更新日:2019/07/01

    コンタクトセンタAIの先進的取り組み
    飯塚 哲也(いいづか てつや)
    NTTメディアインテリジェンス研究所
    所長

    ※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。

    NTT技術ジャーナル2019年7月号:特集「デジタルトランスフォーメーションの未来を切り拓く先進的メディア処理技術 ―― コンタクトセンタAI」より

    田中 公人(たなか きみひと)/ 八木 貴史(やぎ たかし)

    NTTメディアインテリジェンス研究所

    はじめに

    第三次AI(人工知能)ブームが産業界で本格化してから3年以上が経過し、さまざまな分野でAIの実利用が始まっています。NTTグループでは2016年6月にAIブランドcorevo®を発表しさまざまな取り組みを進めています(1)。第三次AIブームをもたらした主要な技術は、機械学習、とりわけ深層学習(ディープラーニング)であることは疑いようがありません。深層学習は基本技術としてさまざまな問題に適用することができますが、単に適用するだけでは実際のビジネスで利用できるだけの性能が得られないことがほとんどです。適用する問題に特化したネットワークモデルを創出し、適切なデータを用いて学習することで、初めて実利用に足りる性能を発揮することができます。
    初期のAIの議論に汎用型AIと特化型AIというものがあります。汎用型AIは人間の頭脳のように1つのAIであらゆる問題を解こうとするものですが、まだまだ実現には遠い状況です。一方、特化型AIは特定の問題のみを解くことができるAIで、現在のAIはすべて特化型といえます。問題を特化することで、人間並、あるいは人間以上の性能を発揮するまでになってきています。つまり、現在のAIをうまく使っていくには、適用分野を定めて、問題に適応していくことが重要になります。
    NTTメディアインテリジェンス研究所では、AIの適用先としてコンタクトセンタを注力分野の1つとして研究開発を進めています。コンタクトセンタは多くの電話やチャット応対が日々行われ、多くのナレッジ検索や通話分析が行われています。つまり、私たちが長年培ってきた音声・自然言語処理技術を活かすことができるフィールドの1つといえます。NTTグループには多くのコンタクトセンタがあり、技術をブラッシュアップするための多くのフィールドとデータが存在します。これらの蓄積と環境を活かして、実ビジネスに適用可能な技術の創出をめざしています。

    コンタクトセンタの課題

    コンタクトセンタは、お客さまへの対応業務を電話、電子メール、チャットなどのさまざまなチャネルを通じて行うことを専門とする部署です。もともとは、申込受付やお客さまサポートを行う運営拠点として位置付けられていましたが、近年のビジネス環境の変化により、多くのお客さまの声が集まる顧客接点としての重要性が増しています。国内コンタクトセンタを取り巻く環境は、深刻化する人手不足に悩まされており、オペレータの採用や定着化が大きな課題となっています(2)。また、応対品質、すなわちCX(Customer Experience)の向上も同時に求められており、特に人の入れ替わりの激しいセンタでは、少ない人数・初級者の多いメンバという限られた運営リソースの中、いかにCXを高めるかがコンタクトセンタ・マネジメントにおける大きな課題となっています。

    コンタクトセンタにおけるAI

    コンタクトセンタには、IVR(Interactive Voice Response)、CTI(Computer Telephony Integration)、ナレッジシステム、CRM(Customer Relationship Management)など、多くのITシステムが導入されています。AIはこれらのシステムを高度化するとともに、新たな機能を提供し、さらなる運営の効率化やCX向上を図ります。
    コンタクトセンタにおけるAIの代表格として、音声マイニング技術が挙げられます。音声マイニング技術は、深層学習の適用による音声認識精度の飛躍的な向上により、実用の領域に入り、コンタクトセンタにおいてもっとも導入が進んでいるAIの1つです。NTTでは、NTTテクノクロスを通じて、音声マイニング技術(ForeSight Voice Mining: FSVM(3))の商用展開を行っています。音声マイニング技術は、「通話音声を音声認識によりテキスト化」し、「大量通話の中からコンタクトセンタ運用の課題やその解決方法のヒントを得るための統計分析・見える化」を実現します(4)。統計分析を行うことで、例えば高スキルオペレータの応対ノウハウを抽出し、センタ内に水平展開して全体のスキル向上を図ったり、センタ全体の統計情報を一覧表示することで、異常な事象(例えば、特定内容の問合せの急増)を即座に把握することができます。また音声がテキスト化されているので、通話が終わった後に会話の詳細を素早く見直すことができ、応対履歴の投入作業が早く・正確に行えるようになります。これらの機能はすでにNTTグループ内外のさまざまなコンタクトセンタで活用されており、業務効率化や売上向上などの成果を達成しています。
    音声マイニング技術の構成例をに示します。音声マイニング技術では、入力された通話音声データに対して音声認識が行われ、その結果は通話分析部にてアナリストが所望する分析に利用されます。音声マイニングは、コンタクトセンタにおけるAIのプラットフォーム的な役割を担い、他のAIモジュールを追加することによって音声認識結果をより高度に活用する機能を追加できます。NTT研究所では、音声通話から感情などのテキスト以外の情報を抽出するAIの研究開発を行っています。これらのAIにより音声認識部を拡張することで分析の幅を広げることができます。また、オペレータの応対支援に向けて、音声認識結果のテキストを用いてナレッジ提示や生成を行うAIの研究開発を進めています。これらのAIは、音声マイニング技術をプラットフォームとして活用して構築できるように構成されています。これにより、早期にコンタクトセンタの現場で動作させることが可能になっています。

    図1 音声マイニング技術の構成例
    図 音声マイニング技術の構成例

    さらなる高度化に向けて

    音声マイニング技術の商用展開を通じて、新たな課題がみえてきています。…

    ■参考文献

    1. (1) https://group.ntt/jp/corevo/
    2. (2) 月刊コールセンタジャパン編集部:“コールセンタ白書2018、”リックテレコム、2018。
    3. (3) https://www.ntt-tx.co.jp/products/foresight_vm/
    4. (4) 河村・町田・松井・坂本・石井:“コールセンタにおけるAIの活用、”NTT技術ジャーナル、Vol.28, No.2, pp.35-37, 2016。

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