更新日:2019/08/01
舘野 功太(たての こうた)†1、2/ 熊倉 一英(くまくら かずひで)†1
NTT物性科学基礎研究所†1/ NTTナノフォトニクスセンタ†2
持続可能な社会の実現に向け、無尽蔵でクリーンな太陽光から直接私たちの生活に必要なエネルギーを得る手法の研究開発が進んでいますが、中でも1972年にFujishimaらが初めて報告した半導体光電気化学的手法による水や二酸化炭素の還元技術(1)は、備蓄可能な燃料や有機物質を生成する技術として有望であり、現在も研究が活発に進められています。水を太陽光によって酸化還元する反応は生成物が水素と酸素であるもっともシンプルなものです。この反応では光を吸収して生じるキャリアが向かうカソードとアノードのエネルギー差は水分解に必要な1.23 eV以上(熱力学的に必要なエネルギー)でなければなりません。また、使用する材料は、毒性が低い、地球上に多く存在する、反応中に腐食せずに安定である等を考慮して選定する必要があります。光電気化学的な機能を持つものとして微小粉体の光触媒が研究されていますが、今のところ太陽エネルギー変換効率は1~2%程度で良くありません。また、カソードとアノードの反応を分離して、水素と酸素が分離できるようなデバイスが実用上は理想的です。
この点を考慮した私たちのめざすデバイスを図1に示します(2)。ガスを分離するため、透明なチューブ状の構造を作製します。チューブにはミクロン長のpin型半導体ナノワイヤが密に存在します。チューブの内側にn型半導体アノード、外側にp型半導体カソードが露出するように構成され、半導体が太陽光を吸収すると、生成した電子は水素イオンとカソードで反応して水素を生成し、正孔は水とアノードで反応して酸素を生成します。水素と酸素が分かれて発生し送り出されるため、回収が容易となります。個々の半導体ナノワイヤはそれぞれ独立に光吸収し水分解に寄与するため、いくつかが不能になっても全体の効率を高く維持することができます。また、ナノワイヤは径が非常に小さいため、格子の大きさが違う材料でも軸方向に結晶成長することができます。したがってバンドギャップの異なる材料をタンデムに接合し、太陽光の広い波長範囲で光吸収させることが可能となります。このようなチューブ状の構造は、基板表面上に垂直にナノワイヤを結晶成長した後、ナノワイヤを均一に透明樹脂で埋め込み、ナノワイヤ先端をエッチングで露出し、基板からナノワイヤごと樹脂を剥離することで作製可能です。
上記の目標のデバイスを実現するためにはたくさんの課題があります。ナノワイヤの成長においては、良好な構造で長さや太さをそろえ、高密度に形成する必要があります。また、異種材料をタンデムに成長する技術やドーピング制御技術も必要です。チューブ作製においては、透明性の高い樹脂やナノワイヤの腐食を防止する保護膜、ナノワイヤ端で反応を促進する助触媒の開発等も必要です。目標デバイスまでの道程は長いのですが、本稿では、これまで私たちが研究してきた、ウルツ鉱型のGaP(リン化ガリウム)ナノワイヤの成長と、p型n型ドーピング、ナノワイヤ電極の水分解、太陽電池作製について紹介します(3)、(4)。
GaPは間接遷移型のⅢ-Ⅴ族半導体であり、電子伝導特性や光吸収特性が劣るため、高性能なデバイスに利用することはありません。しかしながら、地球上に豊富に存在する元素で構成されるため、安価で大面積が必要な太陽電池や光電気化学的に水分解や二酸化炭素還元等を行う光電極の材料としては向いています。…