更新日:2020/07/01

    デジタルツインコンピューティング構想中村 高雄(なかむら たかお)
    NTT デジタルツインコンピューティング研究センタ

    NTT技術ジャーナル2020年7月号:特集「IOWN構想特集-デジタルツインコンピューティング-」より

    デジタルツインとは

    実世界とサイバー空間とを結びつける「デジタルツイン」が、ICTの進展により実現され、注目されてきています。デジタルツインとは、例えば工場における生産機械、航空機のエンジン、自動車などの実世界の対象について、形状、状態、機能などをサイバー空間上へ写像し、正確に表現したものです。デジタルツインを用いることで、サイバー空間内で対象物に関する現状分析・将来予測・可能性のシミュレーションなどを行うことが可能となります。さらに、サイバー空間での処理結果に基づいて実世界の対象をインテリジェントに制御するなど、高度なICTの恩恵を実世界の対象にフィードバックさせることが可能になります。
    今後、実世界のさまざまな対象のデジタルツイン化が進むことにより、産業を超えた異種・多様なデジタルツインの掛け合わせ・相互作用(インタラクション)による大規模なシミュレーション等に対する要請が高まってくると考えます。例えば、生産機械単体から、生産ライン、工場全体、さらには流通などを含めたサプライチェーン全体の再現や、建物、道路、自動車、市民などを掛け合わせた都市全体の再現などです。しかし、現在のデジタルツインは目的ごとに作成・利用されていることから、このような自由な掛け合わせが困難です。また、ヒトのデジタルツインについては、これまでは生理学的な計測データなどによるモノ的な側面での再現が中心であり、コミュニケーションなどの社会的な行動に関するシミュレーションは困難です。

    デジタルツインコンピューティングとは

    私たちがめざす「デジタルツインコンピューティング(DTC)」は、これまでのデジタルツインの概念を大きく進展させるものであり、多様なデジタルツインを自在に掛け合わせてさまざまな演算を行うことにより、これまでになく大規模かつ高精度な実世界の再現、さらには実世界の物理的な再現を超えた、ヒトの内面をも含む相互作用をサイバー空間上で実現することを可能とする新たな計算パラダイムです(図1)。
    DTCの特長の1つとして、さまざまなデジタルツインをサイバー空間上に配置し、相互作用により全体として駆動する1つの世界、すなわち仮想社会をつくり出すことが挙げられます。多様なデジタルツインを自由に掛け合わせて分析・試行・予測などを可能とするために、デジタルツイン間の大規模かつ複雑な相互作用ための共通的な手段を提供します。また、ありのままの現実をデジタル化するだけでなく、実世界とは異なる環境条件や存在しない対象を配置した仮想社会を構成することで、例えば未来都市のデザインなど、存在しない世界での試行等が可能となります。
    DTCのもう1つの特長であるデジタルツイン演算は、デジタルツインを多数複製してさまざまな試行等に活用する、あるいは異なるデジタルツイン間で構成要素の一部を交換や融合させて実在しない性質を持つデジタルツイン(派生デジタルツイン)を生成する等、複製や加工といったデジタル性の利点を活用するための操作です。派生デジタルツインを組み合わせて仮想社会を構築することで、実世界の機能や相互作用を拡張することが可能となります。
    さらにもう1つ、DTCの大きな特長として、ヒトの内面の再現に挑戦することが挙げられます。例えば個々人の思考や判断をサイバー空間上で再現・表現することにより、ヒトの行動やコミュニケーションなどの社会的側面について、統計的に丸められた無個性な個体間の相互作用ではなく、個性を踏まえた多様性に基づく相互作用が可能となるでしょう。本特集記事『ヒトDTCの挑戦と今後の展望』で詳しく述べます。
    DTCでは、さまざまなモノやヒトどうしが実世界の制約を超えて高度に相互作用する多様な仮想社会をつくり出し、さらに仮想社会との融合により実世界が拡張・超越していきます。ヒトの活動範囲が仮想社会まで進展することによる人間の可能性の拡大、あるいは大規模シミュレーションや未来予測による複雑な社会課題解決のための社会デザインや意思決定支援など、これまで実現し得なかった革新的サービスの創出をめざしています。

    図1 デジタルツインコンピューティングコンセプト
    図1 デジタルツインコンピューティングコンセプト

    適用域とユースケース

    DTCの適用域とユースケースについて図2に示します。DTCではヒト1人を対象とするようなミクロでより深いレベルから、数人の集団、都市、国、そして地球規模といったマクロでより広範なレベルまで、取り扱うデジタルツインの規模・粒度をさまざまなスケールでとることができます。…

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