TsuKuBa 年史-TsuKuBa History -

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マルチコア光ファイバを用いた給電・通信同時伝送技術

2023年(令和5年)

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光通信技術と無線アクセス技術の進展・普及により、日常生活ではどこでも高速のデータ通信が利用できるようになりました。一方、電源供給が困難な地帯では、無線アクセスの基地局を確保することが難しく、光通信の送信器や受信器を駆動することが困難でした。また近年、大規模地震や台風などにより、広域かつ長時間にわたる停電が発生し、復旧までに時間を要する深刻な事態が頻発しています。災害発生時には、被災地域との連絡手段をいち早く確保することが重要となります。 このため、通信用と給電用の2種類の光信号を1本の光ファイバで伝搬し、無電源の遠隔地との光通信を実現する技術が検討されています。しかし、従来の技術では光ファイバの入力光強度限界により10 km以上離れた場所に、光通信装置の駆動に必要な電力を供給することは不可能でした。
そこで、10 km以上離れた遠隔地により大きな電力を供給するために、現在一般的に使用されている通信用光ファイバと同じ直径の細さで4個の光の通り道(コア)を有するマルチコア光ファイバ(MCF)を用いた給電・通信の同時伝送技術を確立しました。技術確立のための2つのポイントを以下に記載します。

① マルチコア光ファイバ(MCF)
図1にMCFを用いた光給電伝送システムの概要を示します。今回使用したMCFは、既存の光ファイバと同じ細さで、かつ各コアが既存光ファイバと同等の伝送特性を有するため、通常の光通信(光給電を必要としない光通信)にも既存の伝送装置と組み合わせて使用することができます。また、各コアが独立して(コア間で光信号の混信を生ずることなく)使用できるため、任意のコアを給電用にも通信用にも、あるいはその双方に割り当てることができます。 本検討では光給電量を最大とするため、4コアに波長1550 nmの給電用の光源を入力しました。更に、4コアのうちの2コアを用い、各コアに波長1310 nmの上りおよび下り信号を割りあてることで双方向の光通信を実現しています。また、2コアの組合せを2セット設定することもでき、これにより2つの独立した通信システムを構成することが可能です。

MCFを用いた光給電システムの概要

図1 MCFを用いた光給電システムの概要

② 世界最高の自己給電伝送能力
光給電能力は伝送距離と供給電力の積で表すことができます。本検討では、MCFの適用で単位断面積当りの供給電力を最大化し、光給電効率の劣化要因となるシステム内の戻り光を抑制することで、MCFを14 km伝送後に約1 Wの電力を得ることができました。光給電能力は14 W・kmで、これは世界トップの性能指数です(図2左参照)。 さらに、本検討では自己給電による伝送速度10 Gbit/秒の双方向光通信も実証しました。10 Gbit/秒の伝送速度は、現在、一般ユーザ用にサービス提供している光通信の最高速の伝送速度です。本検討では、2コアで上り下りの1システムの構成について検討を行い、14 km伝送後で良好な伝送特性を確認しました。伝送速度と伝送距離の積を、自己光給電伝送における伝送性能の指標と考えると、本検討では140 Gbit/秒・kmの世界最高の伝送性能を実現することができました(図2右参照)。

これにより、災害時・緊急時には、電源回復が困難なエリアに通信ビルから給電光を送出することで通信装置を遠隔駆動しネットワークのレジリエンスが向上できます。また、将来的には平時においても河川・山間部などの非電化エリアや、強電磁界や腐食などによる電化困難エリアなど、あらゆる場所への光通信の提供が期待されます。

光ファイバを用いた自己給電光伝送の実験例における、供給電力と伝送距離の関係(左)および伝送容量と伝送距離の関係(右)

図2 光ファイバを用いた自己給電光伝送の実験例における、供給電力と伝送距離の関係(左)および伝送容量と伝送距離の関係(右)

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