更新日:2020/06/01

    危機こそ新たな変革のとき
    世界を理解し未知なる価値を見出す川添 雄彦
    NTT取締役 研究企画部門長

    多様な価値を創出するICT基盤をめざしてNTTが掲げた「IOWN構想」。4つの主要技術を軸に2030年の実現を見据えて、研究開発に邁進しています。一方で、未曾有の事態に世界全体が見舞われた今、社会貢献を理念に掲げるNTTの取り組みに期待が高まります。NTTの頭脳ともいうべき研究企画部門が危機的状況に挑む姿勢と研究者の価値観について、川添雄彦NTT取締役 研究企画部門長にお話を伺いました。

    いかなる事態であろうが、成長の言い訳にはしない

    研究企画部門長に着任されてから2年余りがたちましたが、当初の計画に新型コロナウイルスのパンデミックはどのような影響を与えていますでしょうか。

    研究所をもっと強化し、グローバルに成長させようと、2年余り取り組んできました。こうした中で、絶え間ない技術革新をめざすIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を打ち出すことができたことは大きなマイルストーンになったと実感しています。しかし、新型コロナウイルスの影響を受け短期間で全世界が未曾有の事態に巻き込まれ、一変してしまうとは全く想像していませんでした。この渦中において、人々の価値観は今までとは大きく変わってきています。新型コロナウイルスのパンデミック前後で変化した社会を見据えて、私たちの計画してきたことはこのままで良いのか、優先すべきことは何かを改めて考えています。社内では「新型コロナウイルスの影響を言い訳にしないようにしよう」と意識を合わせていますが、経済活動は停滞し、人々は自宅にて社会活動に参画するなど、状況は一変してしまいました。その現状において、人々が幸福に暮らす新たな社会の実現に、私たちができる最善の貢献を考えていかなくてなりません。研究開発は、テーマによっては周囲の影響を受けず一途に目標に向かって突き進むものもありますが、多くの研究テーマは人類のための研究ですから、必ずや我々の生きる世界の影響を受けます。

    2011年の東日本大震災において、我々は人類の無力さを痛感しましたが、今回の新型コロナウイルスによって、我々は人類が未知なるリスクを背負う存在であると再認識しました。現在、あらゆる産業においてICTは欠かせない基盤となっていることはご承知のとおりですが、現状のICTは決して究極のパフォーマンスを発揮しているわけではありません。医療分野をはじめ、未知なるリスクに立ち向かうアビリティを、ICTでより一層寄与しなくてはなりません。現在、研究所の全研究員に向けて、自身の研究テーマは、この状況下でどうようにすべきか、変えることはあるかと投げかけています。社会の価値観が変わった今、社会は変革を求めますから、各研究テーマの価値を改めて考えるときととらえてほしいと思っています。

    1つ例を挙げると、現在、濃厚接触を80%削減してほしいと言われてきましたが、この取り組みにおいて、本当に効果が出ているか、実際に数値として証明評価できるかが重要なポイントです。現在、NTTドコモのモバイル空間統計サービスにより、地域ごとの統計値が提供されています。このサービスで人々の外出状況の日々の変化が観測することができ、一定の評価を受けています。しかし、本来は統計値だけでなく、個々の人の流れや人どうしが密着しているかを判別する必要があります。私たちはナビゲーションに役立つ技術として、クラウド処理により衛星測位システムの精度向上が可能なクラウドGNSS(Global Navigation Satellite System)技術をすでに開発しています。本技術を用いると、これまでの数メートル程度の誤差を、数10センチレベルに縮小することができますから、人々の接触距離を観測できる可能性があります。このように、技術を社会が必要とする価値に拡張可能か見定める必要があります。ただ、こうした対症療法的な考えのみではいけません。先ほどもお話ししたとおり、アフターコロナは新しい価値観が生まれてくるでしょう。私たちはいかにこの新しい価値観を把握・理解し、対応してくことを考えなくてはいけないのです。

    NTTならではの社会貢献も進んでいるのですね。
    こうした厳しい状況でもビジネスを順調に運ぶ使命を担われていると思いますが見通しはいかがですか。

    今までのような事業の進め方では上手くいかない領域も出てくるでしょう。例えば、アサインの領域、つまり、お客さまとかかわりながらその課題を理解して、お客さまのところに出向いてサービスの改善や新しいご提案をしていくことも、通常時であってもなかなか機会をつくるのが難しいですから、こうした活動は滞るでしょう。一方で、今まさにお話ししているように、テレワークの領域は非常に多くの方に求められる領域です。ただ、大きな課題としては、緊急事態宣言や自粛要請などで急にテレワークが必要となったがために、トラフィックが急増しています。バックボーンネットワークはこれに十分に耐え得る容量を確保していますが、サーバ処理限界等により一時的に重要な会議の映像・音声の品質が悪くなる事象も発生しています。こうした状況を受けて、映像配信サーバを含めた情報基盤の品質を保証することをめざすことによって、新しい事業領域が見えてくるのだろうと考えています。利便性と経済性の両立の追求を考えると、一番のツールはインターネットであり、新しい領域でもIoT(Internet of Things)を前提としています。これは皆さんも同じ認識であろうかと思いますが、その品質が均一ではないということもこの状況下で実感された方も多いのではないかと思いますから、この課題をビジネスとしてしっかり取り組んでいく必要性を強く感じています。必ずしも、NTTが儲けるという話ではなく、社会貢献を進めるという姿勢が非常に重要だと考えます。

    川添 雄彦

    IOWN構想の必要性は加速した

    こうした社会的状況の中で、中期経営計画はどのように遂行されるのでしょうか。特にIOWN構想、開催延期になったスポーツイベントへの対応についてお聞かせください。

    IOWN構想は2019年の5月に、2030年を見据えてそのときにあるべき社会を想像し、その社会を実現するためにNTTの技術開発を進めていくこととしていました。…

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