2023/03/29

日本電信電話株式会社は、バイオデジタルツインの実現に向けて、光刺激で素早く動くハイドロゲル※1薄膜を、独自のオンチップ構造形成法※2により生体を模した薄膜・管状構造とすることで、生体器官※3の動きを再現できる運動素子を作製することに成功しました。
今回NTTでは、培養基材としても使用されている温度応答性のポリイソプロピルアクリルアミドゲル※4の薄膜を、光に反応して発熱する金ナノロッド※5と複合化し、光刺激で体積変化が可能な材料を設計・作製しました。さらに独自手法で本材料を生体に類似した薄膜・管状構造へと形状制御することで、光刺激による腸管の分節運動※6と蠕動運動※7を、生体器官に匹敵する性能で実現しました。
本成果は、チップ上に生体内環境を再現する基盤技術であり、多角的・精細な各種臓器のデータ取得が可能なオンチップ型人工臓器※8の創製を通じて、バイオデジタルツイン※9の構築・検証につながるものと期待されます。
本研究の詳細は、米国東部時間2023年3月16日、米国科学誌 Advanced Functional Materialsに掲載されました。
生体外において細胞を培養し、臓器のような高度な生体機能を人工的に再現する技術は、細胞生物学や再生医療、創薬などの幅広い分野において重要です。特に、センサ基板上などで生体機能を再現可能なオンチップ型人工臓器が実現できれば、細胞レベルの解像度で各種臓器の様々な情報を精細なデータとして取得でき、それらのデータをもとに自身をデジタル空間で再現したバイオデジタルツインの構築につながることが期待されます。 加えて、モデルから予想される各種パラメータを入力し、実際の臓器と比較したモデルの妥当性を検証する実機としての貢献も考えられます。このオンチップ型人工臓器の創製に向け、細胞の培養環境をいかに生体内に近づけられるかが課題であり、「生体に優しい材料」・「生体に近い形状」・「生体内の刺激環境を同時に実現できる技術」が求められてきました。 研究グループではこれまでに、高い生体適合性を示すハイドロゲルに着目し、3次元形状へと構造化する技術を研究してきました。ハイドロゲルは網目状の高分子に大量の水が保持された柔らかい材料であり、臓器や軟骨など私たちの体を構成する材料と非常によく似た性質を示すことから、医用材料※10や細胞培養の基材として広く利用されています。このような生体に優しい本材料の「水を吸って膨らむ」膨潤という性質と、「折れ曲がりながらはがれる」座屈剥離※11という物理現象を利用した独自のオンチップ構造形成法を用いることで、生体に類似した薄膜・管状構造へと形状制御することに成功しています。本形状を生体器官のように複雑に動かすことを実現することで、生体内の動的刺激環境をも再現可能なプラットフォームとして、オンチップ型人工臓器創製の進展が期待されます。
本研究では、「光で素早く動かせる」ハイドロゲル薄膜を設計・作製し、オンチップ構造形成法を適応させることで、光駆動型の運動素子を作製しました(図1)。細胞培養基材としても使用されている汎用的な材料である温度応答性のポリイソプロピルアクリルアミドゲルと光熱変換材料である金ナノロッドを複合化することで、光刺激箇所のみ水を吐き出させ、収縮変形させることができます。 本材料にオンチップ構造形成法を適応させることで、座屈剥離に基づく薄膜・管状構造が得られることを実証しました。こうして得られた生体とよく似た薄膜・管状構造は、光照射によって生き物のように滑らかに素早く動かすことができ、高速応答・大変形・局所応答が可能な運動素子として世界トップレベルの性能を実現しました(図2)。さらに光刺激を制御することで、腸管の分節運動と蠕動運動を、生体に匹敵する性能で再現することに成功しました(図3)。
生体器官の運動模倣が可能な高性能運動素子を作製するために本実験で用いた技術のポイントは以下の2点となります。
今回実現した高性能な運動素子は、チップ上に生体内環境を再現する基盤技術として、細胞培養と合わせることでオンチップ型人工臓器創製につながり、細胞生物学や再生医療、創薬などに役立つことが期待されます。また、今回提唱した座屈変形機構は、幅広い薄膜材料に適応可能な運動素子の作製手法としてソフトロボティクス分野での応用が考えられます。さらには、チップ上に作製した流路形状の動的制御による、マイクロフルイディクス分野での利用も期待されます。 NTTは本研究を通じて得られる多くのデータにより、バイオデジタルツインの構築・検証を進め、人々が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会の実現をめざします。
著者名 : Riku Takahashi, Aya Tanaka, Masumi Yamaguchi
タイトル: Biomorphic actuation driven via on-chip buckling of photoresponsive hydrogel films
論文誌名: Advanced Functional Materials
掲載日時 : 2023年3月16日(英国時間)