更新日:2018/10/01
※記事本文中の研究所名が、執筆・取材時の旧研究所名の場合がございます。
巻口 誉宗(まきぐち もとひろ)/高田 英明(たかだ ひであき)
NTTサービスエボリューション研究所
将来の究極の映像提示手段の1つとして、3Dメガネ等を必要とせずに運動視差も含めた自然な立体視が可能な裸眼3Dディスプレイが期待されています。特に、表示対象があたかもテーブル上に実在するかのように提示できるテーブルトップ型の3D映像表示技術は、スポーツ競技のフィールド全体を俯瞰して観戦するライブビューイングや工業製品のモデリング等、幅広い応用が期待されます。複数人でテーブルを囲んでスポーツを観戦できれば、各自が自分の応援するチームのプレーを望む方向から自由に覗き込むことが可能となり、観察者どうしのコミュニケーションも飛躍的に高まります。こうした体験を実現するには、観察者の表情やアイコンタクトを妨げる特殊な3Dメガネなどを用いずに3D映像を観察でき、さらに360度の視点移動にも対応した裸眼3D映像表示技術が必要となります。
360度の視点移動が可能な裸眼3D映像表示技術としては、円錐形の特殊スクリーンに対し、微小な間隔で設置した数百台規模のプロジェクタで3D映像を提示するシステムなどが提案されています(1)。こうした、複数のプロジェクタで各視点位置に応じた視点映像を投影する手法では、3Dコンテンツを複数人が同時に裸眼で視聴できるという利点がある一方、視点移動に伴う映像の切替えをなめらかにするためにプロジェクタを密な間隔で大量に配置する必要があり、機材コストの増加や装置が複雑かつ大規模になるという問題がありました。
NTTサービスエボリューション研究所ではこれまでに、隣り合う視点映像の輝度を視点位置に応じた輝度比率で合成し提示することで、中間視点の映像を視覚的に補間して知覚させる「リニアブレンディング」という視覚系による知覚メカニズムと、そのリニアブレンディングを光学的に実現する「空間結像アイリス面型光学スクリーン」を用いることで、従来よりも4分の1~10分の1の少ないプロジェクタ数でなめらかな視点移動を実現する裸眼3D映像表示の基本技術を確立し、対角50インチスクリーンと13台のプロジェクタを用いた垂直型の視点移動対応裸眼3D映像スクリーンシステムを開発してきました(2)。また、そのスクリーンを水平方向に応用したテーブルトップ型の実現に向けた検討を進め、プロトタイプの実装によってテーブルトップ型に対してもリニアブレンディングのプロジェクタの削減効果があることを示してきました(3)。しかし、これまでの検討では垂直型に向けて開発したスクリーンと投影システムをテーブルトップ型に展開したため、光学設計の制約から視域が1方向の左右約65度に限られ、360度の全周囲化には至っていませんでした。
本稿では、リニアブレンディングを用いたテーブルトップ型裸眼3Dスクリーンシステムの視域を360度に拡張するための新たな光学構成と、60台のプロジェクタを用いたテーブルトップ型の新たなプロトタイプについて紹介します。
左右方向に微小にずれて重なり合った同一の2つの像において、それぞれの像の輝度の比率を変化させると、人の網膜上には図1(a)のような2重エッジが左右についた像として映ります。しかし、人の視覚系では、像の2重エッジの幅がある程度小さい場合には、2重エッジではなく1つのエッジとして知覚されることから、図1(b)に示すように輝度の比率に応じてエッジの位置がなめらかに遷移することが知られています(3)。この2つの像の輝度の比率分配に応じた像のエッジ知覚のメカニズムを隣接するプロジェクタの映像の重ね合わせに適用した表示原理をここではリニアブレンディングと呼んでいます。
これまで提案されている複数のプロジェクタを用いた裸眼3D映像表示では、両眼視差となめらかな運動視差を提示するために図2(a)のようにプロジェクタを両眼間隔よりも狭い間隔で設置するため、広視域化するほど大量のプロジェクタが必要になります。一方、リニアブレンディングでは、視差が融合限界内に収まる2つの視点映像を視点位置に応じた輝度比率で合成して提示することで、中間視点が知覚的に補間されるため中間視点分のプロジェクタが不要となります(図2(b))。これにより、両眼の間隔より広いプロジェクタ間隔でも両眼視差となめらかな運動視差を持つ3D映像を表示することができるようになりました。…