更新日:2019/08/01

    新機能ワイドギャップ半導体材料の開拓
    NTT物性科学基礎研究所

    NTT技術ジャーナル2019年8月号:特集「新機能物質・材料創製研究の最前線」より

    平間 一行(ひらま かずゆき)/ 谷保 芳孝(たにやす よしたか)/ 山本 秀樹(やまもと ひでき)/ 熊倉 一英(くまくら かずひで)

    NTT物性科学基礎研究所

    ワイドギャップ半導体のパワーデバイス応用

    ワイドギャップ半導体は、現在主流の半導体材料であるSi(シリコン)やGaAs(ヒ化ガリウム)では実現できない、低電力損失のパワーデバイスへの応用が期待されている材料です。パワーデバイスは、システムの要求に合わせて電力を直流から交流、交流から直流へと変換したり、直流電圧の昇圧・降圧、交流の周波数変換を行ったりする、電力変換デバイスです。こうしたデバイスは身の回りのいたるところで使われており、例えば、100 Vの交流をPCや携帯端末の駆動・充電に適した20 V前後の直流に変換するACアダプタもパワーデバイスの1つです。パワーデバイスをある特定の電圧で動作させたときの、半導体材料ごとの電力損失の傾向を図1に示します。電力損失は、そのデバイスの動作時の抵抗値(オン抵抗)で決まり、使われている半導体材料のキャリア濃度に反比例し、電流パスの長さに比例します。絶縁破壊電界*1が高い半導体材料ほど、キャリア濃度をより高濃度に、また電流パスもより短くすることができるため、SiやGaAsと比べて、約1桁もしくはそれ以上の高い絶縁破壊電界を有するワイドギャップ半導体を用いると、オン抵抗を3桁以上小さくすることができます。その結果、電力損失(エネルギー損失)が小さく、省エネルギー・高効率なパワーデバイスが作製できることになります。代表的なワイドギャップ半導体はSiC(炭化シリコン)とGaN(窒化ガリウム)です。これらの材料を用いたパワーデバイスは、すでに実用化が進んでおり、例えばSiCは、架線の直流電圧を交流に変換してモーターを駆動する鉄道車両用のインバータなどに使用され始めています。
    NTT物性科学基礎研究所では、次世代のワイドギャップ半導体として注目を集めているc-BN(立方晶窒化ホウ素)、AlN(窒化アルミニウム)、ダイヤモンドの研究を行っており、本稿では、半導体中でもっとも高い絶縁破壊電界を有しているc-BNについて紹介します。c-BNを利用したパワーデバイスは、ほかの半導体材料のパワーデバイスと比べて、同じ電圧で動作させたときの電力損失をもっとも小さくすることができます(図1)。SiやGaAsと比べると、動作時の電力損失を4桁以上(実用化が進んでいるSiCやGaNと比べても、さらに1桁以上)低減できるポテンシャルがあります。こうした電力損失の小さい(高効率の)パワーデバイスを、電気自動車や鉄道、また太陽光・風力発電に応用できれば、地球規模でのエネルギー利用の高効率化や資源の有効利用につながり、持続可能な社会の実現に貢献できると考えています。

    1. *1 絶縁破壊電界:絶縁体や半導体材料に印加する電界強度を大きくしていくと、ある電界強度以上で急激に大電流が流れるようになります(絶縁破壊が起こります)。絶縁破壊が起こり始める電界強度を絶縁破壊電界といい、その大きさは材料によって異なります。
    図1 各半導体材料でパワーデバイスを作製したときの動作電圧と電力損失の関係
    図1 各半導体材料でパワーデバイスを作製したときの動作電圧と電力損失の関係

    独自の手法によるc-BN薄膜の成長

    BN(窒化ホウ素)は、ホウ素と窒素からなる化合物であり、ホウ素と窒素の結合の仕方や積層の周期の違いによって結晶構造が異なります。…

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