宇宙空間とは?その定義から環境、そして利用の最新研究を解説
宇宙空間とは、地球の外に広がる空間のことで、一般的に、地球から100km程離れ重力が弱まった影響で大気がほとんどなくなった空間を指します。
この記事では、大気圏から太陽系や銀河まで、さまざまな宇宙環境の紹介と、宇宙太陽光発電など、宇宙空間における利活用が期待される研究状況を解説します。
宇宙空間とは、地球の外に広がっている空間のことで、一般的に、地球から100km程度離れると重力が弱まった影響で大気(空気)がほとんどなくなり、宇宙空間とみなすことができます。
このような地球と宇宙空間との境界は、大気圏と呼ばれる大気の層の中に存在します。大気圏中では、地球からの高度が上がるにつれて、空気の成分や放射線環境、温度などに徐々に変化が見られます。やがてその境界線を過ぎて、完全に地球の外側に出ると、宇宙放射線や星間ガス、宇宙塵などが存在します。
この記事では、宇宙空間にあたる大気圏から太陽系、そして天の川銀河(銀河系)をはじめとした銀河まで、さまざまな宇宙環境を紹介するとともに、宇宙空間で実現が期待される宇宙太陽光発電など、宇宙空間における利活用の研究状況を解説します。


1. 宇宙空間とは
宇宙空間とは、大きく「大気圏の高層部」「太陽系」「銀河系」「銀河系外」の4つに分類することができます。
重力が弱まった影響で大気(空気)がほとんどなくなる高度100kmから上の「大気圏の高層部」は、一般的に、宇宙空間と定義されています。
地球には約500kmにわたって存在する大気の層(大気圏)があります。下図に見られるように大気圏は、地表からの高度によって、下から「対流圏」「成層圏」「中間圏」「熱圏」「外気圏」と空気の成分や放射線環境、温度の変化に合わせて5つの層に分類されています。

「太陽系」は、大気圏の外に広がっている、太陽を中心とする地球や火星などを含めた惑星系をさします 。太陽風と呼ばれる太陽表面からのプラズマ粒子によって太陽系をほかの星などの影響から保護し、太陽の影響が支配的な空間を形成しています。このような太陽風の影響が無視できるようになる境界まで(地球と太陽の距離の150倍程度)の宇宙空間を太陽圏と呼んでいます。太陽圏には、外部からの低エネルギーの宇宙線などが入ってこられず、環境が異なるため、このように区別されています。
「銀河系」は、太陽系が属する銀河のことで、宇宙にたくさんあるほかの銀河と区別するために、銀河系と呼ばれています。
銀河は、何百万から何十億という無数の星で構成されています。銀河は必ずしも独立した存在ではなく、近隣の銀河と重力を通して影響をおよぼしあう、銀河群や銀河団も構成しています。
夜の澄んだ空では、銀河系内にある多数の星を肉眼で見ることができます。こうした星々は特にある箇所に帯状に集中しており、それが天の川のように見えるので、天の川銀河とも呼ばれています。
「銀河系外」には、銀河系以外の銀河や、銀河間空間が存在しています。銀河間の空間は極端に物質の密度が乏しいことがわかっています。たとえば、銀河内の恒星間の空間には、水素原子が1平方cmに1個程度存在しますが、銀河間の空間には1平方mに1個程度と見積もられています。
宇宙空間の温度は、平均すると約−270度ということがわかっており、ほぼ絶対零度(−273度)に近くなっています。
地球に住む私たちには想像しにくい事実かもしれませんが、地球表面が暖かいのは、主に太陽光の吸収による地表からの熱のためです。地表近くでは、熱は空気を通して伝わるので、上空に行くほど熱は伝わらず、温度が下がる傾向にあります。

高さ10kmを超えて成層圏に入ると、空気中にオゾンが含まれるようになります。オゾンは太陽からの紫外線を吸収して熱を出すため、冷えた空気は、ここで暖められて温度が上がります。そして、50kmより上の中間圏になるとオゾン層の効果がなくなってまた空気が冷えてきます。
大気圏の高層部(高度100km以上)になると、太陽光中の紫外線を吸収することで、温度が高まり、1,000度にも到達します。ただし、大気分子の密度は少ないため、大気としての熱量は低く、触っても火傷などすることはありません。大気圏を抜け出し、宇宙空間に本格的に入って行くと物質が極端に少なくなり紫外線の吸収もなくなるため、宇宙空間の温度は、−270度にまで下がります。
1-1. 大気圏と地球近傍
大気(空気)は地球の重力に引きつけられて存在しているため、上空に行くにつれて地球からの重力が弱まり、ほとんど存在しなくなります。
地球と宇宙空間の中間部分である大気圏、特に地上高度100km以上になると、空気は極めて薄く、飛行機などを支える揚力も得られないことから、実用上、宇宙空間と呼ぶことができます。
この境界線は、カーマン・ラインと呼ばれています。カーマン・ラインは、国際航空連盟によって宇宙空間と地球の境界線に採用されています。
2021年夏には、Amazon.comの前CEOであるジェフ・ベゾス氏が、宇宙飛行機ニューシェパードに乗って宇宙旅行に出かけました。この旅行では、カーマン・ラインにあたる高度100kmの領域に10分程度滞在し、無重力を楽しむ映像が公開されました我々に馴染みのある人工衛星や国際宇宙ステーションなどは、もう少し高い、高度400kmあたりを飛行しています。
1-2. 太陽系
太陽系は、太陽を中心に回る(公転する)、地球を含めた8つの惑星と、冥王星などの5つの準惑星、それらを回る衛星(月など)から構成されています。
太陽からは、太陽風が常に放出されていて、地球や人工衛星に多大な影響を与えています。太陽風は、ヘリオポーズと呼ばれる、太陽圏(Heliosphere)の境界も形成しています。なお、太陽圏の定義は必ずしもひとつではなく、ヘリオポーズ(Heliopause)の外側のオールトの雲(Oort Cloud)までを含む場合もあります。オールトの雲とは、太陽から約1光年のところを球状に取り囲んでいると推測される、小惑星や氷・塵(ちり)などが多く存在する領域のことです。
太陽系自体は、実際には太陽圏の外側にも広がっており、彗星や小惑星の一部などが太陽圏の外から来ていることがわかっています。
こうした太陽圏に対して、アメリカ航空宇宙局 (NASA)による太陽系の外惑星および太陽系外の探査計画で打ち上げた無人宇宙探査機ボイジャー1号と2号(1977年に発射)は、それぞれ2012年と2018年にヘリオポーズを通過して、太陽圏を離れたことで話題になりました。

1-3. 銀河系
銀河系とは、太陽系を含む多数の恒星を主体とする天体の集団のことです。
銀河系は薄く平らな渦巻型構造をしていると考えられており、太陽系は銀河系中心から約2万6,100光年(1光年=光が1年間に進める距離)離れた位置で、秒速260km程度で公転していることが電波望遠鏡を使った観測などからわかっています。太陽系の大きさが0.002光年程度であることを考えると、銀河系はとてつもなく広いことがわかります。
また太陽系には恒星がひとつ (太陽) しか存在しませんが、銀河系全体で考えると、数十億個もの恒星が存在することがわかっています。
銀河中の恒星の数は、一般に、星々の銀河中心に対する公転速度や、近隣にほかの銀河がある場合は、銀河間の重力による影響から見積もることができます。多くの場合、銀河の重さから予想される恒星による明るさよりも、望遠鏡で観測される明るさが小さいことが知られており、暗黒物質と呼ばれる正体不明の質量を持つ物質が、銀河中に存在することを示唆しています。

さらに銀河系の内部では、太陽系のように、恒星を中心に惑星が公転するシステムがたくさん存在することがわかっています。地球に似た惑星の探索は、地球外生命体の存在への期待などから、研究が進められています。無数にある恒星のなかには、超新星爆発などといった、人類の予想を超えるエネルギーを放出する恒星が存在します。
1-4. 銀河系外
銀河系の外には、たくさんの銀河が存在します。
銀河系から最も近い銀河の一つに、アンドロメダ銀河があります。アンドロメダ銀河までの距離は、銀河系の大きさの約25倍と見積もられており、銀河間の空間は、銀河内に比べて、極端に物質の密度の低いことがわかっています。
宇宙空間には、数千億の銀河が存在することがわかっており、そのほとんどは、近隣の銀河と重力を通して影響を与え合い、比較的に小規模な銀河群や多数の銀河の集団からなる銀河団を形成しています。
恒星と違い、夜空にぼんやりと霞んでしか見えない物体が存在することは長く知られていました。望遠鏡の発展により、それらは恒星の集団であることはわかりましたが、銀河系中に存在するのか、銀河系の外にあるのかは、数百年に渡って未解決のままでした。結論が出たのは、20世紀初頭にアンドロメダ銀河までの距離は、銀河系の大きさよりも大きいことがわかってからで、以後は銀河系外の研究が進むことになりました。
現在では、ハッブル宇宙望遠鏡などにより、銀河系外の銀河の研究や観測も進んでおり、膨大なエネルギーを放出する、活動銀河核やクウェイザー、ガンマ線バーストなど未解明の宇宙現象の研究にも注目が集まっています。さらに、打ち上げ間近であるジェームズ・ウェップ宇宙望遠鏡による観測がはじまることで、こうした研究がさらに大きく進むことが期待されています。
2. 宇宙空間の成り立ちと、我々が住む太陽系ができるまで
宇宙空間にある我々の住む地球、地球のある太陽系、そして銀河系はどのように形成され、どんな環境になっているのでしょうか。数々の研究者が長年にわたって挑戦を続けるなかで、徐々にその謎は解明されてきています。
2-1. ビッグバンによる宇宙のはじまり
宇宙のはじまりはまだ十分にわかっていませんが、大まかに下図のように進化してきたと理解されており、138億年前の超巨大な爆発現象(ビッグバン) が重要な起点であると考えられています。

少なくとも、ビッグバンが起こったであろうということは、宇宙背景放射の発見などの証拠から、多くの科学者の間で同意が得られています。また、宇宙空間が膨張していることは、1920年代のハッブルによる発見以来知られており、膨張の始まりを説明するためにも、ビッグバンの存在は不可欠です。
具体的には、ビッグバンが起こってから最初の数分間の間に、陽子やヘリウムなどの原子核が作られました。その後、宇宙が膨張するにつれて、原子核などの物質が非均一的に広がり、銀河が生まれ、さらにその中で原子核を含むガスが重力によって集まって高温となり、核融合を起こすことで星が形成されたと考えられています。
2-2. 超新星爆発による次世代の恒星(太陽など) の誕生
形成された恒星は核融合によって、さまざまな化学元素を作りだしながら燃えています。
大きな恒星は重いため、自らの重力で潰れないために、それを支えるエネルギーが必要となります。実際に、自分自身の重さにより内部の圧縮をおこし、原子核の密度と温度が高まることで、多くの核融合が起こっています。そのため、燃料となる原子を使い切るのも早く、大きな恒星の寿命は数百万から数千万年と短い傾向にあります(太陽は小さく軽いため、100億年程度)。核融合の燃料が尽きて、燃え尽きる際には、温度上昇も止まり星を支えてきた電磁波やプラズマの圧力が弱まるため、自身の重みを支えることができず、恒星の崩壊がはじまります。崩壊で内部の圧力が高まると、陽子による電子の捕獲がはじまり、中性子が大多数になります。さらに、中性子同士も圧縮され強い反発を起こします。その反発が星の内部を伝わり、超新星爆発に至ります。超新星爆発の残骸には、中性子星やブラックホールなどが残されることが知られています。
超新星爆発で表面付近から撒き散らされた陽子 (水素) やヘリウム、炭素などから、また次の世代の恒星が生まれます。爆発時に恒星の表面付近に存在するこれらの軽元素に比べ、鉄や金、鉛などの重元素は特に高温・高密度である恒星内部で生成されるため、爆発の衝撃で多くが破壊されてしまいます。ただし、生き残った一部は軽い元素と同様に、次世代の星の一部となります。太陽はこうして、最初期の恒星から数世代後の恒星として生まれたと考えられています。さらに太陽の一部にならなかった周りのガスや塵が集まって、地球や火星などの惑星が生まれ、太陽系を形成したと考えられています。
1987年に、銀河系近傍の大マゼラン雲で起きた超新星爆発からのニュートリノが地球に降り注ぎました。この粒子の観測にはじめて成功した小柴昌俊博士は、ノーベル賞を受賞しています。これらのニュートリノは、星の崩壊の際に放出されると理論的に予測されていました。
3. 宇宙進出時代に考慮すべき宇宙空間の環境

宇宙空間の環境は、惑星などと比べて、恒星による影響が支配的です。これらは惑星よりもはるかに大きく、温度も高く、外部に物質を放出しやすいためです。
恒星の爆発や、恒常的に恒星の表面から発せられるプラズマによって、電子に加え、水素やヘリウム、炭素などの原子核が放出されます。やがて冷却することによって電子と原子核が再結合し、ガスや塵となって宇宙空間を満たしています。
3-1. 恒星からの影響が支配的な宇宙空間
宇宙の高エネルギー粒子である「宇宙線」に加え、ガンマ線、X線などの「電磁波」も、恒星が作り出した電場・磁場と電子の相互作用から生まれています。
水素やヘリウムなどの「宇宙線」は、超新星爆発後の残骸で発生している衝撃波で初期的に高エネルギーに加速されます。その後、銀河空間を移動する磁気雲と衝突を頻繁に繰り返すことでさらなる加速を起こします。宇宙線粒子は(高温度や衝撃波で電離されているため+の)電荷を持つので、衝突時にローレンツ力による相互作用を受けながら、磁気雲の運動エネルギーを受け取ることで加速が起こります。宇宙線が衝撃波により大きな加速を受けていることは、2013年にフェルミ衛星に搭載されたガンマ線望遠鏡によって確認されました。
電磁波は、(同様に電離された−の)電荷を持つ電子が、電場からクーロン力や磁場からローレンツ力を受け、加速・減速を受けた際に発生します。一般に、電磁波は、電荷を持つ粒子が加速・減速するときに発生します。電子は原子核よりも数千倍軽いため、加速・減速を起こしやすく、X線やガンマ線など高エネルギー電磁波の主要な発生源となります。
こうした宇宙線やガス・塵などの星間物質は、主に水素とヘリウムで構成されています。そのほかの元素、たとえば炭素、酸素、鉄や銅、鉛などは、水素やヘリウムよりは少量ですが、恒星の内部や超新星爆発で作られ、宇宙空間に撒き散らされています。こうして作られた元素は、現在、地球で見つかり人類文明の礎となるとともに、月や火星、はやぶさ探査機で調査された小惑星などでも見つかっています。
宇宙空間や惑星は、このように、恒星から発生した電子や原子核などを含むガスや塵などさまざまな物質から成り立っています。
さまざまな恒星からの影響が入り混じった宇宙空間のこのような環境は、銀河系全体では一般的な環境であると言えます。
一方で、宇宙飛行士や人工衛星などが活動している範囲は、現在のところ地球近傍や火星などの太陽系内を中心に行われています。このような範囲では太陽単体による影響が最も大きく、太陽活動の高精度な理解と予測が必要とされています。
3-2. 太陽と太陽活動、フレアによる影響
太陽は自身の中で核融合を起こして燃えており、また太陽系内で突出して巨大なことから、地球に与える影響は甚大です。
太陽の表面からは、太陽風と呼ばれるプラズマ粒子が常に放出されています。太陽風の地球軌道での速度は400〜800km/s(時速150万~300万km)、平均約450km/sに達します。
太陽風は宇宙線と呼ぶにはエネルギーが低いため、人類の宇宙での活動に大きな脅威とはなりません。むしろ太陽系外からの流入する宇宙放射線を防ぐバリアの役目を果たしていると考えられています。
一方で、人類に影響が大きいのは、太陽フレアと呼ばれる太陽表面の爆発現象です。
太陽は、11年周期で磁場の極(北と南)が入れ替わることが知られています。この時期が訪れると、太陽活動が活発になります。太陽フレアはこの時期に頻発し、大量の太陽起源の宇宙線(太陽フレアで加速された粒子)が発生します。この宇宙線が地球近傍に到達することで、磁気嵐と呼ばれる地球の磁場が急激に攪乱される現象を引き起こし、人工衛星に搭載された精密機器の誤作動や地上の電波通信の障害を引き起こします。それだけでなく、ソフトエラーと呼ばれる半導体の誤作動を引き起こします。
太陽活動のおかげで生存している我々人類ですが、現代における人類の生活において太陽活動による宇宙線の影響は大きいため、防護技術の研究や、太陽活動を予測する宇宙天気の研究などが進められています。
3-3. 地球を取り囲む放射線帯
コンパスの針が北をさすとおり地球が磁場を持つことは知られています。
地球の磁力線は、地球外部では南極から北極へと向かっています。コンパスが北をさすのは、S極が北極にあるためで、磁力線は地球内部で、北極から南極へ帰還することで、ループを描いています。このため、極地を除く大部分では、磁力線が地平に対して並行するように走っています。
宇宙線のように、電荷を持つ荷電粒子は、磁場とローレンツ力による相互作用を起こしますが、地球に宇宙線が侵入する向きと磁力線が垂直に交わることになる極地以外の地域では、宇宙線はローレンツ力によって、弾かれ侵入が妨げられています。このように、地球の磁場は人類を含む地球で活動する生命を宇宙線から守る役割を果たしているとも言えます。
ただし、極地域の宇宙線は、磁場に巻きつき、北極と南極の間で捉われて運動しています。極地域では、磁力線の密度が高いことおよび地面に垂直に通っているため、ローレンツ力の影響が小さく、宇宙線が大気中に侵入しやすく、大気分子との衝突による発光 (オーロラ) が見られます。
磁場に巻きついた運動を続けるうちに、宇宙線はやがて赤道上空をリング状に取り囲むように広がり、放射線帯(ヴァンアレン帯)を形成しています。ヴァンアレン帯は地球に近い(2,000〜5,000km)内帯と、遠い(1万〜2万km)外帯に分かれています。内帯は陽子が多く、外帯は電子が多いことが知られており、それぞれ宇宙線起源、太陽起源と考えられています。
ほとんどの人工衛星は内帯によって大きく被曝します。このため、特に地球から遠く離れて衛星を送る際には、 ヴァンアレン帯を短時間で通過できるようなルートを選ぶようにするなど、被曝を少なくする努力もなされています。
3-4. 宇宙ゴミ(スペースデブリ)
宇宙ゴミとは、人工衛星軌道上で不要になった物体のことをさします。宇宙ゴミの大半は、故障したロケットや、爆発による破片です。宇宙ゴミは、軌道上をほかの衛星のように周回しています。秒速7〜8kmと高速で周回していて、小さい物体でも、正常な機体にぶつかると大ダメージにつながるため、衝突事故を避ける対策が進められています。主な対策はゴミの監視と削減、そして機体の衝突時の耐性向上です。削減のための技術としては、宇宙ゴミを捕獲し、減速させて大気圏に落とすなどの方法が研究されています。
4. 加速する人類の宇宙への進出と宇宙利用
昨今においては、民間によるサブオービタルの宇宙旅行が実現され、ますます宇宙への進出が加速してきています。また、人工衛星を使った通信のさらなる高度化を実現する「衛星コンステレーション」(コンステレーションは星座を意味する)の取組みも行われています。さらには、将来の政府のエネルギー政策を支える基盤技術のひとつとして内閣府の宇宙基本計画にも記載されている「宇宙太陽光発電システム」の研究も進められています。
4-1. 加速する宇宙への進出
人類がはじめて宇宙に飛ばした人工物は、ドイツが第二次世界大戦中に開発した兵器であるV2ロケットです。そして、戦後にはドイツの科学者はアメリカやソ連の宇宙開発に加わり、終戦から12年後の1957年には、ソ連のスプートニク1号が世界初の人工衛星として、地球の観測を開始しました。下図に見られるとおり、この時点では人工衛星はひとつしか存在しませんでした。

その後の宇宙への進出における主な出来事は以下のとおりです。
- 1961年:ソ連のガガーリンが人類初の宇宙飛行を成し遂げる
- 1967年:世界初の複数の衛星中継によるテレビ番組の放送開始
- 1969年:米国によるアポロ11号の月面着陸
- 1998年:国際宇宙ステーションの打ち上げ
- 2001年:民間人のデニス・チトー氏によって行われた自費による宇宙旅行の実現
- 2021年:ヴァージン・ギャラクティック創業者のリチャード・ブランソン氏とAmazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏が、民間企業のみで宇宙旅行を実現
近年では、こうした有人宇宙飛行の増加が見込まれ、また火星探査などで長期宇宙に機器を送り込む需要が大きくなっています。
4-2. 宇宙利用の推進
民間による宇宙への進出が進むにつれて、宇宙利用が年々進んできています。
たとえば、今や人類にとって人工衛星を使った通信は不可欠であり、その高速化・安定化・低価格化が重要な目標となっています。その実現に向けて、現在では衛星コンステレーションと呼ばれる、多数の衛星で構成されるひとつのシステムを形成していくことが行われています。特に、数百・数千の通信衛星によって構築されたシステムは、メガ・コンステレーションと呼ばれ、データ通信・測位などのさらなる高度化が期待されています。
こうした人工衛星が打ち上げられる地球周回軌道は、大きく3つに分類されます。
ひとつ目が低軌道です。高度2,000kmまでの軌道のことをさし、衛星の周回周期が1、2時間と短いことが特徴で、データ通信などに利用されています。メガ・コンステレーションも低軌道で計画されています。
2つ目の中地球軌道は、地上2,000kmから3万6,000kmまでの軌道です。地球から遠いため、より広い地球上のエリアをカバーすることができ、GPS(測位衛星) などに多く使われます。
3つ目は、静止軌道と呼ばれる高度3万6,000kmの軌道です。静止軌道と呼ばれる理由は、衛星が地球の自転と同じスピードで移動し、地球上から常に同じ場所に見えるためです。地球全体を見渡しやすく、放送や気象衛星に使われています。
このように人工衛星は、目的に応じて、地球からの距離の違う軌道に投入されています。そして、データ通信のさらなる高速化・安定化・低価格化と観測データのさらなる高精度化を図るため、さまざまな研究が進められている状況です。特に低コストの打ち上げが実現できれば、宇宙へより多くの機材を送り込むことができ、また宇宙ビジネスへの民間企業の参入が容易になるなどメリットが大きいため、ロケットの再利用や低価格化など、研究が進んでいます。
4-3. 宇宙太陽光発電の研究
ここまで、人工衛星を使った観測やデータ通信を解説してきましたが、そのほかの分野においても研究が進んでいます。そのひとつが太陽光を利用した発電です。
これらは宇宙太陽光発電システム(Space Solar Power System:SSPS)と呼ばれています。令和二年に発表された内閣府による宇宙基本計画にも、将来の宇宙活動を支える基盤技術のひとつとして、宇宙太陽光発電の研究開発が含まれています。また、令和元年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」でも、次世代太陽電池、浮体式洋上風力、海洋エネルギー発電、超臨界地熱などの将来期待される再生可能エネルギーのひとつとして併記をされています。
SSPSは、下図に示すとおり宇宙に巨大な太陽電池を設置し、太陽光で発電された電力をアンテナからレーザーやマイクロ波などの電磁波に変換して地球に送信します。そして、地上のアンテナで受信し電気エネルギーに変換して、電力として利用します。

宇宙太陽光発電は、地上の太陽光発電、水力・風力発電のような再生可能エネルギーを生み出す新技術のひとつとして、有効性・技術的な実現性が研究されています。静止衛星軌道上で、太陽のエネルギーを受け取ることができることから、地上に設置された太陽光発電と比べると、昼夜・天候の影響を受けにくいエネルギー源であることがメリットです。また、地球上のさまざまな場所に送信できるため、地上インフラへの依存度が少なく、被災地支援などにも役立ちます。
一方で、太陽電池パネルの大きさはキロメートル以上になると考えられているので、宇宙での組み立て技術の確立が必要です。また、巨大な太陽電池を宇宙空間にどのように輸送し、宇宙空間の厳しい自然環境に耐えながら軌道上で安定して運用するか、また得られた太陽エネルギーをどの程度高効率に地球に送信できるかなど、技術的・経済的な課題もあります。さらに、スペースデブリや太陽フレアなどによる損傷への対処や、運用終了後の廃棄や再利用方法の検討も必要になります。SSPSからの電力送信が、近い周波数帯を使ったそのほかの情報通信に影響を与えないようにすることも課題のひとつです。
このように課題はまだ残されている状況ですが、2020年5月に宇宙太陽光発電システムの宇宙空間(低軌道)での試験がはじめて行われました。取り付けられたパネルは30cm四方と小さいものですが、太陽光のマイクロ波への変換効率が測定されました。今後数年の間に、さらなる試験を行うため、複数回の宇宙空間への打ち上げが予定されています。これらの試験は、マイクロ波による電力輸送テストや、宇宙空間での熱や放射線に対する耐久試験を含み、宇宙太陽光システムの実現へ向けて飛躍をもたらすと期待されています。
5. まとめ
- 宇宙空間とは、地球から高度100km以上(カーマン・ライン)の上空に広がっている空間。
- 地球は太陽系に属するため、地球外の宇宙空間では、太陽風の影響を大きく受けている。
- 太陽圏外には、銀河系が広がっている。そこには、数十億個の太陽のような恒星が存在し、宇宙空間はその恒星から星風や爆発によって吐き出された粒子・塵・ガスで満たされている。
- 銀河系にある恒星のなかには、超新星爆発のような、希だが大規模な爆発を起こすものがある。放出された物質から、次の世代の恒星が生まれ、太陽はこのようにして形成されたと考えられている。
- 人類の宇宙進出が進む昨今、特に地球近傍での放射線環境には対策を取る必要がある。特に、太陽フレアやコロナ起源の放射線が重要なため、宇宙天気予報の研究が必要。
- 人工衛星の数は飛躍的に増えており、今後も一層増え続けることが予想されている。目的に応じて、地球からの距離の違う軌道に投入されている。人工衛星は、情報通信のさらなる高速化・安定化・低価格化を追求するため、打ち上げコストの面からも研究が進められている。
- 静止衛星軌道に巨大な太陽光発電装置(太陽電池)を投入し、電波・マイクロ波で地上送信する、宇宙太陽光発電システムの研究も進められている(内閣府による宇宙基本計画)。
参考文献
- Christopher T. Rodenbeckほか『Microwave and Millimeter Wave Power Beaming』
- National Geographic『ビッグバンは宇宙の始まりではない』
- アメリカ航空宇宙局『@nowspacetime』
- アメリカ航空宇宙局『Two Interstellar Travelers』
- 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構『宇宙太陽光発電システム』
- 宇宙教育センター『宇宙放射線』
- 宇宙航空研究開発機構『宇宙太陽光発電システム(SSPS)について』
- 宇宙航空研究開発機構『「感動駆動型宇宙利用」による社会の変革』
- 宇宙航空研究開発機構『空と宇宙の境目はどこですか?』
- 宇宙航空研究開発機構『ボイジャー1号が太陽圏を脱出』
- 宇宙航空研究開発機構『ボイジャー 太陽系を超えて』
- 宇宙航空研究開発機構『有人宇宙飛行の歴史』
- 関西大学松浦研究室『宇宙背景放射の観測』
- 国立研究開発法人情報通信研究機構『太陽フレアなど宇宙天気による社会への影響を評価』
- 国立天文台水沢『天の川銀河系の精密測量が明かすダークマターの存在量』
- 櫻井邦朋『宇宙物理学』
- 自然科学研究機構国立天文台『超高層大気』
- スティーブン・ワインバーグ『宇宙創生はじめの三分間』
- 住吉光介『基本法則から読み解く物理学最前線 原子核から読み解く超新星爆発の世界』
- 高橋昭久、日出間純、保田浩志『宇宙環境を利用した宇宙放射線研究の将来シナリオ』
- 内閣府『宇宙基本計画の変更について』
- 名古屋大学『3.大気のてっぺんは暑い?寒い?』
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