更新日:2019/08/01
若林 勇希(わかばやし ゆうき)/ Yoshiharu Krockenberger/ 谷保 芳孝(たにやす よしたか)/ 山本 秀樹(やまもと ひでき)
NTT物性科学基礎研究所
物質の原子が持つ磁化が整列し、物質全体として大きな磁化を持ち磁石として振る舞う性質を強磁性と呼びます(図1)。ここで、図中の各矢印が原子の磁化を表しています。また、磁石には電気を通すものと通さないものがあり、後者は強磁性絶縁体と呼ばれます。強磁性絶縁体には、人類が最初に発見した磁石で、方位磁針として使われた磁鉄鉱などがあります。それらは現在でも、永久磁石や高周波用素子として、スマートフォン、自動車、PCといったありとあらゆるものに使用され、テクノロジの発展を根底から支えています。近年では、電子の持つ磁気的な性質と電気的な性質を同時に活用して素子の高速動作や低消費電力動作を実現するスピントロニクス素子の研究がさかんになり、この素子の材料としても強磁性絶縁体が有望視されています。
近年の素子の電子化の潮流とあいまって、実用素子への要求性能は高まる一方であり、動作温度もその例外ではありません。車載用素子や、火災現場での災害用ロボット等を思い浮かべていただくと、室温にとどまらずより高温での安定動作が求められることが、理解いただけるでしょう。しかしながら、磁気素子の高温での安定動作の可否を決める主要な因子であるキュリー温度(その温度以上では強磁性が失われる温度)は、1930年代のフェライト磁石*1開発以降、90年近く更新されておらず、高いキュリー温度を持つ次世代の強磁性絶縁体の実現と、その探索指針の構築が待たれていました。
原子が格子を組んで規則正しく配列している固体を結晶と呼びます。このような結晶化した試料のうち、どの部分においても原子配列が同じで、構造の乱れの少ないものは単結晶と呼ばれます。次に試料の厚みが原子層厚からおおむね数十μm(1μmは1mmの1000分の1)と薄いものは薄膜(はくまく)と呼ばれます。…