光ケーブル構造による空間分割多重光ファイバの伝送特性制御

2020年(令和二年)

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本研究では、同一光ファイバ内で複数種類(マルチモード)の光を利用するモード多重伝送において、光ケーブルの構造を最適化することにより、光ファイバ内を伝搬する信号光間の伝送時間差を低減することに世界で初めて成功しました。
NTT持株会社ニュースリリースはこちら:https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/03/09/200309a.html

1.研究背景
これまでNTTのマルチコア光ファイバの研究においては、現在使用されている光ファイバと同じ国際規格に準拠した細さで、1本の光ファイバ内に伝搬する光の種類(モード)を複数化したマルチモード光ファイバを進めてきました。将来にわたり増え続けるデータ通信需要を持続的に支えていくためには、マルチモード技術の活用が不可欠になると考えられます。しかし、図1に示すように、伝搬するモード間で伝送速度が異なるため、モード間干渉による時間軸上の分散が増大し、受信側における光信号の処理が煩雑になるといった問題があります。モード間の伝送速度差は、光ファイバの構造条件を最適化することで低減できますが、光ファイバの曲がりや捩れといった設置状態にも依存して変化してしまいます。このため、光ファイバケーブルおよび光伝送路全体でモード間の伝送速度差を制御することは極めて困難でした。

マルチモード光ファイバケーブルにおけるモード間干渉による分散特性の制御イメージ

図1 マルチモード光ファイバケーブルにおけるモード間干渉による分散特性の制御イメージ

2.研究概要
今回の研究では、NTTが開発した細径高密度光ケーブル※1における設計パラメータを最適化し、
1.実装される光ファイバに加わる曲がりや捩じれ状態の制御
2.低損失性とモード間伝送速度差低減の両立
の2点を可能にし、世界最小のモード間伝送速度差を有する細径高密度マルチモード光ケーブルを実現しました。

細径高密度光ケーブルは、図1の断面図に示すように、直径約10 mm程度のケーブルの中に200心(200本)以上の光ファイバを高密度に収納できる光ケーブルです。細径高密度光ケーブルには、複数の光ファイバを束ねたバンドルファイバユニットを最密構造に近い状態で充填しています。各バンドルファイバユニットは、光ファイバがバラバラにならないようにバンドルテープで束ねられており、バンドルテープの張力と巻き付けのピッチを可変することで、束になる光ファイバに加わる曲がりと捩れの状態を制御することができます。
本研究では、曲がりや捩れの影響をより顕著に受けやすい結合コア型のマルチモード光ファイバ※2を対象にし、2個のコアで2モードを伝搬可能な光ファイバを用いて検討を行いました。この結合コア型の光ファイバを張力条件の異なる状態でケーブル化した4種類の光ケーブルA~Dを作製し、ケーブルCの張力条件を用いることにより、図2左に示すように、ケーブル化に伴う損失増加を抑制しつつ、空間モード分散係数※3を、張力制御を行わない場合に比べ約60%低減できることを確認し、図2右に示すように、これまでに報告されている研究例の中で、世界最小の空間モード分散係数(1.5 ps/√km)を実現しました。

損失とモード間伝送時間差(空間モード分散係数)の張力依存性(左)、および空間モード分散係数の報告例(右)

図2 損失とモード間伝送時間差(空間モード分散係数)の張力依存性(左)、および空間モード分散係数の報告例(右)

※1細径高密度光ケーブル
https://group.ntt/jp/newsrelease/pdf/news2012/1207/120704a.pdf

※2結合コア型マルチモード光ファイバ
マルチモード光ファイバは、同一コア内で複数モードを伝搬する単一コア型と、N個のコア間結合を用いてN種のモードを伝搬する結合コア型とに分類できます。本研究では、2コアで2モードを伝搬する結合コア型のマルチモード光ファイバを使用しました。

※3空間モード分散係数
モード間干渉による時間軸上の信号分散で、距離の平方根に比例して増大します。

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