技術入門

伝送設計入門(第2回)

NIC 光トランスポートシステムプロジェクト

高速リンクシステムグループ 鈴木 理功(すずき りく)

#光通信システム#光ファイバ通信#伝送設計

2026/2/25

伝送設計入門(第2回)

伝送設計の概要

■はじめに

前回の第1回( 光伝送設計入門(第1回) | NIC Tech Talks )では、光信号が伝送される過程でさまざまな要因によって劣化し、その結果として BER(ビット誤り率)が増加して通信品質が悪化することを説明しました。そして、安定した通信を提供するためには、事前に伝送設計を行い、「目的地まで信号品質が保てるか」を確認する必要があることを紹介しました。今回の第2回では、その続きとして、伝送設計の核となる「伝送可否の判断方法」を解説します。具体的には、第1回で説明した劣化をどのように評価し、最終的にBERが所定の範囲に収まるかどうか、を判断していくかを紹介します。光ネットワークを設計・構築するうえで、この「伝送可否判断」は最初に理解すべきポイントであり、今後扱うOSNR、GSNR、ペナルティ といった各種パラメータの全体像をつかむ入口にもなっています。

■伝送可否判断とは

伝送可否判断とは、設計した光伝送路において、受信端で所定の通信品質が確保できるか、すなわちその伝送が成立するかどうかを事前に評価して判断することです。
判定方法として代表的なのが、誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)の訂正能力に基づく指標を用いる方法です。光信号は、送信トランシーバで電気信号から光信号へ変調されて伝送され、受信トランシーバで復調されることで元の情報が取り出されます。しかし、伝送途中で生じるさまざまな劣化要因の影響により、復調された情報には一定のビット誤りが含まれます。この誤りの割合を BER(Bit Error Rate:ビット誤り率) と呼びます。
トランシーバには FEC が備わっており、BER がある程度悪化していても、FEC の訂正能力の範囲内であれば通信品質を回復することができます。このとき、FEC が訂正可能な BER の限界値を FEC limit BER と呼びます。伝送可否判断では、受信時点で想定される BER がこの FEC limit BER を下回っているかどうかを、一つの判断基準として用います。
なお、装置の実装や仕様によっては、別の品質指標を用いて閾値判定を行う場合もありますが、本稿では FEC limit BER を用いた考え方を代表例として説明します。

■光信号の劣化要因

BER(Bit Error Rate:ビット誤り率)は信号品質と関係しており、信号品質が高いほど BER は低くなります。トランシーバから送信された光信号は、光ファイバや光増幅器などを介して受信側のトランシーバに到達するまでの伝送路のあいだに、図1に示すさまざまな要因の影響を受けて徐々に劣化します。図1は、伝送中に生じうる劣化要因の全体像(常時発生する要因と瞬時的に発生する要因の双方)を概念的にまとめたものです。各用語の詳細は後続の回で説明します。

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図 1  信号劣化のイメージ

劣化要因は大きく、(1)常時発生する要因と、(2)瞬時的に発生する要因に分類できます。常時発生するものの代表例としては、光増幅器で生じる雑音(ASE:Amplified Spontaneous Emission)や、光ファイバ伝搬中の非線形干渉(NLI:Non-Linear Interference)による波形歪みが挙げられます。ASEは、光信号を増幅するために用いられる光増幅器において発生する雑音であり、信号と同時に付加されることで、伝えるべき信号が雑音に埋もれ、受信時の信号品質を低下させます。NLIは、複数波長の光信号や高レベルの信号を同時に伝送する際に、光ファイバ中の非線形効果によって発生する干渉であり、信号波形を歪ませることで信号品質の劣化を引き起こします。さらに、光の性質に由来する波形劣化要因として、波長によって伝搬速度が異なることに起因する分散(CD:Chromatic Dispersion)や、偏波の状態に依存して生じる影響(PMD:Polarization Mode Dispersion、PDL:Polarization Dependent Loss)などもあります。一方、瞬時的に発生する要因としては、保守作業者が光ファイバに触れた際の外乱や、周囲の振動により偏波状態が急激に変化する現象などが挙げられます。これらは常時発生するわけではありませんが、発生時には一時的に受信品質が悪化し、BER が悪化して FEC の許容範囲を超えるリスクがあります。
以上の要因を考慮して、受信端のトランシーバで信号が正しく受信できるか、すなわち BER が FEC limit BER を下回る品質を確保できるかを判定します。したがって、伝送可否判定では、上記の劣化量を適切に見積もることが重要であり、次章以降で扱う OSNR/GSNR/各種ペナルティの考え方へとつながります。

■信号劣化の様子

信号品質は、信号強度とノイズ強度の比で表現され、SNR(Signal-to-Noise Ratio)と呼ばれます。特に、光伝送の分野では、OSNR(Optical Signal-to-Noise Ratio)という指標を使用します。OSNRの変化に応じてBERがどのように変化するのかを表す特性を、BER-OSNR特性と呼びます。図 2のBER-OSNR特性を例に、信号が劣化していく過程を説明します。

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図 2  BER-OSNR特性

まず、送信時点でのOSNRがスタートとなります(①)。ここでは、これをTxOSNRと呼びます。これはトランシーバ固有の性能として決まっており、トランシーバの仕様として確認することができます。次に、光増幅器を通過する際に発生するASE雑音により、OSNRは受信側の②まで劣化します。この点でのOSNRを、ここではRxOSNRと呼びます。さらに、信号が光ファイバを伝搬することにより発生するNLIによる信号劣化も加味します(③)。このASEとNLIによる劣化を考慮した指標はGSNR(Generalized Signal-to-Noise Ratio)と呼ばれます。さらに、伝送路上の波長分散(CD)や偏波依存損失(PMD、PDL)などの要因による波形劣化を補うためにBERを余分に確保する必要があり、これをペナルティと呼びます。伝送路上の各種ペナルティを考慮した値をRxBER(④)と呼び、このRxBERが誤り訂正の限界であるFEC limit BER(⑤)より小さければ伝送可能となります。
以上では、伝送判定の中心となる信号劣化の考え方を説明しました。実際の伝送判定では、これに加えて最初に伝送路条件(波長分散の蓄積量や偏波依存損失等)がトランシーバの補償範囲であることも確認します。

■伝送可否判定の流れ

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図 3 伝送可否判定フローチャート

ここまで説明した内容を、流れとしてまとめます。図 3に示す「伝送可否判定フローチャート」に基づき、以下のような手順で判定することができます。
まず、伝送路条件(波長分散の蓄積量や偏波依存損失等)がトランシーバの補償範囲内であることを確認します。
続いてOSNRを用いて信号の劣化度合を確かめます。
① 送信側のTxOSNRを確認:トランシーバの仕様で決まります。
② 受信側のRxOSNRを計算:ASE雑音が加わり、OSNRが低下します。
③ NLIを考慮してGSNRを計算:ファイバ伝搬中に発生するNLIにより、OSNRが低下します。
④ 各種ペナルティを計上してRxBERを計算:各種ペナルティにより、BERが増加します。
最終的に、RxBERとFEC limit BERを比較し、RxBERがFEC limit BERを下回れば伝送可能と判断できます。

■おわりに

本ブログでは、「伝送設計の考え方」について解説しました。記事の中で登場した各パラメータおよび用語については、今後より詳細な技術紹介を予定しております。

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