてるだけなので、できることは限定的です。
    データの集約〜分析〜行動までの時間を分、秒オーダーに短縮することで、さまざまな新たな価値を創出できるはずです。
    例えば、小学校で運動会が開かれていたり、市民球場で野球大会が行われていたりしたら、そこに移動型コンビニを向かわせます。コンビニとはいえ車両なので、積載可能な範囲でどんな商品を積むかが重要となりますが、お弁当はもちろんのこと、9月でも猛暑であれば凍結ペットポトルやかき氷を用意し、3月でも寒ければ使い捨てカイロを用意します。
    また、日本は地震や津波、台風などの自然災害が多い国ですので、地域別の人口ヒートマップ、道路状態マップ、水・電気供給状態マップをつくり、分または数秒で更新する仕組みを作成すれば、災害発生時にその状況に即して避難用バスや資源補給車を最適に走らせられます。
    このように、分、秒オーダーのデータサイクルを実現すれば、その瞬間・その場所の近傍のビジネス機会や災難に対応する仕組みを実現できます。合言葉は「Create Business Moments and Avoid Disaster Moments」。このような価値創造が今後重要となると考えます。

    フィジタルデータセントリックコンピューティング

    進化を実現するには、実世界に関するさまざまな事象をリアルタイムにデータ化しながら、多くのデータ活用者に活用可能とする仕組みが有効と考えられます。
    前述の防災の例では、地域別の人口ヒートマップ、道路状態のマップ、水・電気の供給状態のマップが有効です。また、スーパーやコンビニの売上向上のためには、店内のエリアごとの状況が分かる空間解像度の、人口ヒートマップや商品マップが有効です。レストランやコンビニは周辺地域の人口ヒートマップから数時間後の来店客を予測できます。また、農作物の生育レベルのマップをつくり、日照時間や雨量のマップと横断的な分析をすれば、最適な収穫日の予測に有効です。
    NTTソフトウェアイノベーションセンタは、実世界の事象(モノの状態、イベントの発生など)をデータ化した情報を「フィジタルデータ」と呼び、これを生成し、流通させ、活用するコンピューティングを「フィジタルデータセントリックコンピューティング」と呼び、これを実現するための技術開発を進めています(図)。

    図 フィジタルデータセントリックコンピューティング
    図 フィジタルデータセントリックコンピューティング

    フィジタルデータセントリックを実現する情報処理基盤技術

    1. 実世界のさまざまな事象のデータ化(フィジタルデータの生成)
      フィジタルデータの生成、つまり実世界のさまざまな事象のデータ化では膨大な量の演算が必要となります。
      どのように事象をとらえたいかは千差万別です。例えば、流通店舗の人口ヒートマップでは、カメラに写っている人の推定年齢、性別を識別するのが典型的ですが、体形も区別しながら分析したいというニーズもあるかもしれません。また、属性だけでなく、「商品を比較している」「商品表示を読んでいる」…

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