更新日:2019/07/01
※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。
長谷川 隆明(はせがわ たかあき)/ 関口 裕一郎(せきぐち ゆういちろう)/ 山田 節夫(やまだ せつお)/ 田本 真詞(たもと まさふみ)
NTTメディアインテリジェンス研究所
コンタクトセンタは企業の顧客接点として重要な役割を担っています。短時間で適切に応対することによって顧客満足度を向上させることが大きな目標の1つとなっています。しかしながら、取り扱う商品やサービスの種類や複雑さは年々増大し、それに伴うオペレータに求められる知識量の増加はオペレータにとって大きな負担となり、オペレータの定着率も低下しています。このような状況の中で、特に業務経験の浅いオペレータを支援するために、応対中のオペレータに適切な情報(知識)を自動的に提示する自動知識支援システムを開発しています。
一方、オペレータに提示する情報(知識)の作成・維持には大きなコストがかかっています。これらのコストを下げるために、情報(知識)の1つであるFAQ(Frequent Asked Question)の整備を支援する技術にも取り組んでいます。本稿では自動知識支援システムおよびFAQ整備支援技術について紹介します。
自動知識支援システムは、コンタクトセンタ(コールセンタ)に電話をかけてきたお客さまの用件に基づいて適切な情報を応対中のオペレータに提示することで、業務経験の浅いオペレータを支援するシステムです。オペレータが閲覧・操作するシステムの画面を図1に示します。画面の左側にはオペレータとお客さまの発話がテキストとして表示され、画面の右側にはお客さまの用件を伝える発話あるいはオペレータの用件を確認する発話から自動で検索されたFAQからスコアの高い類似質問とその回答が表示されます。
本システムは以下のステップからなります。
音声認識から発話判定までの具体的な様子を図2に示します。
音声をテキスト化するには、最初に音声認識技術を用いますが、音声認識の結果をそのまま表示するだけではオペレータとお客さまの2人の対話を見やすくすることはできません。お客さまは電話を掛ける際に考えながら用件を伝えるため、発話がゆっくりになったり、間が空いたり、つっかえたりします。そのため、お客さまの発話の音声認識結果をそのまま表示すると、ポーズが空いたところで区切れてしまい、本来は意味的にはひとまとまりにして表示するべき発話が分割され、分かりにくくなってしまいます。自動知識支援システムでは「話し終わり判定」という機能を実現し、比較的長い単位で発話を表示しています。本機能は、音声認識の結果を受けて、オペレータやお客さまが話し終わったかどうか、言いたいことを言い切ったかどうかを判定する機能です。1000通話程度の教師データからDNN(Deep Neural Network)によって学習されたモデルによる判定に加え、相手のあいづちを無視しながら、話者が変わる話者交代の時点で直前の話者は話し終わったとみなすヒューリスティックスによる補完を行うことで、高い判定精度を確保しています。
コンタクトセンタの対話は、特定の商品に関する問合せや特定のサービスに対する手続きの依頼など、業務で扱うタスクに偏った対話であるため、対話の流れには典型的なパターンがみられます。例えば、ある保険商品に関する問合せを受け付けるコールセンタでは、オペレータによる自身の名前を名乗るあいさつから始まり、お客さまが電話をかけてきた用件を確認し、契約者や契約内容を確認したうえで、用件への対応を行い、最後にお礼を述べて対話が終了します。オペレータとお客さまの対話を理解するために、このような対話の流れを大局的につかむことは非常に重要な手掛かりとなります。私たちはこの対話の流れをつかむ機能を「応対シーン推定」と名付け、インバウンド型のコールセンタの応対シーンにふさわしいラベルを設計し、1000通話程度のコールセンタの対話ログから教師データを作成し、DNNによりモデルを学習することで、高い精度で応対シーンを推定する技術を確立しました。
FAQを自動で検索するためには、検索のためのクエリを適切に選ぶことと、検索のタイミングを適切に計ることの2点を満たすことが重要になります。検索のクエリについては、音声認識の結果をそのまま用いるのではなく、前述の「話し終わり判定」の結果を利用することで発話の分断を防ぐことができ、発話のまとまった単位を検索のクエリとすることができます。例えば、図2の例にある「実は、今月末をもって引越しをすることになりまして、」という発話で分断されると、クエリとして「引越し」というキーワードだけで検索することになり、後に続く発話に含まれる「解約」や「住所変更」といったキーワードがなければオペレータにとって有効なFAQを検索することができません。このように「話し終わり判定」の結果を利用することで、発話から適切なクエリを選ぶことが可能になります。
また、お客さまやオペレータの発話があるたびに検索するのでは、検索の頻度が多くなり過ぎて、オペレータが検索結果を確認することが難しくなります。そこで、どの発話が用件であるのかを判定する必要があります。お客さまの発話が用件を述べているかどうかを判定する「用件発話判定」と、オペレータの発話が用件を確認している発話かどうかを判定する「用件確認発話判定」という局所的な分類機能を機械学習により実現しました。このときに、前述の大局的な「応対シーン推定」と組み合わせることによって、「問い合わせ把握のシーン」の発話だけに絞って「用件発話判定」と「用件確認発話判定」を適用しています。これによって、例えば「本人確認のシーン」の発話から誤って用件を抽出することがなくなるため、用件の抽出精度を向上させることが可能になりました。このようなプロセスで、用件として判定された発話から抽出したキーワードをクエリとすることで、FAQに対する適切な検索タイミングを実現しました。
用件発話もしくは用件確認発話からFAQ検索を行っても、それに対応するFAQが検索対象として整備されていなければ、適切な検索結果を返すことはできません。…