更新日:2025/09/08
本特集では、情報通信技術がもたらす未来とリスクを見通したうえで、「守る」の視点から必要な技術をそろえていくとともに、セキュリティによる新たな活動の実現を通じて社会の「発展」に貢献し、より良い未来を創ることをめざすNTT社会情報研究所のセキュリティR&Dを紹介する。

セキュリティR&Dを取り巻く環境変化とNTT社会情報研究所のチャレンジ
私たち、NTT社会情報研究所は、40年以上にわたる世界最先端の暗号研究、20年にわたる先駆的なサイバーセキュリティ研究を礎として、社会の「守り」に貢献しながら、リスクを許容できず従来諦めていた新たな活動やビジネスを具現化することによって、社会の「発展」に貢献するセキュリティR&Dに取り組んでいます。本稿では、その取り組み方針と最新の重点研究テーマを紹介します。

安全なAI利用に向けたセキュリティ視点の取り組み
大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)は、議事録作成や英語レポートの翻訳・要約などを自動化し、業務効率を大幅に向上させています。その一方で、LLMを活用したシステムには、従来のITセキュリティ技術では防ぎきれないAI(人工知能)の脆弱性に起因する脅威が存在しています。本稿では、LLM特有の代表的な脅威と、それらに対する防御手法の動向およびNTT社会情報研究所の取り組みを紹介します。

人々とAIの協調による"人々のためのセキュリティ活動"への進化
システム等をねらうサイバー攻撃は年々激化する一方、セキュリティ人材不足も深刻化していることから、AI(人工知能)による自動化を前提としたセキュリティオペレーションへの抜本的な見直しが求められています。さらに現代の情報社会では、偽・誤情報などにより人々の自律的な意思決定の維持が難しくなっており、セキュリティの対象はシステム等から人の認知へと拡大しています。本稿では、生成AIを活用した革新的なサイバーセキュリティオペレーションと人の自律的な意思決定を支えるコグニティブセキュリティに関する取り組みを紹介します。

デジタル価値社会の実現に向けて――個人起点の情報流通
個人主導の情報流通による「デジタル価値社会」の実現に向け、NTTではデジタル情報の信頼性確保、暗号化などの制御の実現、安全な活用手法に関する研究開発を行っています。情報の真正性・制御性・安全性を三本柱としてデジタルIDウォレットや分散型トラスト、秘密計算等を通じて、信頼可能かつプライバシー保護された情報活用を可能とする基盤技術の構築をめざしています。

量子計算機時代の到来を見据えた暗号研究
NTT社会情報研究所では、量子計算機時代の社会課題解決と社会変革に資する、世界トップレベルの暗号・セキュリティ技術の研究開発に取り組んでいます。本稿では、耐量子計算機暗号理論の研究や標準化、現代暗号から耐量子暗号への移行に資するクリプトアジリティ技術の研究開発に加え、暗号理論と量子情報処理を融合した新たなセキュリティ技術の研究について紹介します。