更新日:2019/08/01

    原子層物質のCVD成長技術
    NTT物性科学基礎研究所

    NTT技術ジャーナル2019年8月号:特集「新機能物質・材料創製研究の最前線」より

    Shengnan Wang/ 谷保 芳孝(たにやす よしたか)

    NTT物性科学基礎研究所

    原子層物質

    原子層物質は原子1個もしくは数個分の厚みしかない層状の物質です(図1)。代表的な原子層物質であるグラフェンはC(炭素)原子が蜂の巣のような六角形格子状に連なった構造からなり、厚さが原子1個分しかない究極的に薄い単原子層の物質です(1)。グラフェンは、線形分散の電子のエネルギーバンドを有し、非常に大きな電荷移動度(電気伝導性)や赤外から可視光の広い領域で波長無依存の大きな光吸収性などユニークな特性を示します。さらには、物質中最大級の熱伝導性、機械的強度を有しています。
    グラフェン以外にも、MoS2(硫化モリブデン)、MoSe2(セレン化モリブデン)、MoTe2(テルル化モリブデン)、WS2(硫化タングステン)、WSe2(セレン化タングステン)、WTe2(テルル化タングステン)などの遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC: Transition Metal Dichalcogenides)や、半導体デバイスに用いられるSi(シリコン)やGe(ゲルマニウム)の原子が層状に配列したシリセンやゲルマネンなど数多くの原子層物質が存在します。例えば、TMDCは単層が原子3個分の厚みの物質で、バンドギャップが層数によって変化する特異な物性を有する半導体です。また、TMDCは大きなスピン軌道相互作用に由来するスピンに依存した電気伝導や偏光特性を有しています。
    h-BNは、周期表で炭素の両隣りのB(ホウ素)とN(窒素)からなる化合物であり、グラフェンと同じく六角形格子状の結晶構造からなる単原子層物質です。h-BNは約6 eVの大きなバンドギャップを持つ絶縁体であり、絶縁膜やトンネル障壁として機能します。さらに、h-BN上にグラフェンやTMDCを積層すると、グラフェンの電荷移動度が向上すること、TMDCの発光強度が増加することが報告され、h-BNは原子層物質の性能を最大限に引き出すために欠かせない物質です。
    現代社会を支えるシリコン半導体デバイスの微細化が限界に近づきつつある中、原子層厚で機能を発現できる原子層物質への期待が高まっています。さらに、原子層物質には、金属、超伝導体、磁性体から半導体、絶縁体まで多種多様な電子材料が存在し、また、光学的機能はテラヘルツから赤外・可視・紫外の広い光領域をカバーしています。そこで、軽くて曲げられるフレキシブルデバイス、高速・省電力の超小型トランジスタ集積回路や大容量メモリ、高効率の発光デバイス・発電デバイス、小型軽量の超高感度センサなど、高度情報化社会の発展に資するデバイスへの原子層物質の応用が期待されています。

    図1 原子層物質とそれらの応用例
    図1 原子層物質とそれらの応用例

    原子層物質の作製手法

    原子層物質の作製方法として、剥離転写法や薄膜成長法など各種提案があります。…

    ■参考文献

    1. (1) 日比野:“グラフェン研究への取り組み、” NTT技術ジャーナル、Vol.25, No.6, pp.6-8, 2013。

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