TsuKuBa 年史-TsuKuBa History -

  • TsuKuBa年史ホーム
  • 技術一覧
  • 年表

ミリ波帯置局設計支援ツール

2019年(平成31年・令和元年)

  • 文字サイズ
  • 小
  • 大

送受信に指向性アンテナを使用することが基本であるミリ波帯/準ミリ波帯無線では、送受信局間に見通しが無いと大きなレベル低下や回線断が生じます。これらの周波数を用いる無線局の置局設計を行う際には個別に下見を実施して設置できるかどうか判定することが求められ、設計時の負担となっていました。こうした無線設備の設計を現地に行くことなく行うことができ、最適な置局位置を判定することができる置局設計支援ツールを開発しました。

(1) 開発の背景
無線通信への高速・大容量化のニーズはますます高まっています。すでに利用が進められている低い周波数帯に対し、ミリ波帯/準ミリ波帯では広い周波数帯域幅を取ることができることから、高速な無線通信の実現が可能です。こうしたことから、5G/ローカル5G等の新たな無線システムを構築するためにミリ波帯/準ミリ波帯の活用が進められています。一方で、これらの高い周波数帯では、送受信アンテナに指向性の鋭い高利得アンテナを用いることが一般的であり、送受信局間が建物や樹木等の遮蔽物に遮られるとレベル低下や回線断が生じることがあります。

ミリ波帯/準ミリ波帯の利用

図1 ミリ波帯/準ミリ波帯の利用


このため、従来ミリ波帯/準ミリ波帯の無線設備を設計する際には個別に下見を実施して見通しの有無を判定していたため、コストがかかっていました。また、電波は見通し線を中心とした回転楕円体(フレネルゾーン)に広がりをもって伝搬することを考慮する必要がありますが、無線設計の有スキル者が不足しているためフレネルゾーンを考慮した判定を行うことができず、下見を実施して設計したにも関わらず、実際に無線設備を構築した際には通信ができなかった等、手戻りが発生することも多くありました。
今後ミリ波帯/準ミリ波帯を利用した無線設備の導入が進んでいくことが予測されることから、個別に事前下見を行うことなく置局設計を行うことができ、かつ、手戻りを抑止できる置局設計技術が求められています。

電波の広がり(フレネルゾーン)の様子

図2 電波の広がり(フレネルゾーン)の様子


(2) 主な技術ポイント ①遮蔽物を定量的に評価する技術
MMS(Mobile Mapping System)を利用して3D点群データを取得し、電柱等のインフラ点検を行う取組が進められています。このデータを活用し、フレネルゾーン内で遮蔽物が無線伝搬路を遮る割合を定量的に導出します。特に、MMSで取得した3D点群データでは、車両の走行速度や、車両と遮蔽物の距離に応じて点群密度が異なることから、点群密度に応じて適応的に評価尺度(ボクセルサイズ:体積を持つ3次元の格子の大きさ)を適応的に変更して評価することで、適切な遮蔽割合の導出を行っています。

遮蔽物を定量的に評価する技術

図3 遮蔽物を定量的に評価する技術


(2) 主な技術ポイント ②回線設計を考慮した判定技術
本ツールでは、①の技術で導出した無線局間の遮蔽割合を用いて遮蔽損失を算出し、回線設計を行って通信可否を判定しています。回線設計とは、無線局(送信側)が送信した電波が、受信する無線局(受信側)で所要受信電力より高い電力で受信できるような条件を導き出すことです。送信側から放射される電波の電力は、送信電力に送信アンテナの指向性利得を加味したもので計算されます。こうして放射された電波は空間を伝搬して受信側の無線局に到達するまでに減衰(自由空間伝搬損失)します。これに加えて、例えば建物や樹木等の遮蔽物がフレネルゾーン内に存在している場合には遮蔽による減衰(遮蔽損失)が生じます。これら全ての減衰(伝搬損失)後に到達した電波を、受信アンテナを用いて無線局が受信したときに無線局の所要受信電力より大きい電力値で受信できれば通信可能であり、小さい電力値であれば通信できないと判定します。

回線設計を考慮した判定技術

図4 回線設計を考慮した判定技術

PAGE TOP