更新日:2019/08/01

    2次元伝導面を持つ高温超伝導体の基本物質のMBE成長と原子分解能観察
    NTT物性科学基礎研究所

    NTT技術ジャーナル2019年8月号:特集「新機能物質・材料創製研究の最前線」より

    池田 愛(いけだ あい)/ Yoshiharu Krockenberger/ 谷保 芳孝(たにやす よしたか)/ 山本 秀樹(やまもと ひでき)

    NTT物性科学基礎研究所

    超伝導材料研究の進展

    超伝導は、直流電流を電気抵抗による損失なし(ロスレス)に流すことができる夢の技術へつながる現象ですが、長らくマイナス140 ℃以下に冷やさなければ発現しない現象でした。現在では、ドライアイスの昇華点よりも高いマイナス70 ℃程度で超伝導転移するH3S(硫化水素)という物質が発見され(1) 、続いて、LaH10(水素化ランタン)が、室温近くで超伝導的な振る舞いを示したという報告も学術誌に掲載されています(2)。しかしながら、どちらの場合も物質自体の合成に加え、合成した物質を超伝導を発現する特定の結晶構造に保つために、地球深部での圧力に匹敵する超高圧(約200万気圧)が必要とされるため、室温近傍での超伝導性をロスレス配線や機能素子のかたちで活用するには茨の道が待っているといわざるを得ません。
    これまでに発見されている超伝導物質の中で、常圧下で最高の超伝導転移温度を示す物質群に銅酸化物超伝導体と呼ばれるものがあります。この物質群には、液体窒素温度(マイナス196 ℃)以上で初めて超伝導性を示したYBa2Cu3O7-δや、さらに約20 ℃超伝導転移温度(Tc)が高いBi2Sr2Ca2Cu3O10+δ等の物質が含まれ、主に海外で超伝導ケーブルや、携帯電話の基地局用のバンドパスフィルタとして実用化されています。しかしながら、この銅酸化物超伝導体でなぜ、高い超伝導転移温度が実現するのかについて万人が納得するような理解は得られておらず、このことが、常圧下で安定で、より高い超伝導転移温度を持つ物質の探索指針の構築を妨げています。
    超伝導の機構解明は道半ばですが、高いTcを持つ銅酸化物超伝導体に共通に含まれる結晶構造的な特徴は知られています。Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δの結晶構造を図1(a)に示します。真ん中の平面型のCu(銅)とO(酸素)から構成される層(CuO2面)を、上下からCa(カルシウム)、OがCuにピラミッド型に配位した層、Sr(ストロンチウム)、そしてBi(ビスマス)とOの層が、順々に挟み込むような構造をしています。このうち、BiとOからなる層を除く構造は、超伝導転移温度が100 K(マイナス173 ℃)以上の銅酸化物が共通に持つ構造です。この構造の中で、CuO2面という二次元的な伝導面を電気が流れることによって超伝導が発現するのですが、Cuが2+の陽イオンに、Oが2-の陰イオンになりやすい性質を持つことから、CuO2全体では、電荷中性条件が保てず、CuO2面だけを単離した(すなわち、CuO2面だけからなる)物質をつくることはできません。しかし、図1(a)中のCuO2面の上下にあるCaとともに取り出したCaCuO2や、そのCaをSrに変えたSrCuO2という構造は取り出すことができ、無限層構造という名前が付いています(図1(b))。この無限層構造の銅酸化物の合成には、バルクでは5万気圧程度の高圧が必要で、多結晶試料しか合成できませんが、薄膜では、単結晶の形で作製することができます。また、いったん作製してしまえば、常圧下でも安定に存在できます。銅酸化物超伝導体のエッセンスともいえる構造だけを抜き出した無限層構造物質は、超伝導機構にもっとも直截的に迫ることができる研究対象と考えられるため、私たちはその薄膜成長と物性測定に精力的に取り組んでいます。

    図1 銅酸化物高温超伝導体の結晶構造
    図1 銅酸化物高温超伝導体の結晶構造

    最高品質薄膜を実現する酸化物分子線エピタキシー技術

    NTTでは、半導体の分野では馴染みの深いMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)法を、数種類の金属元素と酸素から成る複合酸化物薄膜の成長に応用したオリジナルな技術を確立してきました(3)。…

    ■参考文献

    1. (1) A. P. Drozdov, M. I. Eremets, I. A. Troyan, V. Ksenofontov, and S. I. Shylin:“Conventional superconductivity at 203 kelvin at high pressures in the sulfur hydride system、”Nature, Vol. 525, No. 7567, pp. 73-76, 2015。
    2. (2) M. Somayazulu, M. Ahart, A. K. Mishra, Z. M. Geballe, M. Baldini, Y. Meng, V. V. Struzhkin, and R. J. Hemley:“Evidence for Superconductivity above 260 K in Lanthanum Superhydride at Megabar Pressures、”Phys. Rev. Lett., Vol. 122, No. 2, 027001, 2019。
    3. (3) H. Yamamoto, Y. Krockenberger, and M. Naito:“Multi-source MBE with high-precision rate control system as a synthesis method sui generis for multi-cation metal oxides、”Journal of Crystal Growth, Vol. 378, pp. 184-188, 2013。

    関連するコンテンツ