1.概要 本技術は、望遠カメラやUAVなどの各種手段で撮影したデジタル画像から点検対象である橋梁添架設備を個別に認識し、設備領域における腐食面積率を自動算出する診断技術です。この技術は、橋梁添架設備の点検診断業務における有スキル者の減少対策に効果があり、さらには一律の判定が可能なため作業者毎にバラツキがある点検品質の均一化が期待できます。
2.背景と目的 橋梁添架設備(添架管及び金物)は、ケーブルが河川等を横断するために全国約4.3万橋分設置され、これらすべてに対して点検・診断を行っています。主な点検方法は、河川や橋の下から作業者が目視で確認する方法や、足場や橋梁点検車を利用し近接して確認する方法、また、道路橋の歩道等から橋梁の裏側を覗き込むことができる特殊機材(可動アーム型撮影装置)での撮影画像から設備状態を確認しています。しかし、これらの点検方法には安全性および効率性に関するいくつかの問題があります。一般的に添架管及び金物は橋梁に添架されているため、水面から数メートルの高所に存在します。そのため近接点検時には足場や橋梁点検車を利用しますが、高所作業に伴う落下事故のリスクがあるだけでなく、足場設置や橋梁点検車の費用が発生します。また、先述の特殊機材による撮影は、点検費用が高額になる場合があります。これらの課題を解決するために近年では、Unmanned Aerial vehicle (UAV)を用いて点検箇所の画像または動画の撮影を行い、撮影画像を確認する方法が実施・検討されています。また、診断業務ではいずれかの手段で撮影された画像から目視により、設備の腐食面積率を推定しています。しかし、膨大な設備数に対してこれらの作業を人手で行うことは、作業性に問題があるだけでなく、個人差による品質のバラツキを招くという課題があります。これらの課題を解決するため、作業性・品質の向上を実現する技術の確立が必要とされています。
3.技術課題と提案技術の特徴 画像認識技術の分野では、UAVやデジタルカメラ等により撮影した橋梁の点検画像を矩形に分割し、深層学習(画像分類手法)を用いて矩形内の劣化の有無や損傷の種類を分類することにより、点検対象に生じた損傷を自動的に検出する手法が提案されています。この手法は、画像一面に点検対象のみが写っている画像に対しては十分に有効ですが、一般的な添架管及び金物の点検画像には風景などの領域が含まれており、そこに発生する誤検出の低減が必要という課題が残されていました。また、同じく深層学習を用いて画像中から画素単位で対象物を認識する手法も提案されていますが、先述の課題と同様に樹木等の添架管及び金物以外の領域を誤認識する問題がありました。 そこで、対象領域以外の領域を誤検出する問題を解決するため、添架管及び金物領域を認識し、その領域中の腐食を検出するアルゴリズムを構築し、点検対象である添架管及び金物にのみ生じた腐食を高精度に検出する技術を構築しました。この技術は2020年度に「橋梁添架設備の腐食検出技術」として研究成果を事業会社へ成果提供しております。しかし、実際の運用で添架管及び金物の劣化度を判断するには、それぞれの添架管及び金物において腐食面積率を判定する必要があります。そこで、本研究では、画像認識技術を用いて添架管及び金物をここに認識し、それぞれの設備の腐食面積率を推定する手法を構築いたしました。画像には複数の管や金物が写っているため、個別に認識することができるインスタンスセグメンテーションによる画像認識手法を構築しました。これにより、画像中に写る添架管毎に画素領域を認識することができます。その結果、添架管毎の画素領域に含まれる腐食領域を検出することで、腐食面積率を自動で推定することが可能となります。図に本技術を用いて、管路毎に腐食面積率を推定した際の様子と、実際の添架管の腐食面積率と本技術により予測した腐食面積率の検証結果を示します。実際の添架管の腐食面積率とは、撮像画像から点検員が腐食だと思う画素を塗色し、添架管毎に腐食面積率を算出した結果です。本結果が示すように、それらの相関係数は0.96であり、実地で使える十分な性能を確認しました。また、実運用での活用のために、腐食面積率を高精度に推定するために必要な画像への設備の写し方(構図)を明らかにし、実地での運用をサポートしています。
4.まとめ 画像認識による「橋梁添架設備の腐食度推定技術」により、人による橋梁添架設備の腐食判定を自動化することが可能となり、作業性と業務品質(均一性)の向上が期待できます。