TsuKuBa 年史-TsuKuBa History -

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高可用衛星地球局構成技術(RF装置)

2019年(平成31年・令和元年)

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インフラ衛星通信システム用として今回新たに開発しました、無線信号処理装置(RF装置)内の高い保守性と可用性を有する大電力増幅部について紹介します。

(1) 開発の背景
現在、NTTグループでは通信エリアの広域性や通信ネットワーク構築の容易性等の特徴を有した衛星通信を利用し、自然災害などで一時的に避難を余儀なくされる被災地域の通信手段として災害対策衛星通信システムを、光ファイバなどの通信インフラ設備の敷設が困難な離島地域の通信手段として離島衛星通信システムを提供しています。これらのシステムを構成する装置はRF装置を備えています。今回開発した装置は、災害対策衛星通信システムの基地局及び、離島衛星通信システムの本土局と離島局用のRF装置内の大電力増幅部です(図1)。

災害対策/離島衛星通信システムのサービス概要及び、RF装置の構成

図1 災害対策/離島衛星通信システムのサービス概要及び、RF装置の構成


アンテナから衛星に向かって電波を放射するため、大電力増幅部は送信する無線信号の電力を増幅し高電力に変換します。しかしながら、大電力を使うことから故障を予防するための定期メンテナンスが必要となります。特に、離島衛星通信システムでは離島局設備のメンテナンスを行う際に作業員の渡航費や部材の運送費等で保守コストが増加することから、保守性の向上が求められます。

また、災害対策衛星通信システムでは、送信する無線信号の電力を接続端末数に応じて制御する必要があります。しかしながら激甚発生時などにおいて基地局に接続する端末数が大幅に増加する可能性があり、非常に高い送信電力が必要とされる場合があります。したがって電力増幅器には、幅広い電力増幅の範囲に対応することで端末数が増加してもサービスを継続できる高い可用性が求められます。
そこで、離島衛星通信システム用に保守性を向上した大電力増幅部及び、災害対策衛星通信システム用に可用性を向上した大電力増幅部を開発しました。

(2) 技術の概要
離島衛星通信システム用の大電力増幅部用に、定期的なメンテナンスが必要だった従来の進行波管増幅器(TWTA)に代え、定期メンテナンスが不要である固体電力増幅器(SSPA)を採用した、200W出力可能なSSPAを開発しました。4つの窒化ガリウム電界効果トランジスタ(GaN-FET)を備えることで、最大200Wまでの高出力を行うことができます。また、電力増幅器において非線形領域で信号増幅された際に発生する自帯域外への干渉を抑圧するために、SSPAの前段にリニアライザを実装しています。リニアライザによりSSPAに入力される前の信号に対して信号処理を行うことで、SSPAから出力後に発生する干渉を抑圧します。リニアライザのパラメータは、自信号と自帯域外干渉の電力比が所要値を達成するように、調整を行っています(図2)。

離島衛星通信システム用大電力増幅器の技術概要

図2 離島衛星通信システム用大電力増幅器の技術概要


災害対策衛星通信システム用の大電力増幅部として、2台の大電力増幅器を備えることで接続端末数の増加時に、2台の大電力増幅器の出力を合成することで高い電力増幅に対応可能な大電力増幅部を開発しました。大電力増幅器としてTWTAを用いており、2台のTWTA、スイッチ・電力分配器、電力合成器・位相合成器より構成されます。コントローラは、2台のTWTAおよびスイッチ・電力分配器の動作制御を行うことで2つのモードを制御します。1つは単体出力モードで、1台の電力増幅器のみで必要な送信電力を達成できる場合に使われます。この場合は1台のTWTAのみが動作し、もう1台のTWTAは故障時のバックアップとして動作します。もう1つのモードは合成出力モードで、接続端末数が多く1台の電力増幅器だけでは送信電力が不足する場合に使われます。この場合はTWTAが2台ともに動作し、各TWTAの出力が合成されて出力されます(図3)。

災害対策衛星通信システム用大電力増幅器の技術概要

図3 災害対策衛星通信システム用大電力増幅器の技術概要

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