更新日:2020/07/01

    デジタルツインコンピューティングの社会的課題高橋 克巳(たかはし かつみ)
    NTT セキュアプラットフォーム研究所

    NTT技術ジャーナル2020年7月号:特集「IOWN構想特集-デジタルツインコンピューティング-」より

    デジタルツインコンピューティングの社会的課題とは

    NTT研究所では、リアルとバーチャルが融合した新しいデジタル社会の実現に向けて、デジタルツインコンピューティング(DTC)の研究開発を行っています。DTCの社会的課題は、人がリアルとバーチャルの両方で活動を行ったときに生じる不都合を起こさせない、あるいはそれをあらかじめ発見することです。現代人はリアル社会とバーチャル社会の両方で生活をしています。その両者の活動をストレスなくつなげることで、人の活動は拡張され、豊かな生活がもたらされると私たちは考えています。逆に1人の活動の中で、リアルとバーチャルの間になんらかのギャップ、例えば、バーチャルで活躍してもリアルで認められない、あるいはバーチャル活動が暴走してリアル活動が破壊される等、が存在するようであれば、個や社会にとってストレスや不安の元となる可能性があります。このようなギャップ(これを断絶したパラレルワールドと呼ぶことにします)の存在をどうやったら予見できるのかが社会的課題の本質です。さらに、それを防ぐ、あるいは被害を小さくする技術的手段を準備していくことで、私たちが掲げたDTC構想が社会的に安定した存在になると考えています。

    DTCの構成要素

    DTCでは新しいデジタル社会を実現していくために、私たちはデジタルツインの考え方を取り入れました。デジタルツインとは「実世界の対象について形状、状態、機能などをサイバー空間上に写像し、正確に表現したもの」です。デジタルツインが集まることで、仮想社会がつくられます。社会的課題を詳細化する準備として、DTC全体を次の3つの構成要素でとらえてみます(図1)。

    • データ
    • データに相互作用機能がついた自律エージェント
    • 自律エージェントの集合で構成される仮想社会

    データはモノ・ヒトを表現したものです。従来デジタルツインはモノに対して発展してきましたが、DTCが扱うデジタルツインはヒトに軸足があります。デジタルツインを単一の問題解決ではなく、社会の広さで考えようとしているため、それが汎用的で、複雑な内容を表現できる必要があると私たちは考えています。この考えで「ヒトの内面まで表現する」という目標が立てられています。
    デジタルツインは自律エージェント、すなわち自律動作するシステムを想定しています。これはデジタルツインが仮想社会での活動を強化・代行することを想定しているためです。デジタルツインはツイン間でやり取りでき(演算と呼ばれる機能を用いた相互作用として実現する)、その少なくとも一部は自律的に行われる必然性があると考えています。さらに実在しない性質を持つデジタルツインをデジタルツインが生成する(派生デジタルツイン)ことも検討しています。これは私たちのチャレンジです。また、デジタルツインはシミュレーションやその他の計算をして、その結果をリアルの対象に積極的にフィードバックさせようとしています。これはリアルとバーチャルのギャップを埋めるための役割を果たします。デジタルツインは自律エージェントであるだけでなく、フィードバックを受けたリアルのヒト・モノと一体でみると、サイバーフィジカルシステムでもあります。
    デジタルツインの集合とその活動を仮想社会と呼んでいます。DTCはデジタルツインを配置し動作できる環境を提供します。デジタルツインはヒトやモノのデータを内部に持つ自律エージェントですので、なんらかの社会が構成できます。前述のデジタルツインの相互作用だけでなく、ツインの動作環境や派生デジタルツインにも高度な機能を持たせること、あるいはさらに外部アプリケーションと連携することで、さまざまなタイプの仮想社会が構成できると私たちは考えています。

    図1 DTCの構成要素
    図1 DTCの構成要素

    社会的課題の考察

    DTCの目的はリアルとバーチャルが融合した新しいデジタル社会の実現で、リアルとバーチャルの間のギャップをつくらないこと、すなわち「パラレルワールド問題の解決」が社会的課題であると説明しました。…

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