技術入門
光伝送設計入門(第1回)
NIC 光トランスポートシステムプロジェクト
高速リンクシステムグループ 栗原 秀輔(くりばら しゅうすけ)
#光通信システム#光ファイバ通信#伝送設計
2026/1/30
伝送設計入門 第1回
伝送設計はなぜ必要か
■はじめに
伝送設計は、ネットワークにおける特定の区間および構成で、誤り訂正が可能な範囲内で伝送が可能なことを確認するものです。本ブログでは、伝送設計について全7回のシリーズで解説を予定しております。今回は、伝送設計がなぜ必要か説明し、続く第2回で伝送設計の流れについて説明します。
光通信ネットワークは社会を支える基盤インフラとして、クラウドや金融、医療、物流、AI 推論処理などあらゆるサービスを支えています。これらのネットワークは光ファイバや中継ノード によって構築されています。中継ノードには複数の方向に光ファイバがつながっており、信号を伝送する方向を決めたり、長距離の光ファイバを伝搬する過程で減衰した光のパワーを増幅したりする機能があります。しかし、通信したい区間に光ファイバをつなぎ、信号を送信すれば通信が成立するかというと、そうとは限りません。信号が光ファイバを伝って目的地に到達するまでには、様々な要因により信号の劣化が生じます。 信号パワーは必要な大きさが確保されていても、信号の品質が低下するとビット誤りが 増加します。これによりパケットロスが増えるため、例えばブラウザなどでは情報が更新されず、パケット詰まりといった現象が発生します。そのため、伝送設計を行い通信品質が確保されることを事前に保証する必要があります。
■信号品質の劣化
送信する情報は、送信トランシーバで変調されて送信されます。トランシーバが信号を受信すると、復調により情報を取り出します。復調された情報は、ある率で誤りを含んでいます。信号の情報はビット列で扱うので、この誤り率をビットエラー率(BER)と呼びます。
BERは信号品質 を表す指標であり、信号品質が高ければBERは減少します。トランシーバから送信された信号は、光ファイバや光増幅器などを介して目的地のトランシーバに到達します。この信号は、送信されてから受信端に到達するまでに、様々な要因により信号品質が劣化していきます。
BERが増加する要因について、詳しい解説は別の回で予定していますが、ここでは簡単に説明いたします。
定常的にBERへ影響する要因:
定常的な要因とは、時間変動が小さく、ほぼ一定の影響を与え続ける劣化要因です。例えば、光増幅器が必ず発生させる雑音 は代表例であり、信号品質を低下させます。また、信号がファイバ内を伝搬することで生じる信号同士の干渉 も同様に、伝送距離や波長数に応じて一定の劣化量として積み重なります。加えて、波長分散、偏波依存損失 なども、伝送路条件に応じて常に存在する劣化要因です。これらの要因は設計段階で定量化できるため、伝送設計における重要な入力値となります。
瞬時的・非定常的にBERへ影響する要因:
短時間で急激に変動し、瞬間的にBERを悪化させる要因も存在します。代表例がファイバタッチです。ファイバが人為的に触れられる、機器の振動が伝わるなどの瞬間的な外力が加えられると、損失が急増したりファイバ中の光の進み方が変化したりすることで信号品質が悪化します。また、偏波状態(光の振動方向)の変動 も非常に重要な要因です。光ファイバ内の偏波状態は温度変化や機械的ひずみにより常に揺らぎ続けており、例えばファイバの近くを通行する車両の振動でひずみが大きくなる場合に、瞬間的なBERの増加を引き起こします。
■伝送設計
定常的な要因は設計段階で定量化できるため、これらを入力値として通信が成立するか、すなわちBERがエラー訂正可能な範囲内であることを判定します。また、瞬時的・非定常的要因は短時間で大きく変化するため、設計段階では最悪値や、許容範囲を設定して通信が成立することを確認します。このように、様々な劣化要因に対して、通信が成立するか否かを判定することを伝送設計と呼びます。
■まとめ
以上のように、信号は様々な要因により劣化します。そのため、安定した通信を提供するためには、信号品質の劣化が発生してもBERが伝送可能な範囲に収まることを事前に確認する必要があります。これが伝送設計になります。
■おわりに
本ブログでは、伝送設計がなぜ必要であるかについてについて説明しました。伝送設計をどのように行うか、今後より詳細な技術紹介を予定していますので、ぜひご期待ください。
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