NTTアクセスサービスシステム研究所では、オンデマンドにエンド・ツー・エンド光パスを提供するオールフォトニクス・ネットワーク(APN)における収容信号の拡大に向けてAPNアーキテクチャの拡張を提案し、IOWN Global ForumにおけるOpen APN機能アーキテクチャに反映しました。また、アクセスノードであるフォトニックゲートウェイを提案APNアーキテクチャに従って構築し、フィールドアクセスファイバを用いて、光インターフェイス・光クロスコネクト要件が大きく異なる100 Gbit/s DWDM (Dense Wavelength Division Multiplexing)信号光とファイバセンシング光の同時伝送に成功し、提案APN アーキテクチャの有効性を実証しました。 NTTが2019年に発表したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の構成要素の1つであるオールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、ユーザやサービスごとのエンド・ツー・エンドの光パス接続により、電力効率の向上に加えて、広帯域保証、低遅延・低ジッターな通信環境を提供します。NTTアクセスサービスシステム研究所では、これまでに、APNの入り口に配置されるアクセスノードとしてフォトニックゲートウェイを提案し(図1)、アクセスエリア内に分散する装置に対してアクセス/メトロエリアを電気終端せずに跨ぐ光パスを含めた多様な形態の光パスを提供するための必要機能を提唱してきました。また、オープンなアーキテクチャでのAPNの実現に向けて、IOWN Global ForumにおいてOpen APNの機能アーキテクチャの定義を推進してきました。これまでの取組みでは、初期には高速・大容量性を活かしたAPNサービスから展開されることを想定して、現行のメトロ/コア網を支える高密度波長分割多重(DWDM: Dense Wavelength Division Multiplexing)技術をベースとして、フォトニックゲートウェイに関する機能定義およびPoC(Proof of Concept)実証を先行して進めてきました。一方で、APNは、新たなユースケースに対応するために多様な光インターフェイス・光クロスコネクト要件を有する信号光を収容できるよう高度化することが求められます。
以上を踏まえて、NTTアクセスサービスシステム研究所では、APNアーキテクチャの拡張を提案しました(図2)。提案アーキテクチャでは、DWDM技術に基づいて波長単位でエンド・ツー・エンドの光パスを提供する既存の波長パス層の下に、波長に関わらずに通過可能なエンド・ツー・エンドのトンネルをファイバ単位で提供するファイバパス層を新たに定義します。アクセスノードであるフォトニックゲートウェイは、ファイバパス層のクロスコネクト機能FXC(Fiber Cross Connect)と、波長パス層でのアド/ドロップ機能(Add/Drop)、クロスコネクト機能WXC(Wavelength Cross Connect)を備えます。Add/Drop、WXCは、現行のメトロ網において広く用いられている伝送装置ROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)が備えるのと同様の機能です。ファイバベースのクロスコネクトモジュールは一般的に、波長ベースのクロスコネクトモジュールよりも接続間のクロストークのレベルが小さいため、ファイバパス層の設置により、厳しいクロスコネクト性能を要求するファイバセンシング光や量子鍵配送信号光などをAPNが収容可能となることが期待できます。また、ファイバクロスコネクトは波長依存性がないため、モバイルフロントホールなどの短距離のユースケースで広く用いられる非DWDMを含むさまざまなタイプの光信号を収容できるようになります。APNアーキテクチャの拡張は、IOWN Global Forumから2023年10月にリリースされたOpen APN機能アーキテクチャ文書(第2版)に反映されました。Open APN機能アーキテクチャ文書(第2版)では、波長パスサービスを提供するOpen APN波長エクスチェンジ(Open APN.WX)層の下に、ファイバパスサービスを提供するOpen APNファイバエクスチェンジ(Open APN.FX)層を定義しています。
また、提案アーキテクチャの有効性を確認するために、実フィールドに敷設されたアクセスファイバを用いた実証実験を実施しました(図3)。ファイバパス層を利用するユースケースの例としてファイバセンシングを採用し、波長パス層での100Gbit/s DWDM信号光とファイバパス層でのファイバセンシング光を干渉なく同時に伝送できることを確認しました。フォトニックゲートウェイに入力されるファイバセンシング光の光強度がDWDM信号光よりも52dB以上大きい場合においても干渉によってDWDM信号光の受信特性(BER: Bit Error Rate)に劣化が生じないこと(図4)、FXCによる反射や損失があってもファイバセンシングによるモニタリング結果である分布型音響センシング(DAS: Distribute Acoustic Sensing)データを取得可能であること(図5)の2点を確認し、これにより提案APNアーキテクチャの有効性を示しました。