更新日:2019/09/01

    文脈を理解して話す雑談対話システム
    NTTコミュニケーション科学基礎研究所

    NTT技術ジャーナル2019年9月号:特集「デジタルとナチュラルの共生・共創を支えるコミュニケーション科学」より

    成松 宏美(なりまつ ひろみ)/ 杉山 弘晃(すぎやま ひろあき)/ 水上 雅博(みずかみ まさひろ)/ 有本 庸浩(ありもと つねひろ)/ 宮崎 昇(みやざき のぼる)

    NTTコミュニケーション科学基礎研究所

    雑談対話システムの実現をめざして

    マイデイズをはじめとするスマートフォン上のエージェントやAIスピーカなどの普及に伴い、人と機械の対話が増えてきています。現在商用として使われている対話システムの多くは、主に、「Aさんに電話して」「今日の天気を教えて」、などのタスク実行を目的としていますが、雑談ができる対話システムにも期待が高まっています。雑談をすることには多くの効果があるといわれており、記憶の整理や人のコミュニケーションスキルの向上にも役立つと期待されています。NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、早くから「雑談」に着目をして研究を行ってきました。
    雑談を行う対話システムでは、先述のタスクを行う対話システムと異なり、ユーザの発話の話題が幅広く、ユーザの発話を事前に想定して設計することができないという難しさがあります。例えば、レストラン予約などのタスクを行う場合には、予約日時や予約者の名前と電話番号など予約をするうえで必要な情報は決まっており、ユーザの発話に含まれ得る情報をあらかじめ想定することが可能です。一方で、雑談対話では、ユーザの発話に含まれる情報を想定しておくことは難しく、ユーザのあらゆる発話に対して適切に応答することが困難でした。
    私たちの所属する研究グループでは、幅広い話題に応答できるようにするために、質問と応答、発話と応答、発話と質問などのさまざまな応答ペアを多量に用意し、機械学習の訓練データとして用いたり、文間類似度により発話選択をしたりする手法に取り組んできました。これまでの研究成果により、一問一答ベースでは、ユーザの発話に対してある程度近い応答はできるようになってきました。
    しかしながら、人と同じように対話できる相手になるためには、相手の発話に合わせた適切な応答や、文脈に整合した適切な応答ができなければなりません。本稿では、これらの問題に対する、私たちの最新の研究成果を紹介します。

    一問一答ベースの対話システムの問題点

    従来の一問一答ベースの対話システムでは、直前のユーザ発話に対して、多量に用意した発話例から近い応答を返すという戦略でした(1)。そのため、違和感のある発話や、それ以前の対話を聞いていないような発話をすることがあり、数分の対話でも「分かってくれてないな」とユーザに感じさせてしまうという課題がありました。例えば、従来のシステムでは、ユーザとの対話がしばしば次のようになります(図1)。この対話では、初めにユーザが「夏休みにたこ焼き食べた」と言ったのにもかかわらず、4発話目にシステムが「いつ行ったんですか?」と聞いてしまい、ユーザに「さっき夏休みって言ったのに、分かってないな…」と思わせています。また、「夏休みは避暑地がいい」という発話も、これまでのたこ焼きの話題から急に離れてしまうため、システムがなぜその発話をしたのか分からず、ユーザを困惑させています。こうした、①直前までの対話の内容と整合しない発話や、②根拠のない発話によって、ユーザは、「システムは分かってないな」や「このシステムは何が言いたいか分からない」と感じてしまい、システムと対話するのを諦めてしまう原因となります。これでは、コミュニケーションする相手として良いといえないどころか、ユーザに「対話できる相手」として認めてもらえず、使ってもらえなくなります。

    図1 一問一答ベースの対話システムとユーザの対話例
    図1 一問一答ベースの対話システムとユーザの対話例

    「対話できる相手」になるために

    「対話できる相手」として認めてもらうためには、少なくとも前述した問題を解消する必要があります。これは、心理学者のグライスが提唱した対話の成立条件(2)でも言われています。関連のないことを言ってはいけない(関連性の公準)、根拠のない適当なことを言ってはいけない(質の公準)が挙げられており、①文脈に整合しない発話や、②根拠のない発話は対話破綻を導くとされています。…

    ■参考文献

    1. (1) 杉山・東中・目黒:“気軽に雑談できるシステムの実現をめざして、”NTT技術ジャーナル、Vol.28, No.9, pp.16-20, 2016。
    2. (2) H.P. Grice: “Logic and conversation、”Syntax and Semantics, Vol.3, Speech Acts, pp.41-58, 1975。

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