更新日:2020/06/01

    挑戦する研究者たち
    心底面白がらなければ、他者を魅了することはできない 意図的に新しい道を模索しながら成長する納富 雅也
    NTT物性科学基礎研究所
    ナノフォトニクスセンタ
    上席特別研究員

    NTTは2020年4月、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けて、具体的な技術ロードマップを策定しました。IOWNを構成する4 つの主要技術の1つ、フォトニックディスアグリゲーテッドコンピューティングは、従来のサーバボックス指向のコンピューティングインフラからフォトニクスベースのデータ伝送路に基づくサーバボックスレスなコンピューティングインフラへパラダイムシフトさせる新しいアーキテクチャとして、期待が高まります。その基本技術につながる基礎研究を行っている納富雅也NTT物性科学基礎研究所 ナノフォトニクスセンタ 上席特別研究員に、現在の取り組みと研究者としての姿勢を伺いました。

    世界中から注目を集める研究成果を 次々と発表

    現在手掛けている研究を教えていただけますでしょうか。

    現在、2つのテーマの研究を手掛けています。1つは、約10年前に実現した世界最小消費エネルギーで動作する一連のフォトニック結晶デバイスの研究をさらに進め、集積ナノフォトニクス*1による光電融合プロセッサに向けた研究です。集積回路のチップの中に光ネットワークを構築することで、処理能力、遅延、消費電力等において従来の集積回路技術の限界突破に挑戦しています。

    私たちはこれまでに培ってきたナノフォトニクス技術を駆使することで、電気消費エネルギーゼロで光・電気変換を行う可能性を持つ「ナノ光検出器」と、従来の記録の17分の1の消費エネルギーで電気・光変換を行う「ナノ光変調器」、そしてこれらの素子を組み合わせて「光トランジスタ」を実現してきました(1)(図1)。一般にプロセッサは多数の論理演算回路の組合せで構成されており、論理演算回路は論理ゲートの組合せ、そして論理ゲートはトランジスタの組合せで構成されています。「光トランジスタ」の実現に続き、私たちは「光の干渉」だけで動作する小型な光論理ゲート" Ψ(プサイ)ゲート" の低損失かつ高速な動作に世界で初めて成功し、2020年3月に論文発表しました(2)(図2)。この技術によって、単一のΨゲートだけで、代表的な論理演算(AND/ XNOR/ NOR など)が、超低遅延かつ波長無依存に実施することができ、高速な光変調器との集積により、波長チャネルごとに独立した演算を割り当てること(波長分割演算)が可能になります。こうした演算回路をはじめとするさまざまな要素を協調させることで、初めて具体的な機能を持つ低遅延かつ低消費電力な光電融合プロセッサとなります。

    そして、もう1つのテーマは、さらに基礎的な研究ですが、「新しい光物性」の研究で、一部で私自身が兼務している東京工業大学の研究室との共同研究も行っています。

    近年、カーボンナノチューブをはじめとするナノスケールの新しい材料(ナノマテリアル)が発見されており、多彩な機能を持つことが判明しています。それに、ナノフォトニクス技術を適用し、光との相互作用を発生させることで、さまざまな新しい現象が発見されています。例えば、シリコンフォトニック結晶*2の近くにInAs/InPナノワイヤを置くだけで、その場所に光共振器が発現します。波長以下のサイズのナノワイヤを用いることでレーザ発振にも成功しました。また、優れた非線形光特性を有するグラフェン*3と、プラズモニクス*4の原理を応用した極めて小さなナノ光導波路とを結合させることで、ピコ秒以下の超高速領域で動作する全光スイッチを低消費エネルギーで実現することに成功しました(3)(図3)。さらに、固体のトポロジー理論*5を光学に適用した「トポロジカルフォトニクス」は光学の新分野であり、まだ何ができるのか分からないほど新奇な物性が期待されていますが、電流注入により光トポロジカル絶縁体ができることの理論的な発見も行いました。まさに、何が発見されるのか分からない「新しい光物性」という基礎研究です。

    私たちのこれらの研究は、2020年4月に発表された「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた技術開発ロードマップ」の4つの主要な研究開発のうち、「多地点、超高速、低遅延クラウドコンピューティングの実現」の将来像に貢献するもので、複数のデータセンタがシームレスにまたがったクラウドコンピューティングインフラを実現するため、オールフォトニクス・ネットワーク上の通信の高速性、低遅延性を活かした高速分散コンピューティング方式にかかわる基礎研究を担っております(4)

    1. *1ナノフォトニクス:ナノメートルスケールにおける,光の動作や物体と光の間の相互作用。
    2. *2フォトニック結晶:物質中の光の波長と同程度の周期で、屈折率が人工的に変調された構造さまざまな新奇な性質が発現し、光を強く閉じ込めることができます。
    3. *3グラフェン:原子1個の厚みで六角形の格子状に並んだ炭素。強度と硬度が高く、室温で他のいかなる物質よりも速く電子を流す特性があります。
    4. *4プラズモニクス:プラズマ振動の量子であり、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態である表面プラズモンを制御して、ナノ回路への光の伝搬や、波長よりもはるかに小さな空間に光を閉じ込めることができます。
    5. *5トポロジー理論:トポロジーと対称性がもたらす物性。
    図1 超低静電容量光電変換技術で実現した光トランジスタの構造図
    図1 超低静電容量光電変換技術で実現した光トランジスタの構造図
    図2 光の干渉を用いた光論理ゲート
    図2 光の干渉を用いた光論理ゲート
    図3 グラフェンを装荷したナノ導波路による全光スイッチ
    図3 グラフェンを装荷したナノ導波路による全光スイッチ

    面白い種を見つけ、面白がる。「本物であるか」にこだわる

    研究をする際に大切にしていることを教えていただけますでしょうか。

    私が研究をする際に一番大切にしていることは「面白いかどうか」です。例えば、ナノフォトニクスも研究を始めた当時は見えなかったことも、突き詰めていったからこそ応用先も見えてきました。…

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