NICの研究開発

ネットワーク品質を保証するためのオンデマンド品質可視化・制御技術

NIC 光トランスポートシステムプロジェクト

多治見 知紀(たじみ ともき)

#ネットワークスライシング#MEC#通信品質

2026/1/15

はじめに:なぜ今、ネットワーク品質が重要なのか?

社会インフラにおける通信キャリアの担う役割が拡大する中で、ネットワーク品質への関心、特に「信頼性」への要求が高まっています。例えば、5Gで注目されている自動運転や遠隔医療等のユースケースでは、もし通信が途切れたり、遅延したりすれば、それが重大な事故に直結する可能性があります。このようなサービスを実現するためには、無線アクセスネットワークからデータセンタネットワーク(各種サーバ群)まで、複数のネットワークに跨る「端から端まで(エンド・ツー・エンド、E2E)」での高い信頼性・品質を確保が必要となります。
今回は、サービス毎に異なる要求品質に応じてネットワーク品質を予測・改善する「オンデマンド品質可視化・制御技術」についてご紹介します。

E2Eスライスによる柔軟なネットワーク提供

私たちNICはこれまで、「E2Eスライスサービス」の課題解決に取り組んできました。E2Eスライスサービスは、端末からMECやデータセンタにわたるE2Eのネットワークを「スライス」と呼ばれる単位で分割し、提供する機能です。図1に示すように、この機能はスライスごとに「超低遅延」「大容量」「多数接続」といった異なる通信特性を持たせることができるように設計されており、アプリケーションの特性に応じて適切なスライスを選択できます。このように多種多様なアプリケーション特性に応じたネットワークサービスを迅速に提供するため、私たちのチームではこのE2Eスライスサービス機能と、認証結果に応じた経路振り分けやQoS(Quality of Service)制御を組み合わせることで、様々なサービス提供事業者に対して、オンデマンドに最適なネットワークを提供することを実現しました。[1]

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図 1 E2Eスライスサービスのイメージ

新たな課題:変動する品質への対応

一方で、自動運転や遠隔医療のようなミッションクリティカルなサービスにスライスを提供するにあたっては、以下のような課題がありました。

  • 多様な要件への対応:ネットワークがサービス要件を満たしているか事前に把握できなければ、多種多様なサービス要望に応えられない
  • 品質の急激な悪化:モバイルネットワークの品質は、利用者の増減、端末の移動などによって時々刻々と変化する。これによりサービス提供中に通信品質が急激に悪化する可能性がある
  • これらの課題を解決するために、私たちは「オンデマンド品質可視化・制御技術」の開発に取り組んでいます。
    本技術は、次の2つの主要機能により構成されています。

    機能①:未来の品質を「予測」する(E2E品質推定機能)

    本機能は、ネットワーク装置情報に基づいてE2Eでのネットワーク品質を「推定(予測)」する機能です。従来、ネットワークが要件を満たしているかを評価するには、実際にサービス提供エリアで通信品質を測定する必要がありました。しかし、今後サービスがますます増加することを考えると、一つひとつ測定することは現実的ではありません。
    本機能ではネットワーク装置から取得した情報と、E2Eで構築されるスライスの情報を紐づけます。そして、様々な機械学習手法を用いて分析・評価することで、実際に測定することなく、スライスごとのネットワーク品質を推定します。私たちは実際に街中でサンプルとなる通信品質情報を収集・分析することで推定モデルの精度向上を目指しています。

    機能②:自律的に「改善」する(E2E品質対処予測・フィードバック機能)

    本機能は、スライスの品質低下を検知・予測した場合に、改善のための適切な対処方法と、その対処による将来の品質変化を予測し、提供する機能です。
    モバイルネットワークの通信品質は、端末の移動(電波品質の変化)の影響だけでなく、周辺ユーザの利用状況、サーバの負荷など、様々な要因を受けて変化しやすいという特性を持っています。そのため、たとえ一時的にサービス要件を満たしていても、急激に通信品質が悪化し、サービス継続が困難になる可能性があります。
    本機能は、品質劣化の要因が疑われるネットワーク装置に対し、最適な設定(対処案)を提案します。さらに、その設定が反映されると品質がどう変化するかを予測し、結果を品質変化予測モデルへフィードバックさせます。この機能により、E2Eスライスは常に品質を改善し続け、高い品質を維持したままサービスを継続できます。
    現在私たちはLLMを使ったネットワーク障害の分析・対処にも取り組んでおり、通信品質の維持と改善のためのより高度な「自律的なネットワーク運用」の実現を目指しています。

    今後の展望

    近年の通信業界では、キャリア共通API(OpenGateway)を用いて、ネットワークサービスとサードパーティ製のアプリケーションを連携させる動きが活発化しています。私たちNICも、端末アプリケーションと連携して、より詳細な品質情報を収集・活用することで、さらなるユーザ体感品質の向上を目指します。他にもオペレータからの回線開通要求と連携したネットワーク構築など、今回ご紹介した以外にも様々な技術開発に取り組んでおりますので、今後の記事にもご期待ください。

    参考文献

    [1] 移動固定融合時代のオンデマンドな機能提供を可能にするネットワーク仮想化技術 | NIC Tech Talks

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