『NTT R&Dフォーラム 2018(秋)』開催報告

NTT研究所の研究成果を紹介する「NTT R&Dフォーラム」。例年、年明けの2月に開催されていたが、今回は3ヶ月ほど早く2018年11月29日(木)~30日(金)の2日間にわたり、"Transforming Your Digital Visions into Reality"をコンセプトに「NTT R&Dフォーラム2018(秋)」としてNTT武蔵野研究開発センタ(東京・武蔵野市)で開催された。
講演会場では、代表取締役社長の澤田 純、取締役研究企画部門長の川添 雄彦両氏による基調講演のほか、3つの特別セッションが行われた。
展示会場では、「メディア&UI」、「AI/IoT」、「セキュリティ」、「ネットワーク」、「基礎研究」といったテーマごとの展示に加え、AI/IoTを中心とした技術を用いた「Smart World」への取り組みを示す研究も展示された。
本稿では、展示の中から、特に注目を集めていた研究をピックアップしてレポートする。

写真1:R&Dフォーラム2018(秋)
写真2:多くの来場者がつめかけたR&Dフォーラム2018(秋)の会場

メディア&UI

「メディア&UI」というメインテーマを、さらに「新たなUXを創るメディア技術」、「202Xを彩るUI技術」という2つのサブテーマに分け、臨場感あふれるユーザ体験を実現するメディア処理関連技術や、一人ひとりに適したサービスを実現するユーザインタフェース関連技術の展示が行われた。

ダイバシティ・ナビゲーション〈バリアフリー情報を効率的に収集・更新できます/道順をイメージできる案内で視覚障がい者を支援します〉(202Xを彩るUI技術:A01/A02)

本展示では、NTTが推進する、高齢者や障がい者、子育て世代、訪日外国人などの身近な移動を安心・便利にサポートするコンセプト「ダイバシティ・ナビゲーション」を実現する技術として、バリアフリー情報の収集技術「MaPiece」(まっぴーす)と案内文生成技術という2つの技術が紹介されていた。
MaPieceには、「測ってMaPiece」、「みんなでMaPiece」、「歩いてMaPiece」という3つの技術がある。先行して開発された、専門知識がなくても調査を可能にするボランティア向けの「測ってMaPiece」は、すでにバリア情報の収集ツールとして活用段階に入っている。そして、今回新しく加わったのが、日常生活の中で見つけた情報を投稿してもらう形でバリアフリー情報を収集する「みんなでMaPiece」と、専用アプリをインストールしたスマートフォンを利用して路面情報を収集する「歩いてMaPiece」の2つ。
また、案内文生成技術は、収集された路面情報を利用して自動生成された視覚障がい者にもわかりやすい案内文により、初めての場所でも安心・安全に移動できることを支援する技術。
まず「歩いてMaPiece」のデモとして、街中を擬似的に再現した道路をベビーカーで移動するだけで、通った道にある段差などの路面情報を収集する実演が行われた。収集されたセンサデータはサーバへ送信され、分析によって路面の状態が推定可能となる。
さらに、案内文生成技術のデモとして、収集された路面情報に基づいた音声ナビゲーションによって点字ブロックによる警告がない段差でも視覚障がい者がつまずくことなく歩けることを示すデモも行われ、来場者の注目を集めていた。
今後は、「ダイバシティ・ナビゲーション」の実現に向けて研究を進めていく。

NTT研究所の研究成果を紹介する「NTT R&Dフォーラム」。例年、年明けの2月に開催されていたが、今回は3ヶ月ほど早く2018年11月29日(木)~30日(金)の2日間にわたり、"Transforming Your Digital Visions into Reality"をコンセプトに「NTT R&Dフォーラム2018(秋)」としてNTT武蔵野研究開発センタ(東京・武蔵野市)で開催された。
講演会場では、代表取締役社長の澤田 純、取締役研究企画部門長の川添 雄彦両氏による基調講演のほか、3つの特別セッションが行われた。
展示会場では、「メディア&UI」、「AI/IoT」、「セキュリティ」、「ネットワーク」、「基礎研究」といったテーマごとの展示に加え、AI/IoTを中心とした技術を用いた「Smart World」への取り組みを示す研究も展示された。
本稿では、展示の中から、特に注目を集めていた研究をピックアップしてレポートする。

写真3:スマートフォンをつけたベビーカーで移動している様子
写真4:スマートフォンの移動により段差や点字ブロックなどの路面情報が収集される
写真5:音声ナビゲーションにより視覚障がい者がつまずくことなく移動できる

Kirari!により世界中に競技空間を創り出します(新たなUXを創るメディア技術:A05)

遠隔地の競技空間やライブ空間を、ネットワークを介してリアルタイムに「丸ごと」伝送し、再現をめざす超高臨場感通信技術「Kirari!」。
本展示では、このKirari!を支えている個々の要素技術が紹介されていた。まず、大掛かりな仕掛けで目を引いたのが「Kirari! for Arena」。これは、任意背景被写体抽出技術を用いてグリーンバックがなくてもリアルタイムに被写体だけ抽出し、Advanced MMTにより位置情報とともに同期伝送し、中継先で奥行き感をともなった擬似3D提示をすることで、世界中に競技空間を創り出す技術である。
従来のKirari! for Arenaはライブ中継には対応していなかったが、距離センサを用いてリアルタイムに被写体の位置を追跡し、映像データと統合してAdvanced MMTにて同期伝送するシステムを開発することで、ライブ中継が可能となった。この伝送フォーマットはITU-T SG16 Immersive Live Experienceにて標準化が進められており、2020年までの勧告化を目指している。
Kirari! for Arenaの対面で展示されていたのが「サラウンド映像合成伝送技術」と「波面合成音響技術」。複数台の4Kカメラの映像からワイド映像をリアルタイムに合成し伝送するサラウンド映像合成伝送技術は、GPUプロセッサを用いた並列処理により、従来からの処理遅延の短縮、サーバ台数の削減を実現した。また、波面合成音響技術については、球体スピーカからビーム状に発せられた音響信号を天井に反射させ、天井を仮想的なスピーカとして利用するデモが行われた。これにより、天井などへのスピーカ設置に制約のある会場においても、高さ方向を含めたサラウンド音響を実現することができるようになった。
このほかにも、デジタルコンテンツのサプライチェーンをブロックチェーンで構築するコンセプト展示や被写体抽出技術を利用した遠隔窓口のデモなども展示されていた。

写真6:Kirari! for Arenaの展示デモでのジャグリングの様子
写真7:ジャグリングの様子が隣室の擬似3D表示装置に奥行き感をともなって表示される
左右にある球体スピーカからの音響信号を反射させることで天井が仮想スピーカに変わる

「おもてなし」サービスを実現します(202Xを彩るUI技術:A14)

本展示で紹介されていたのは、現実の風景に"かざす"簡単操作で透明なディスプレイに様々な情報を表示し、ユーザに「おもてなし」サービスを提供する技術。おもてなしサービスとして開発を進めているのは、「かざして案内」、「翻訳」、「情報配信」、「ナビゲーション」など。
「かざして案内」は、情報を取得したい物に透明ディスプレイをかざすと、情報が表示される。展示では、空港をイメージした案内板に透明ディスプレイをかざすと、レストランやラウンジの空き情報が表示されるデモが行われていた。
「翻訳」は、対話する相手に透明ディスプレイをかざしながら話すことで、異言語同士でも相手の顔を見ながら会話することができる。
また、「情報配信」では映像を透かして見ながら英語のナレーションを日本語字幕で表示でき、「ナビゲーション」ではセンサを使って会場内ブースを案内することができる。
いずれのサービスも、データ処理やコンテンツ生成に必要なリソースをクラウドやエッジ上に配置する技術によって、デバイスのシンプル化を実現している。
利用シーンは、訪日外国人向けの観光ナビゲーションや美術館・博物館での作品説明、空港や駅スタッフのオペレーション支援を想定している。

写真8:案内板のレストランのアイコンにディスプレイをかざすと店ごとの空席状況が表示される
写真9:ディスプレイに話した言葉の翻訳文が表示される

光投影技術を用いて絵や文字に影による奥行を与えます(202Xを彩るUI技術:A09)

印刷物や手書きの絵や文字に影を投影することにより、浮き上がっているように見える効果を与える「浮像」の展示。
仕組みは、対象物の形を読み取り、それに適した影となる部分を即座に作成して、プロジェクションマッピングで投影することで実現している。投影する影の具合を変更することによって、浮き上がり方を調節することができる。
利用シーンは、広告やアート、子供を対象にした遊びなどを想定している。

写真10:浮像の仕組み
写真11:その場で書いた文字も即座に浮き上がって見える

Smart World

「Smart World」というメインテーマを、さらに「Smart City」、「Smart Mobility」、「Smart Agriculture」、「Smart Shipping」、「Smart Factory」、「Smart Healthcare」という6つのサブテーマに分け、AI/IoTを中心とした技術を用いてパートナーとともに実現していく「Smart World」の取り組みに関連する展示が行われた。

イベント来場者の最適な誘導計画策定をサポートします(Smart City:G04)

人気イベントでは、開始前や終了後といった同時刻に多くの人が移動するため、混雑により駅などの目的地に着くまで時間がかかってしまうことも少なくない。また、時間がかかるだけでなく、過密状態になることで将棋倒しなどの危険が伴うこともある。こういった事態を避けるため、人流の誘導計画の立案が重要となる。
本展示の技術は、様々な誘導策を組み合わせて誘導計画の提案を行う。より安全を優先する場合は「混雑度係数」を高く、より早くを優先する場合は「到着係数」を高くするなど、係数の設定によって目的に応じた「最適さ」にカスタマイズすることもできる。
本来、こうした誘導計画を考えるうえで誘導策は非常に多くの組み合わせがあるため、最適な結果を求めようとするとすべての組み合わせを試すために多くの時間が必要となる。しかし、本技術では限られた時間内でほぼ最適な結果が得ることができる。
今後は、警備・交通・観光・都市計画・流通など多様な分野への展開をめざす。

写真12:安全重視の誘導策として評価尺度を設定した例
写真13:効率重視の誘導策として評価尺度を設定した例

hitoe®を使いリハビリ患者の活動状態を可視します(Smart HealthCare:G07)

これまでのR&Dフォーラムでも、医療やスポーツなど、様々な用途での利用例が紹介されてきた機能素材「hitoe®」。今回の展示では、リハビリ向け活動推定・モニタリングシステムへの利用例が紹介された。
hitoe®によって収集されるバイタルデータに姿勢や歩行といった活動推定ロジックを組み合わせることにより、リハビリ患者の長期かつ連続した心拍・活動データを取得し、心拍負荷や日常活動における連続データの可視化を実現している。
リハビリ患者の使用をふまえ、hitoe®の衣類部分は従来の化学繊維から綿との混紡に変更された。これにより、従来よりも汗を吸いやすくなり、リハビリ時の汗で蒸れにくくなった。
また、従来はトランスミッタからスマートフォンにデータ転送していたが、建物に設置されたIoTゲートウェイを使ったデータ転送も行えるよう改良された。これにより、常時スマートフォンを身につける必要がなくなり、患者の快適さが向上した。
こうして得られたデータは、ネットワークを介してサーバ上に蓄積・集計され、医師、療法士、看護師などがタブレットやPCから参照することで、患者に適切なフィードバックが行える。
今後は、リハビリにとどまらず、患者や医療者の負担軽減や、遠隔リハビリの在宅支援への発展をめざす。

写真14:リハビリ患者の使用を想定したhitoe®
写真15:hitoe®によって収集されたバイタルデータ
写真16:活動推定ロジックを元にした患者向けフィードバック

AI/IoT

AIブースでは、「AI」というメインテーマを、さらに「人を支えるAI」、「社会を支えるAI」、「基盤技術」という3つのサブテーマに分け、新たな価値創造を実現するNTTグループのAI関連技術に関連する展示が行われた。
また、IoTブースでは、「IoT」というメインテーマを、さらに「Sense, Connect & Drive」、「Data & Software Logistics」、「Analytics & Prediction」という3つのサブテーマに分け、バリューパートナーとしてお客さまのデジタルトランスフォーメーションを加速するIoT関連技術の展示が行われた。

AIによる多数多様な商品認識で人の作業を軽減します(人を支えるAI:H03)

少数の画像からでも3D物体を高精度に認識する、「アングルフリー物体検索技術」。今回は、変形されていても同一物体と認識できるよう機能向上がなされた「変形対応アングルフリー物体検索技術」が展示された。
本技術では、幾何学的拘束を物体全体に適用するのではなく、複数の部分領域ごとに適用することで、画像特徴の対応関係から正しい対応を正確に特定する「変形対応幾何検証技術」を用いている。これにより、物体が変形していても正しい対応を特定することが可能となった。従来の市中技術で同様の機能を実現するには、変形具合に応じた多数の画像が必要となるため手間がかかる。
利用シーンは、倉庫などでの商品ピッキング作業の支援や在庫管理、コンビニなどでの無人レジなどを想定している。

写真17:変形対応アングルフリー物体検索技術と従来技術との比較
写真18:スナック菓子やゼリー飲料のような柔らかい包装の商品でも認識できる

対話技術に基づくインタビュー体験を提供します(人を支えるAI:C01)

黒柳徹子さんのアンドロイド「totto」の展示。アンドロイドとしてのtottoはtotto製作委員会によって2017年に製作されたものだが、2018年に自律的に会話を行う音声対話システムが搭載され、黒柳さんにより近づいた自然な対話が行えるようになった。
「あなたどこからいらしたの?」という黒柳さんの特徴的な問いかけから対話が始まり、相手の回答に対して「あらそうなの」という相槌を交えながら自然に対話を行っていくデモに来場者の注目が集まっていた。
技術的なことを感じさせないほどやり取りは自然だったが、実際には新しく搭載された音声対話システムだけでも非常に多くの技術が活用されている。
まず、黒柳さん本人が話しているかのようなそっくりな声や口調は、黒柳さん自身に話してもらって録音したものではなく、過去の放送コンテンツをニューラルネットワークで学習することによって実現した音声合成技術を利用している。
また、言語理解に基づいてパターン化された相槌などのやり取りを行う技術、ニューラルネットワークを用いた学習を基に相手の発話に合わせて同意する表現や質問を生成する技術、放送コンテンツから抽出した発話の解析結果とニューラルネットワークを用いた応答を高精度に選択する技術などが会話に活かされている。
さらに、相手の発話に合わせて頭の動き、視線、表情、ハンドジェスチャ、身体姿勢といった身体の動きを自動生成する技術や、突然の対話開始や発言中の割り込み時には発言を止めて待つ技術などを利用することで、より円滑な会話を実現している。
今後は、tottoに導入された機能を対話エンジンとしたバーチャルユーチューバーや既存キャラクターとの対話サービスへの応用などをめざしている。

写真19:身振り手振りを交えながら自然な対話を行う「totto」

聞きたい人の声に耳を傾けるコンピュータ(人を支えるAI:F08)

本展示で紹介されていたのは、複数人の会話が交じる音声の中から特定の人物の音声だけを取り出す技術「SpeakerBeam」。
特定の人物の音声を取り出すには、事前に取り出したい人物の音声データを登録しておく必要がある。ただし、長い時間の音声情報は必要なく、10秒程度の音声データを登録するだけでよい。数多くの日本語音声データをDeep Learning(深層学習)で学習したAIが、登録音声データの特徴を抽出し、話者の位置に関係なく、マイクロホンアレー技術と組み合わせることで高品質な音声抽出を実現している。
展示では、複数人の音声とともに話した研究員の音声の中から、研究員だけの音声を抽出するデモが行われていた。抽出する前は複数の声が重なり合って非常に聞き取りづらかったが、抽出後はほぼ研究員だけが話しているような音声となり、かなり明瞭に音声を聞き取ることができた。
利用シーンは、特定の話者にだけ反応するロボットやホームアシスタント、聞きたい声だけを聴くことできるボイスレコーダーや補聴器などを想定している。

写真20:SpeakerBeamの仕組み
写真21:複数人の音声が入り乱れた音声の中から研究員の音声だけを取り出すデモ

日本人がしゃべった英語をできるだけ正確に文字にします(人を支えるAI:F03)

スマートフォンに搭載されているAIアシスタントを英語設定にして英語で話しかけても、話したとおりの英語として聞き取ってくれないことがある。
本展示の技術は、日本人が話す英語の特徴を学習したAIを利用しているので、話した英文をできるだけ正確に英語テキストとして表示する。この技術をスピーキング練習やテストなどの語学学習に活かすことで、これから英語の勉強を始める人などに対して、「まずは話してみよう!」という学習意欲の向上を期待している。
展示デモでは、英語を習い始めた人が話すときによくやるミスの例として、意図的に三人称単数のときにつく「s/es」や冠詞の「a/the」を抜いた英文を話しても、正確にそのとおりの英語テキストとして表示され、赤字で訂正される様子が紹介された。

写真22:本技術を利用した語学学習用アプリの画面

ネットワーク

「ネットワーク」というメインテーマを、さらに「柔軟で高速なネットワーク」、「迅速にサービス提供・復旧するネットワーク」、「ネットワーク・ITソリューション」という3つのサブテーマに分け、経済化と柔軟性を実現するネットワーク技術に関連する展示が行われた。

最先端のファイバ・デバイス技術でモノづくりを革新します(ネットワーク・ITソリューション:E20)

レーザ光を照射したときに発生する熱エネルギーで対象物を加工することを「レーザ加工」と呼び、溶接・切断・穴あけなどの用途で自動車や航空機などの製造に幅広く利用されている。
このレーザ光には、シングルモードとマルチモードという2つのモードがある。前者は出射光が狭く加工精度が高いものの、伝送距離が数メートル程度に制限されるという問題がある。一方、後者は数百メートルという長距離伝送が可能だが、出射光が広くなってしまうため加工精度で劣るという問題がある。
本展示で紹介されていたのは、kW(キロワット)級シングルモードレーザ光の数十~数百メートル伝送を可能にする「フォトニック結晶ファイバ」、出射ビームの【方向】を自在に制御する「KTN結晶」、出射ビームの【形状】を自在に制御する「計算機ホログラム」と呼ばれる技術。
これらの技術を利用することにより、加工する場所や加工物の大きさに制約を受けにくくなるため、作業の飛躍的な効率化を図ることができる。

写真23:新しいレーザ加工システムのイメージ
写真24:KTN結晶(左)とフォトニック結晶ファイバ(右)母材の展示

様々なシーンに対応したアクセスサービスを提供します(柔軟で高速なネットワーク:E06)

「FASA(Flexible Access System Architecture)」は、アクセスシステムの機能を部品化し、その機能をソフトウェア化する新しいアクセスシステムのアーキテクチャ。汎用の装置をベースにアクセスシステムを構成できることと、要件に応じて柔軟かつ低コストにサービスを提供できることが利点である。
本展示では、FASAに基づいたOLTとして、「BOX型OLT」と「モジュール型OLT」という、特長の異なる2種類の機器が展示されていた。OLT(Optical Line Terminal)は、FTTHサービスの電話局側の終端装置で、現在は専用の機器が利用されている。
BOX型OLTは、通信事業者の収容局内などの環境下で用いることを想定しており、従来のFTTHサービスに加え、モバイル基地局収容などへの適用が期待される。
モジュール型OLTは、従来のOLTの機能のうち、ハードウェアによる実現が必須となる機能のみを小型のモジュールに収めたもの。ソフトウェア部品化されたOLT機能が格納された汎用サーバとの組み合わせにより、工場、大学やオフィスビル内などの構内LANへの適用が期待される。
いずれのOLT機器も、システムの性能をつかさどる「帯域割当制御機能」をソフトウェア部品として入れ替えられるよう、共通APIを用意している。この共通APIを備えたソフトウェア部品を開発することで、様々なサービス用途に対応することができる。

写真25:FASAに基づいたBOX型OLTの展示

DVD 1枚分のデータ量を1秒以内で無線伝送します(柔軟で高速なネットワーク:E02)

2020年のサービス開始をめざして研究開発が進む5G(第5世代移動通信システム)。5Gによって飛躍的なネットワーク性能の向上と魅力的なサービスの登場が期待されているが、その5Gのさらに先をいくことをめざしているのが本展示の技術。
現在、利用されていないTHz(テラヘルツ)帯で動作する超高速ICにより、1波で100Gbpsの無線伝送が可能なことを実験により実証した。これだけではどの程度の速度かわかりづらいが、DVD1枚分のデータが1秒以内でダウンロード可能という途方もない速度となる。
まだ実験段階だが、5Gの10倍の伝送容量であり、5Gの次に向けたデバイス技術となるべく研究開発が続けられている。

写真26:300GHz帯での100Gbps無線伝送実験の様子
写真27:300GHz帯で動作する送信モジュール(左)と受信モジュール(右)

セキュリティ

「セキュリティ」をテーマに、サイバー攻撃への対策強化とデータ利活用社会の早期実現に貢献する、守りと攻めの先端セキュリティ技術の展示が行われた。

匿名化がパーソナルデータ活用を後押しします(セキュリティ:E26)

2017年に全面施行された改正個人情報保護法の重要な改正点のひとつとして挙げられるのが、「匿名加工情報」の導入である。改正前の個人情報保護法では、個人情報を利用目的以外に利用したり、第三者に提供したりするには本人の同意を得る必要があった。しかし、改正後の個人情報保護法では、個人情報を匿名加工情報に加工すれば、目的外での利用や第三者への提供が可能となった。これにより、個人情報をビジネスに利活用することができる。
本展示で紹介されていたのは、匿名加工情報の作成基準をふまえ、個人情報の加工を行う「匿名加工情報作成ソフトウェア」。加工には、匿名性の代表的な指標である「k-匿名性」を満たす匿名化を実装している。
具体的には、希少な人のデータを取り除く「削除」、項目の値をより粗くする「一般化」といった一般的な手法に加え、NTTが独自に開発した「Pk-匿名化」など、データの種類や分析目的に応じて使い分けることができる。さらに、加工したデータについて匿名性・有用性を複数の指標で評価することもできる。
利用シーンには、匿名化した医療データの創薬研究や医療AI開発のほか、匿名化した購買データのマーケティングや商品開発などを想定している。

写真28:匿名加工情報作成ソフトウェアの画面(匿名加工情報作成画面)
写真29:匿名加工情報作成ソフトウェアの画面(匿名加工情報評価画面)

鍵交換の負荷を軽減し、安定したVPN接続を提供します(セキュリティ:E25)

昨今、リモートワークの増加により、自宅などからVPN(Virtual Private Network:仮想専用線)を利用して会社内の端末へリモートアクセスするのが一般的になりつつある。VPNを用いたリモートアクセスは、暗号技術に基づいているためセキュリティが確保される。
しかし、始業時刻などに多数のVPN接続要求が集中した場合、VPNサーバは多数のユーザと暗号鍵の交換を行うため、大量のサーバリソースを使用する必要がある。その分、すでにリモートワークを利用しているユーザのVPN通信が遅くなったり、新規にリモートワークを行うユーザのVPN接続確立に時間がかかったりするなど、VPNサービス全体の品質が低下することになる。
多者間鍵交換技術は、ユーザ認証の処理をVPNサーバが行い、鍵交換処理はすでに鍵交換が完了しているユーザに安全に委託する。これにより、VPNの安全性を保ちつつVPNサーバの負荷を低減させ、大量のVPN接続要求を安定して処理することができる。
展示デモでは、VPNサーバのCPU負荷の比較を行っており、従来技術のSSL-VPN接続がたびたび100%に達していたのに対し、多者間鍵交換技術はCPU負荷がほとんどない状態だった。また、同時に行っていた、50ユーザ同時アクセス時のSSL-VPN接続の状況比較では、従来技術がVPNサーバのCPU負荷増大の影響で半数近くがタイムアウトによる接続失敗したのに対し、多者間鍵交換技術ではすべての接続が成功しており、安定したVPN接続が行える様子を確認することができた。
利用シーンは、企業でのVPN接続のほかに、人気のある動画コンテンツに同時アクセスする際の接続処理などを想定している。

写真30:多者間鍵交換技術を利用したSSL-VPN接続(赤線)はVPNサーバのCPU負荷が低い
写真31:従来技術のSSL-VPN接続(画面左)は半数近くが接続失敗となった

基礎研究

「基礎研究」をテーマに、未来を拓き社会に変革をもたらす基礎研究の最新の研究成果を展示が行われた。

存在を意識させないデバイスをめざします(基礎研究:B03)

現在、様々なデバイスが私達の身の回りを取り巻いている。今後、さらにデバイスが増えていくと、デバイスの存在感が煩わしく感じるようになるかもしれない。本研究は、存在を意識させないデバイスの開発をめざしており、その一環として「透ける電池」が展示された。
「透ける電池」は、光の吸収を抑制しやすい材料を電極として選択し、さらに光の吸収と反射を抑制しやすい構造になるように電極を作成することで実現している。この結果、電池の光透過率は23%ほどで、一般的なサングラスに近い透過率をもつ。
電池としての性能は、平均電池電圧1.7V、放電容量0.03mAh(電流密度0.01mA/cm2)ほどで、一般家庭にある掃き出し窓の約1.5個分のサイズで市販のコイン電池の容量に相当する。また、充放電可能な二次電池として動作し、充放電を100回繰り返したあとでもLED点灯が可能である。
さらにこの電池は、電極を導電性フィルム上に成膜し、電解質をゲル化することで、「透ける」機能に加えて、「曲がる」機能も実現しており、多彩な用途での利用が期待される。
ウェラブルデバイス、情報表示ディスプレイ、建物の窓といった建材との組み合わせなどの利用を想定しており、用途に応じた電池性能と透明度のバランスが今後の研究課題となる。

写真32:フィルム形状の透けて曲がる電池(左奥)とガラス板形状の透ける電池(右手前)

難問を桁違いの性能で解きます(基礎研究:B06)

レーザ光を利用して難問を高速に解くコヒーレントイジングマシン「LASOLV」と、そのハードウェアを動かすミドルウェア/アプリケーションの展示。
半導体や電子回路から構成されアルゴリズムで問題を解くデジタルコンピュータとは異なり、LASOLVはループ状の光ファイバの中を回るレーザ光パルスを(磁石のN極S極に相当する)スピンに見立て、スピン全体が安定した状態に落ち着く物理現象で問題を解く。
LASOLVが得意とするのは、膨大な選択肢の中から最も良いものを探す組合せ最適化問題を解くこと。組合せ最適化問題には、Max Cut問題(最大カット問題)やGraph Coloring問題(グラフ彩色問題)など様々な問題があるが、いずれも現在のコンピュータの難問であり、解くために多くの計算時間を必要とする。
前回の展示ではMax Cut問題を高速に解くデモを行ったが、今回はGraph Coloring問題の一例として、LASOLV実機をつないで日本地図で隣接する都道府県を異なる色で塗り分けるデモが実演された。デモではアニメーションを含めて十数秒程で解答が表示されたが、実際のLASOLV実行時間は5ミリ秒以内で解を探し出しているとのこと。
今回の展示では、解ける問題のバリエーションが増えたことと、ライブラリやSDKの提供により研究者だけでなく普通のプログラマが利用できる環境を構築できたことが伝えられた。今後は、社会や産業界の様々な組合せ最適化問題に適用するため、LASOLVの特性を引き出す方向でハードとソフト一体で強化を進めていく。

写真33:コヒーレントイジングマシンの動作イメージ展示
写真34: 日本地図を使ったグラフ彩色問題を瞬時に解く(塗り替え前)
写真35: 日本地図を使ったグラフ彩色問題を瞬時に解く(塗り替え後)