空間分割多重技術を用いた伝送容量拡大と消費電力低減の両立

2023年(令和5年)

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本研究では、増幅用光ファイバに12コアを高密度に配置したマルチコア構造を用い、主要な通信波長帯であるC帯(波長1550nmの近傍)において世界で初めてマルチコア一括増幅による、伝送容量拡大と省エネルギー化を両立しました。
NTT持株会社ニュースリリースはこちら: https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/09/28/230928a.html

1.研究背景
光ファイバを用いた通信基盤は現代の生活において必要不可欠となっており、今後も6G無線通信の導入、動画視聴、自動運転や生成AIなどの多様なサービスの普及に伴い、データ需要はますます増加すると考えられます。このため、光通信基盤に求められる伝送容量も指数関数的に増大すると考えられており、NTTにおいても、光ファイバ通信の持続的な伝送容量の増大に向けた研究開発を進めています。例えば、マルチコアファイバなどの空間分割多重技術※1によって、今後更なる伝送容量の拡大が期待されますが、現状の光増幅方式では伝送容量の拡大に伴い、長距離光通信で必須となる光増幅器※2の消費電力も増大してしまうという課題がありました(図1)。これに対し、マルチコア構造を用いた光増幅技術を適用すると、増幅用の励起光※3を複数コアで共有できるため、既存の単一コア構造を用いた光増幅技術に比べ省電力化が実現できると期待されていました。しかしながら、後述する課題によってマルチコア増幅器を用いても期待される省電力性が得られていませんでした。

伝送路光ファイバの多心化/マルチコア化と光増幅器構成(左図)、伝送容量と消費電力の関係の概要(右図)

図1 伝送路光ファイバの多心化/マルチコア化と光増幅器構成(左図)、伝送容量と消費電力の関係の概要(右図)

2.研究概要
① 増幅用光ファイバ断面内におけるコアの面積比率(コア密度)を最大化
図2に示すように、従来の光増幅器(コア励起方式)では、コア単位で励起光を入射してコア内を伝搬する信号光を増幅しますが、今回検討した光増幅器ではクラッド励起方式という、光ファイバ断面全体に励起光を入射して断面内の複数コアを伝搬する全ての信号光を一括で増幅する技術を用いています。本方式では、1台の励起光用レーザーを複数のコアで共有できるため、消費電力が低減できると期待されていました。一方で、励起光が広く光ファイバ断面全体を伝搬するためコア励起方式と比較して信号光と励起光の重なりが小さく、励起光から信号光へのエネルギー移行効率が低く(光増幅に使用されない励起光の割合が大きく)、その分多くの励起光パワーが必要となってしまい、期待される省電力性が得られていませんでした。

コア励起方式の概要(左図)、クラッド励起方式の概要(右図、提案方式)

図2 コア励起方式の概要(左図)、クラッド励起方式の概要(右図、提案方式)

本研究で用いた増幅用光ファイバは、図3に示すように、伝送路光ファイバと同等のマルチコア配置(コア数およびコア間隔)を維持したまま、増幅用光ファイバの外径(クラッド直径)とコア直径を、それぞれ縮小および拡大することでコアのクラッドに対する面積比率を最大化し励起光の使用効率を最大化しました。

コアの面積比率(コア密度)の最大化設計の概要

図3 コアの面積比率(コア密度)の最大化設計の概要

② 光増幅器構成の最適化により励起光の損失を最小化
増幅用光ファイバのコアの面積比率を高めるためにクラッド直径を縮小したことにより、伝送路光ファイバと増幅用光ファイバとの接続点でクラッド直径が整合せず励起光の一部が損失する課題が生じます。また、従来および提案技術のいずれにおいても、光増幅に使用されず増幅用光ファイバ伝搬後に残留し、除去されてしまう励起光が発生します。本検討では、図4に示すように、テーパー構造と反射デバイスを採用することで、励起光損失および残留励起光を低減し、さらに光増幅の効率を高めることに成功しました。

  • テーパー構造 増幅用光ファイバのクラッド径縮小により新たに発生する励起光の結合損失を最小化
  • 反射デバイス 光増幅に使用されなかった励起光を再活用することで残留励起光の割合を最小化

  • 励起光結合損失および残留励起光の最小化のイメージ

    図4 励起光結合損失および残留励起光の最小化のイメージ

    以上の技術を組み合わせ、図5に示すように従来技術に比べ消費電力を67%低減できることを世界で初めて実証し、マルチコアファイバ(MCF)を用いた伝送容量拡大技術に省電力化の付加価値を見出しました。

    コアの面積比率と従来技術比消費電力の関係

    図5 コアの面積比率と従来技術比消費電力の関係

    ※1空間分割多重技術
    これまで光ファイバ1本あたりに1つであった光の伝搬を複数に拡張するための技術。例えば、1本の光ファイバの断面に光の通り道であるコアが複数あるマルチコアファイバがあり、伝送路光ファイバだけでなく、増幅用光ファイバにもマルチコア構造が適用可能です。
    https://group.ntt/jp/newsrelease/2017/08/08/170808b.html
    ※2光増幅器
    光ファイバ中を伝搬する光は距離によって減衰していきます。数百~数千kmの光ファイバ通信を可能とするために、減衰した光を増幅し次の光ファイバに中継させるための装置が光増幅器です。一般に、エルビウムという元素が添加された増幅用光ファイバ(エルビウム添加光ファイバ)に励起光を入射させることで信号光を増幅させます。
    https://group.ntt/jp/topics/2023/01/24/2023_japan_prize.html
    ※3励起光
    増幅用光ファイバ中で信号光を増幅するために入射する光です。一般的に信号光(1550nm付近)とは波長の異なる980nmの光を用います。

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