TsuKuBa 年史-TsuKuBa History -

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分散アレーアンテナ技術

2012年(平成24年)

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衛星通信は、広域性・回線開通の容易性などの特徴を有するため、災害対策用の通信システムとして、臨時回線構築等に活用されております。NTTグループでは、災害発生時における通信インフラ復旧の初期段階において、Ku帯(12/14GHz)を利用した衛星通信システムによる避難所等に臨時回線を確保しております。
災害対策用の衛星通信地球局には運搬の容易性の観点からは、小型で軽量なアンテナを備えたものが求められますが、収容回線数を増大させるには、大きなアンテナが必要となるため、寸法・重量が増大し、運搬・設置には重機などが必要となります。
上記の課題を回避する手法として、図1に示すような複数の小型のアンテナ装置を連係して動作させ、等価的にアンテナ面積を増大させてアンテナ利得の向上を実現する分散アレーアンテナ技術を確立しました。

  1. 分散アレーアンテナ技術
    分散アレーアンテナ技術では、衛星通信の特徴である自局からの送信信号を、衛星を中継して再び自局で受信できる点(本信号成分を衛星折り返し信号と呼ぶ)を利用し、送信信号の位相校正をフィードバック制御で実現しています。このとき、衛星アンテナ入力端における、衛星折り返し信号の受信レベルが最大になるよう各アンテナ装置に接続される送信側位相器を制御することで、各アンテナの送信信号間の位相誤差を補償し、常に位相の校正状態を保持します。

  2. 分散アレーアンテナの外観  
    分散アレーアンテナの構成
    図1 分散アレーアンテナの外観
     
    図2 分散アレーアンテナの構成
  3. 実験評価
    分散アレーアンテナ技術を評価するため、Ku帯の衛星回線を使用して実証実験を行いました。図3は位相校正機能を評価したものであり、位相制御を適用・非適用時の受信レベルの時間変動を示したものです。位相制御を適用しないと、BUCの特性変動により位相誤差が発生してアンテナ利得が低下するため、受信レベルが大幅に低下していることが確認できます。一方、位相制御を適用することで、受信レベルの低下がなく、常に位相の校正状態を保持していることが確認できます。
    図4は分散アレー動作時のアンテナ利得の評価として、分散アレー動作時、アンテナ単体および1.2mアンテナのほぼ倍の利得を有する1.8mアンテナから信号を送信した時の、受信信号のスペクトラムを示しております。分散アレー動作と1.8mアンテナの受信レベルがほぼ一致していること、アンテナ単体に対して、5.9 dB(3.9倍)の受信レベルの向上することが確認できます。アンテナ装置数が2の時、分散アレー動作をさせるとアンテナ単体に対して、原理的にアンテナ利得が2倍、アンプも追加すれば送信出力も2倍になるため、合計で4倍向上することになります。本結果から、劣化は僅か0.1dBであり、ほぼ理想通りの特性を得ています。
    図5は信号伝送の実験を行った結果であり、ビットレート3.2Mbps、変調方式16QAMの信号を選択、使用しました。(a)および(b)はアンテナ単体と分散アレー動作時の復調後のコンスタレーションを示したものです。アンテナ単体では4×4の信号点を識別することができませんが、分散アレー動作時は利得向上により、十分な信号エネルギーが送信され、4×4の信号点が識別できます。また、図6は分散アレー動作時のビット誤り率測定結果を示します。変復調器単体をIF帯で有線接続して測定した時と比較して劣化がほとんどないことから分散アレー位相制御の影響がないことが確認できました。
構成機能の評価結果  
受信信号スペクトラム
図3 構成機能の評価結果
 
図4 受信信号スペクトラム
アンテナ単体のコンスタレーション  
分散アレー動作時のコンスタレーション
 
ビット誤り率測定結果
(a) アンテナ単体のコンスタレーション
 
(b) 分散アレー動作時の
コンスタレーション
 
図6  ビット誤り率測定結果
図5 信号実験結果
   

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