標準化活動 - ITU-Tの概要とSG12の活動 -

標準化活動 - ITU-Tの概要とSG12の活動 -

まえがき

通信・放送サービスのQoEを決定する重要な1構成要素である「音声/音響メディアや映像メディアの知覚品質」に関する評価尺度の標準化は、主に国際連合の経済社会理事会に付託された専門機関である国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)において検討されています(図1、図2)。具体的には、通信サービス品質については電気通信標準化部門(ITU-T: ITU-Telecommunication Standardization Sector)において、放送サービス品質については無線通信部門(ITU-R: ITU-Radiocommunications Sector)において標準化検討が行われています。本解説記事ではITU-Tの概要と、その中で「品質」に関する標準化を担当する第12研究委員会(SG12: Study Group 12)の活動について紹介します。

(図1)ITU
(図1)ITU
(図2)ITUの位置づけ
(図2)ITUの位置づけ

1.ITU-Tの概要

本章では、ITU-Tの概要について説明します。

1.1.参加機関

ITU-Tへの参加が認められている機関は、ITU-Tに登録している国の政府(Member states)、これらの国が正式に認めた組織(Sector members)、地域標準を管轄する組織(欧州のETSIなど)です。大学などの機関は個別に登録せず、「政府代表団」の一員として参加することも少なくありません。Sector membersは全てのSGへの参加資格を有しますが、特定のSGのみに参加可能なAssociatesも存在しています。また、議長の要請によって、有識者を招聘することもあります。

1.2.会議の種類

ITU-Tにおける会議の種類は、SG会合、WP会合、ラポータ会合の3つに大別されます。

SG会合は最も上位の会合であり、各WP会合はこのSG会合の下位に位置づけられます。勧告のコンセント、Appendixの承認、新課題のTSAGへの提案など、SGレベルでの承認が必要な事項に関する決定権があります。

WP会合は、一般的にはSG会合と併催されます。各課題が付託されている作業部会であり、課題審議状況をSGに報告する義務を負っています。勧告のコンセントなどを行うことも可能です。

ラポータ会合は、ITU-Tが正式に認識する会合であり、Interim会合とも呼ばれます。SG会合やWP会合のような決定権はありませんが、具体的な審議を進める場として用いられています。正式な会合ではないため、事務局やマネジメントチームの参加は必須ではなく、会議費用は全てホスト負担で実施されます。

1.3.文書

ITU-Tで取り扱われる文書は、勧告、寄書、テンポラリ文書、レポートに分類されます。

(1)勧告(Recommendation)

各SGのミッションは、担当技術領域において、電気通信サービスを提供する際に必要と考えられる勧告(Recommendation)を策定することです。勧告はその技術領域毎に英語のレターが割り当てられています。例えば、Pシリーズは「Telephone transmission quality、 telephone installations、 local line networks」であり、音声品質主観評価法を規定する勧告P.800「Methods for subjective determination of transmission quality」、映像品質主観評価法を規定する勧告P.910「Subjective video quality assessment methods for multimedia applications」、オーディオビジュアル品質主観評価法を規定する勧告P.911「Subjective audiovisual quality assessment methods for multimedia applications」などが標準化されています。

勧告には、本文以外に、AnnexやAppendixといった属性があります。Annexは勧告の一部とみなされますが、Appendixは参考情報であり、勧告とはみなされません。また、Supplementという文書もありますが、これも参考情報として取り扱われます。Appendixは特定勧告に対する参考情報であるのに対して、Supplementは勧告シリーズ全体に対する参考情報と位置づけられています。この他にも軽微な修正を行うためのCorrigendumやAmendmentなどの分類があります。

(2)寄書(Contribution)

ITU-Tにおける審議の原則は"Contribution Driven"であり、ITU-Tの会員から正式に提出される寄与文書(または単に「寄書」と呼ぶ)により提案ベースで審議されます。提案があっても、寄書が提出されなければ原則審議に取り上げられません。ITUに寄書を提出するためには事前に国内審議があります。寄書は、単なる情報提供という位置づけもあり得ますが、原則は勧告化に向けた提案事項を含めることが求められます。同じ技術文書であっても学術論文とは主旨が異なります。

(3)テンポラリ文書(TD: Temporary Document)

会合期間中に発行される一時的な文書のことを指します。寄書が会員機関であれば誰でも提出できるのに対して、TDは原則、会合運営に携わる立場の人(議長、副議長、ラポータ、事務局など)のみが発行できる文書です。TDには、各課題の審議状況を報告するレポート(Status report)、他組織/機関との連携のための情報交換文書であるリエゾン文書(Liaison statement)、勧告の草案(Draft Recommendation)などの文書があります。

(4)レポート(Report)

SGやWPレベルのレポートは、会議中にTDとして発行されるだけでなく、会合後には公式文書として発行されます。

1.4.審議方法

通常のITU-TにおけるSG会合は、SGレベルの全体会合で始まり、各WPレベルの全体会合で本格的な技術議論が開始されます。実質的には、各課題のAdhoc会合によって具体的な議論が行われます。各課題の審議をリードするのはラポータ(Rapporteur)と呼ばれるリーダです。共同ラポータ(Co-Rapporteur)やラポータ補助(Associate Rapporteur)、勧告のエディタ(Editor)を置くこともあります。少人数の場合には、車座になって議論することもあるが、基本は議長席に司会役(議長やラポータ)が座り、発言者は挙手するという形式をとります。SGレベルの全体会合では国連の公用語のうち参加者から要請があった言語に同時通訳されますが、それ以外の会議は、通常、英語のみが用いられます。審議の結果は、ラポータによるStatus reportという形でWPに報告され、これをWP議長がまとめてWP reportとしてSGに最終報告されます。特にこれらの過程で「判断」が必要なのが、勧告草案の「合意(Consent)」、「削除(Deletion)」と、勧告のAppendix草案や外部に送付されるリエゾン文書の「承認(Approval)」です。

1.5.勧告承認手続き

ITU-Tにおける勧告承認手続きにはTAP(Traditional Approval Procedure)とAAP(Alternative Approval Procedure)が存在します。料金に関する承認手続き(SG3)のように構成国の正式な協議を必要とする案件を除き、技術的な勧告はほとんどAAPによって処理されます。

AAPでは、まずSGレベルで勧告草案についての合意(Consent)を得た後、ITU事務局から勧告の承認手続きに入った旨が、各国に連絡されます。ここからラストコール(LC: Last Call)と呼ばれる4週間のレビュー期間に入り、どこからもコメントがなければ勧告は自動的に承認されます。一方、何らかのコメント等があった場合には、これを解決するための修正が加えられ、追加レビュー(AR: Additional Review)が行われます。これでも解決しない場合はSGに審議差し戻しとなります。