通信・デバイス技術

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ネットワークの革新をめざす光電子融合ハードウェア技術

大容量光伝送技術を支え、ネットワークを革新する光電子融合ハードウェア技術

コンピューティング基盤は、半導体の集積率が18ヶ月で2倍になるというムーアの法則に沿って高性能化が進んできましたが、微細加工や集積密度の制約により、電子回路による処理速度や消費エネルギーには限界が近づいています。

このような背景から研究が進んでいる光通信デバイスの革新的な技術の1つに光電子融合ハードウェア技術があります。光電子融合ハードウェア技術とは、通信用デバイスに用いる光デバイスと電子デバイスを機能的に融合し、単独デバイスでは成し得なかった高性能化、高機能化、小型化を達成する技術です。

今までのハードウェアでも光デバイスと電子デバイスを組み合わせて一緒に使うものはありましたが、これらは個別の機能の足し合わせでした。光電子融合ハードウェアは光デバイスと電子デバイスが融合して1つのデバイスを形成し、機能の足し合わせでは達成し得なかった性能を実現します。光電子融合ハードウェアは、複数の光回路と電子回路が1つのプラットフォーム上に集まり、機能面で連携制御されて動くため、集積回路でなければ実現できません。その結果として光デバイスだけ、あるいは電子デバイスだけではできない高性能化をもたらします。

100Gbps 超の光伝送を実現する技術として「デジタルコヒーレント光伝送技術」の普及が進んでいます。これに伴い、「デジタルコヒーレントトランシーバ」などのデジタルコヒーレント光伝送用装置の小型化が求められています。

通信ハードウェアのパラダイムシフトの源になるシリコンフォトニクス技術とは

小型化の課題解決を大きく進展させたのがシリコンフォトニクス技術です。シリコンフォトニクス技術とは、光素子のシリコン化と超小型集積化を進め、シリコン光回路とシリコン電子回路の集積によって一体化した光電子融合をめざす技術です。

シリコンを用いることで、電子回路を低コストで生産できる高度な量産設備を活用することが可能となり、ネットワークを支える光デバイスの高機能化と低コスト化の両立が期待されています。同時に、光回路とそれを制御する電子回路の一体化や、LSI中の信号伝送への光通信技術応用等を通じた光電子融合によって、ネットワークシステムの消費電力抑制も見込まれています。

シリコンフォトニクス技術の大きな魅力の1つが「光回路の超小型化」が実現できることです。シリコンはガラスに比べて屈折率が大きく、多数の光回路を集積でき、成熟した半導体製造技術を使って経済的に集積回路を作成できる利点があります。一般に光回路で用いられるガラス(SiO2)材料に対して、導波路の加工寸法や曲げ半径が桁違いに小さくなり、従来数cmサイズであった光回路をmmサイズ以下に抑えられます。さらに高機能な信号処理を得意とするシリコンCMOS集積回路との集積化が可能になり、光と電子を融合したシステムオンチップ(SoC)が低価格 ・ 小型に実現できます。

また、シリコンフォトニクスによる光変調器は、化合物半導体を使った従来の光変調器と異なり、温度調節が不要なため、冷却のための素子(TEC)を省くことで、厚みを小さくできます。さらに、水分によって性能が劣化する化合物半導体を使った光変調器と異なり、気密パッケージを使わずにすみます。レンズを介して光を出し入れする必要がある気密パッケージに対し、非気密パッケージでは、光ファイバをパッケージの端面に接着する「端面接続」が可能のため、レンズを省くことで厚みを小さくすることができます。現在では、指先に乗る数ミリ角のチップに、光変調器とコヒーレント受信器が集積できるようになっています。

このような、光と電子技術の組み合わせが、さらなるネットワーク革新の鍵を握ると考えられます。これらの技術を活用して、NTTでは光と電子が融合したシステムであるフォトニクスネットワークの構築をめざしています。フォトニクスネットワークは、サーバやルータなどの電子装置からの電気的な情報を光信号として送受信する光トランシーバと、情報の行き先を切り替えるノード装置(電気や光によるスイッチ機能)から構成され、それぞれ電子デバイスと光デバイスの組み合わせで実現されています。

最近NTTでは、世界最小の消費エネルギーで動作するナノ光変調器や、光入力信号を別の光へ変換・増幅出力させる「光トランジスタ」を実現しました。この技術では、ナノスケールの光電子集積によって、光による高度な信号処理技術をプロセッサチップの中へ導入することが可能となりました。今後は、この技術を積極的に活用することによって、従来にない超低消費エネルギーで高速なコンピューティング基盤の実現をめざします。

参照

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