更新日:2019/09/01

    限界まで効率良くメッセージを送れます ―― シャノン限界を達成する通信路符号
    村松 純(むらまつ じゅん)
    NTTコミュニケーション科学基礎研究所

    NTT技術ジャーナル2019年9月号:特集「デジタルとナチュラルの共生・共創を支えるコミュニケーション科学」より

    通信路符号

    通信を行ううえでは、雑音のある環境下でも正しくメッセージ(情報)を伝える必要があります。これを実現する技術は「通信路符号」あるいは「誤り訂正符号」と呼ばれており、光通信や無線通信に限らず、計算機の内部やハードディスク・光ディスク等の記録装置、スマートフォン等で情報を読み取るための二次元コード等に応用されています。あらゆる通信機器の中に入っているといっても過言ではありません。
    雑音のある環境(通信路)が与えられたとき、正しくメッセージを伝えることができる効率には限界があります。このような通信効率の限界は、1948年にこれを発表した計算機科学者シャノンにちなんで「シャノン限界*1」と呼ばれています。しかしながら、シャノンが提案した符号は膨大な計算量を必要としていたため、その実行は困難でした。実行可能なシャノン限界を達成する符号の構成は、シャノンが創始した情報理論の70年にわたる課題です。
    その後、シャノン限界を達成する実用的な符号としてLDPC(Low Density Parity Check:低密度パリティ検査)符号*2などが開発され、近年の第5世代移動通信システム(5G)に実装されています。しかしながら、これらの符号がシャノン限界を達成するのはある特殊な通信路に限られており、一般の通信路では限界を達成できません。

    1. *1 シャノン限界:通信路符号(誤り訂正符号)の文脈においては「通信路容量」という名称として知られているものです。
    2. *2 LDPC符号:「パリティ検査行列」と呼ばれる低密度行列(成分のほとんどが0の行列)を用いて高速な復号を行います。

    研究の成果

    NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、シャノン限界を達成する符号化技術CoCoNuTS(Code based on Constrained Numbers Theoretically-achieving the Shannon limit:拘束条件を満たす系列に基づくシャノン限界を達成する符号)*3を開発しました。本技術を用いることにより、通信路符号だけでなく、情報源符号や情報理論的安全性を持つ暗号などの通信のあらゆる問題に対して、限界を達成と実行可能性を両立させる符号を構築できます。今回は、本技術を通信路符号へ応用することにより、それがシャノン限界を達成できることを数学的に証明しました(1)(2)(3)。また、シミュレーション実験により、従来のLDPC符号ではシャノン限界を達成できなかった通信路に対して、提案法が従来法を超える性能を持つことを確認しました。

    1. *3 CoCoNuTS:「拘束条件を満たす乱数生成器」を用いることにより限界を達成する通信を実現することから名付けました。

    技術のポイント

    通信路符号(誤り訂正符号)が実現する通信システム

    通信路符号が実現する通信システムを図1に示します。ここでは通信会社の基地局がメッセージを送信する送信者となり、スマートフォンを持ったユーザが受信者となっています。最初に符号器は送信したいメッセージMを符号化して通信路入力Xへ変換します。変換された信号は電波に変換(変調)されて送信されますが、電波を送受信して通信路に出力Yを得る際に雑音が混入することを想定します。復号器は通信路出力Yから元の再生メッセージM'を復元します。ここで、正しい通信とは、メッセージと再生メッセージが同一(MM')であることを意味しています。そこで、メッセージと再生メッセージが異なる(MM')事象の確率を「復号誤り確率」と定義します。この値が小さいほど性能が良いことになります。一方で、符号化レートをメッセージシンボル数と送信信号数の比と定義します。この比が大きいほど通信効率は高くなり、高速な通信が可能になりますが、通信効率を大きくし過ぎると復号誤り確率を0に近づけることができなくなります。この通信システムでは、復号誤り確率が0に限りなく近いような符号化・復号化で、可能な限り大きな符号化レートを実現することをめざします。

    図1 通信路符号が実現する通信システム
    図1 通信路符号が実現する通信システム

    符号化の具体例

    メッセージ “01” を送信することを例にして、符号化の具体的な方法を図2に示します。符号器はメッセージ “01” を符号化して通信路入力 “01011” を求めています。…

    ■参考文献

    1. (1) J. Muramatsu and S. Miyake:“Concept of CoCoNuTS、”Proc. of AEW10 , p.4, Boppard, Germany, June 2017。
    2. (2) J. Muramatsu:“Channel coding and lossy source coding using a generator of constrained random numbers、”IEEE Transactions on Information Theory, Vol.60, No.5, pp.2667-2686, 2014。
    3. (3) J. Muramatsu and S. Miyake:“Channel code using constrained-random-number generator revisited、”IEEE Transactions on Information Theory, Vol.65, No.1, pp.500-508, 2019。

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